第2話
「きゃあああああああああああああああああああああああああカッコいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
教室で一人の女子生徒が叫ぶ。
「まーた美樹が騒いでる」
「聞いてやれよほら、喋るチャンスだぜ」
「は、はぁ?別に俺はあいつと喋りたいわけじゃーー」
「聞きたいか男子共!!」
男二人組に美樹と呼ばれた少女が突撃する。
「これは、今メチャクチャノリに乗ってるサトュンって配信者なんだ!!」
「聞いてねぇから」
「へぇ、どういう人なの?」
「おい和人」
「よくぞ聞いてくれました!!」
「ほら、また始まった」
美樹はかなりデコレーションに富んだ携帯を二人に見せる。
「主な動画は歌ってみたなんだけど、時々ゲリラで始める雑談の内容が私達みたいなオタクに共感できることばっかで凄く面白いの。ゲーム配信とかもかなり上手だから見てて気持ちがいいし、とりあえずどこを取っても最高!!」
「どうせ今だけだろそんな奴」
「はぁ、これだから大地は時代の波に乗れないんだよ」
「うっせぇ」
「美樹さんも好きなの?」
「もっちろん!!声がイケボ過ぎてヤバいの。マジで今の私の最推し!!私将来サトュンの結婚するんだ!!」
「……はん!!どうせリアルはブスだろそんな奴」
「あ?フツメンだからって妬みは酷いよ大地」
「フ、フツメンで悪かったな!!そういうお前こそ別に可愛く……可愛く……」
「な、なに急に」
「ハハ、大地は照れーー」
「黙れ和人!!」
教室でワイワイと騒ぐ三人。
すると教室の扉が開く。
「先生、ここでいいですか?」
「ああ、いつも助かるよ」
一人の少女が教師と思わしき人物といくつかの教材を持って入ってくる。
「ほら、本当に可愛い人の登場だ」
「何?私が可愛くないってこと?」
「さぁな」
「あぁ、もうムカつく!!私あっち行くから。そんなんじゃ一生彼女出来ないよ!!」
「あっ……」
「フラれたね」
美樹は教室に入ってきた一人の少女に抱きつく。
「わ!!美樹ちゃんどうかした?」
「大地が意地悪してくるんだよー」
美樹はわざとらしく鳴き真似をする。
「また美樹ちゃんが変なことしたの?」
「違うよ!!」
「そうなの?でも大地君も悪気はないと思うよ?」
「そうかなぁ……大地、私のこと嫌ってない?」
「大丈夫。大地君も美樹ちゃんのこと大好きだよ」
「……うん、信じる。あ、そうだサトュンが新しい動画出してたよ」
「ホント!!」
美樹は携帯を少女に向かって見せる。
『推しの顔を何回見たか?んなもん親の顔より見たよ。ちなみに俺の親はノックもせず顔を見せにくる曲者だが、それすらも超えるよ』
その声を聞き、少女の顔は
「本当にサトュンのこと好きだよね」
光って
「うん、好きだよ。なんだかこの人、私の知ってる人みたいで凄く……なんていうか……」
「もしかしてそれって……好きな人?」
「え?…………え!!そ、そんなんじゃないよ!!」
「まさか光好きな人出来たの!!」
美樹の叫び声にクラスの目線が一斉に集まる。
光はその視線に気付き一気に顔を赤くする。
「ち、違うから!!本当の本当に違うから!!」
「え〜ホントかな〜。怪しいぞ〜」
「本当に本当!!ただの友達というか……とりあえず違うから!!」
「冗談だよ冗談。ほら、男子散れ散れ、あんたらのアイドルはまだまだ現役だよ」
美樹はシッシと犬でも扱うように手で払う動作を取る。
すると男子生徒はいそいそといつもの日常への姿を変えた。
「うーん、光も可愛いんだから、顔出し配信でもすれば多分凄いよ!!がっぽがっぽだよ!!」
「私は……あんまりそういうのは興味ないかな。それに配信なんてしたらお母さんに怒られちゃうし」
「……そっか。でももし始めるなら言ってね。パパに頼んでバレないように細工するから」
「うん。その時はよろしくね」
それと同時に予鈴が鳴る。
「座ろっか」
「そうだね」
光は授業をしながら外を覗き込み
「いつか……会ってみたいな」
小さく呟いた。
◇◆◇◆
私の名前は紲星光。
ただの、本当にどこにでもいるような学生。
ただ普通とほんの少し違うことがあるとするなら
「配信者ってことですね」
私はドヤ顔で画面の向こうにいる人に話しかける。
すると
『ドヤ顔可愛い/ヒカリすこすこ侍』
少しヘンテコだけど、楽しげな返事が返ってくる。
「そういえば今日はヒカリ大好きBOTさんとヒカリは僕の嫁さんはいませんね」
本来名前を出すのはいけないことだけど、私の配信はこの三人以外に見たことがない為、なんだかいつの間にか名前で呼び合うのが当たり前になってしまった。
『愛のない奴らだ。俺は例え世界が滅びようともHikariの配信を見に行くね/侍』
「多分その時は私は配信してないと思いますけどね」
少しだけ気まずい時間が流れた。
「あ、そういえばですね」
私は話題を変える。
「侍さんはサトュンさんって知っていますか?」
いつもは質問をすると必ず十秒以内にコメントが来るけど、なぜか一分程待ってもコメントは表示されなかった。
「あれ?壊れてるのかな?」
あまり機械に詳しくない私は少しだけドキドキする。
もし壊してしまったらと思うと
『いいのよ。ただ、お母さんがどんな思いでもう一度買うのか、よく考えてちょうだい』
少しだけ、怖い。
そんな私の不安を消すように
『知ってます/侍』
コメントが流れる。
よかった、壊れてなかった。
でも
「侍さん?」
いつものような陽気さは無く、どこか心ここに在らずな言葉。
何かあったのかな?
「えっと、そのサトュンさんがどこか侍さんと似ているんですよ。普段は落ち着いているのに、好きな話題になると凄く元気になるところとか」
私はサトュンさんと侍さんの共通点を上げる。
『やめて/侍』
ん?
『やめて下さい/侍』
……もしかして侍さん、サトュンさんのこと苦手?
「ご、ごめんなさい。勝手に盛り上がっちゃって……」
反省する。
いくら人気の人でも、誰かに嫌われていることはある。
私の好きな人が、誰かにとっての嫌いであることだって大いにある。
それなのに私は
『大丈夫/侍』
そんな私の心を悟ったような言葉がコメントに流れる。
『苦手ではあるけど嫌いじゃない。それに、俺は楽しそうに喋るHikariを見に来てる。だからどうか、好きなことを好きなように喋って欲しい/侍』
私の胸に響いた。
あぁ、そうだ。
私が配信者を始めた理由は、誰かに好きなことを話したいからだった。
「あ、ならサトュンさんの話の続きですが」
『それはもう少し勘弁して下さい/侍』
「そうですか?」
◇◆◇◆
「新たな発見、侍さんはサトュンさんが苦手」
私は配信を閉じる。
部活に入部していない私にとって、帰ってからの配信はいつも心待ちにするくらい素敵な時間となっている。
「明日は何を話そうかな」
配信を始めた癖か、こうして独り言や何か面白い話がないかと探すようになっていた。
自分のことをプロだなんて全く思っていないけれど、こうして配信が生活の一部に溶け込んでいると思うとなんだが色んなことが楽しく感じてくる。
「あ、そうだ。明日は昨日あったーー」
「ただいま」
ドクン
「……」
心臓が波打つ。
「……おかえりなさい」
私は母親のいるリビングに向かう。
「ただいま光。少し手伝ってくれる?」
「うん、分かった」
私は袋の中身を冷蔵庫に入れていく。
「……またお酒?」
「しょうがないでしょ。せめてお酒くらい飲ませてよ」
そう言いながらお母さんは早速とばかりに蓋を開ける。
「お母さんはね、光みたいに勉強出来なかったからこうして苦しい生活をしてるの」
「……」
始まった。
お母さんはいつもこうして、昔の自分と今の私を比べる。
別にありふれた話。
多分どこの家も、こうした話は沢山あるのだと思う。
「光は恵まれてるの」
「いつもありがとう」
恩を着せるように
「勉強出来るのに」
それは努力してるからで、私は必死に食らいついてるだけ。
「せっかく可愛い顔に生んであげたのに」
誰も頼んでない。
「将来はあなたが私を助けてよ」
「……うん。頑張るねお母さん」
「光はいい子ね」
いい子ってなんだろう。
自分を投影しただけの理想ではないの?
「ほら、もう直ぐ塾の時間でしょ。せっかくお母さんが一生懸命稼いだお金なんだから、無駄な時間は過ごさないでね」
「ありがとうお母さん。じゃあ私行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
私は道具を持って飛び出るように家を出た。
普通の親。
世間で言えば私の親は至って普通なお母さん。
それなのに私は
「息苦しい」
そんな考えを頭から消し去る。
ただの思春期の気の迷いだと
そんな小さな事に文句を言うなと
だからこそ私は不自由だ。
あー速く
「配信がしたいなー」
『へぇ、じゃあ花音ちゃんは最近そう言った配信者を見てるんだね』
『そうなんです〜』
近くでとある映像が流れていた。
「あ、可愛い」
私の目に映ったのは、今話題の売れっ子アイドル。
1000年に一人の逸材と言われる程、歌もダンスも上手で可愛い。
しかも演技力が凄くて、相手を罵るような演技は普段とのギャップも相まって凄くカッコいい。
「私とは、一生縁のない人なんだろうな」
私はどこにでもいるただの学生。
何の特別も持たない一般人。
でもいつか
「面白い事、起きないかな〜」
楽しいこととでいっぱいの日々を送りたいな。
推しとコラボするために配信者始めたが、有名になり過ぎてしまった件 @NEET0Tk
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