第10話
「それ、本気で言ってるのか?」
「もちろん、優遇するわ。 なんなら役員でも良いし、それだけの価値があるわ。」
真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
急な出来事に暫し動揺していると、畳み掛けるように麗奈が口を開いた。
「うちの隊員でも、ゴブリンはともかくオーガの群れを1人で討伐なんて誰もできないわ。 そのレベルになると、部隊を編成して行ったとしても犠牲者が出るの。 それをソロ討伐できるなんて、そんなの他所に渡したくないわ。」
急なオファーにたじろいでいると、そっと方に手が置かれる。
ふと右を見るといつものローブ姿でリッちゃんがサムズアップしていた。
『もし入るなら、会社でエロい事し放題っすウボァ!?』
ついぶん殴ってしまった。
反射的に拳が出てしまったが、これは仕方ないと思うんだ。
床で悶絶してるリッちゃんを横目に、ワインを1口。
今度は俺が思案する番になった様だ。
暫く熟考するも、中々答えは出なかった。
「急にごめんなさいね、返事はまた今度で良いわ。 それまでゆっくり考えて頂戴。」
「……そうだな、また今度返事させてもらうよ。 っと、もうこんな時間だし、今日の所はお暇させてもらおうかな。」
気付けば時刻は午前2時を回っており、これ以上の夜更かしは明日のダンジョン探検に支障がでる。
この力を早くモノにする為に、なるべくダンジョンには潜りたい。
ゆっくりと席を立つと、玄関まで見送りに来てくれた。
「泊まって行っても良いのに。」
「……それは、またの機会で。」
「そっか。」
「あぁ、今度会う時には返事するよ。 仕事の事も、プライベートの事も。」
「……ふふっ、いい返事期待してるわね。」
「それじゃ、また。」
玄関の扉をしめ、少し覚束無い足取りで家へ帰る。
いつもの安いアパートはどこか懐かしく、安心感があった。
夜遅い事もあり、布団にダイブするとすぐに眠りについた。
翌朝目を覚ますと、味噌汁の匂いがした。
アルコールの残った頭をおさえながら体を起こすと、昨日のエプロンをしたリッちゃんが料理をしていた。
『あ、おはよっす! もうすぐご飯できるっすよ〜!』
「あぁ、ありがとう。 ちょっと顔洗ってくるわ。」
『は〜い、タオル出してるんでそのまま行ってください。』
「ありがとう。」
顔を洗い歯を磨き、リビングへ戻ると日本の朝食がテーブルに並べられていた。
『ちょうど準備できたっすよ、たんと召し上がれ♡』
「すまんな、頂きます。」
味噌汁を1口、うまい。
出汁もちゃんと取れている。
焼き魚の焼き加減も絶妙で、ふっくらした身にほんのりと優しい塩加減だった。
卵焼きもふっくらとしており、普段は食べない甘めの味付けも相まってご飯がすすむ。
あっという間に目の前の料理を平らげると、リッちゃんは満足げに頷いた。
そこで俺は、正気に戻る。
「いや、なんでリッちゃん家事してんの。」
『ふふん、実は家事得意なんすよ!嫁にしたい
「……まぁ、美味かったからいっか。 ご馳走様。」
『はい、お粗末様っす。』
テキパキと慣れた手つきで食器を片付けるリッちゃんを尻目にダンジョン探検の準備を進める。
着替え終わり、ベランダで一服していると、洗い物を終えたリッちゃんがひょっこり現れた。
『洗い物も終わったんで、何時でも出れるっすよ。』
「ありがとな、それじゃ行くか。」
玄関に施錠をしたことを確認し、ダンジョンへと向かう。
外は人が多く居る事もあって、無言で歩き続ける。
暫く歩くと、目的のダンジョンへと辿り着いた。
入場手続きを済ませて中へ入ると、早速モンスターが現れた。
『コボルトっすね、サクッと片付けちゃいますか。』
「あぁ、よろしく頼む。」
『はいは〜い。』
軽い返事で鎌を振り下ろすと、コボルトの首がストン、と落ちた。
この光景も見慣れたもので、すぐに魔石を回収する。
『にしても歯ごたえ無いっすねぇ、今日中に攻略してしまうっすか?』
「いや、攻略するにしても食料とか準備してないからな。 それに、出来たら今日は戦い方を教えて欲しいんだ。」
『戦い方っすか? う〜ん、うちは鎌振ってるだけっすからねぇ、とりあえずこれで次出てきたやつ刈って下さい。』
そう言って持っていた鎌をこちらに差し出してきた。
その鎌を受け取ると重さを全く感じず、軽く振ってみると何故か扱いやすかった。
こんな大鎌はもちろん、刀や剣すらまともに振るったことがないのに、何故かしっくりときた。
『お、ちょうどあそこにゴブリンが居るっすよ。』
「腕試しにはちょうど良いな。」
息を殺しゆっくりとゴブリンに近づき、鎌を振り下ろす。
すると、まるでバターでも切るかのように為す術なく真っ二つになった。
それからというもの、モンスターを見つけては刈り見つけては刈り、お陰で鎌の扱いはかなり上達したと思う。
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