第5話
「え……」
驚いたのはゴブリンにではなかった。
ゴブリンの後ろに佇む、襤褸いローブを着た骸骨に驚いたのである。
大きな鎌を持つその姿は正に死神、そして、その大きな鎌を振りかぶり、嘲笑っていたゴブリンを真っ二つにした。
次は俺の番かと目を瞑り待ち構えるが、一向に何かをする気配がない。
恐る恐る目を開けると、その死神は俺に向かって傅いていた。
そして地獄の底を連想させる程の低いこえで、こう言った。
『ゴ命令ヲ。』
「ご命令をって、なに、お前は一体?」
『ゴ命令ヲ。』
「じ、じゃあ俺を守ってくれ。」
『畏マリマシタ。』
よく分からないけれど、味方って事でいいんだろうか。
背後からバッサリとか嫌だなぁ。なんて考えてながら歩いて行くと、またもやモンスターに遭遇した。
よく見覚えのある姿に苛立ちと恐怖心が湧き上がる。
「なぁ、アイツ《オーガ》らって倒せるか?」
『無論デ御座イマス。 処理シマスカ?』
「頼むわ。」
瞬き1つ、その一瞬でケリは着いていた。
首が撥ねられたオーガの死体からは、噴水の如く血が出ており、その中で返り血ひとつ浴びずに佇む死神に戦慄する。
死体の傍に落ちていた魔石を拾いながら問いかけた。
「お前は一体、何もんなんだ?」
『私ハ主ノ下僕デ御座イマス。』
「主ってのは俺の事か?」
『ハイ。 冥王様ノ手トナリ耳トナル存在、
「冥王って、あぁ、スキルの……」
どうやら俺の得たスキルは未知がいっぱいらしい。 しかし、どうやらハズレという訳では決して無さそうだ。
「くはっ、はは! 良いな、お前! 最高だよ!」
こんな強い戦力が味方になるとは思っても見なかった。
これなら深層まで、いやさ、最奥のボスまで倒せるかもしれない。
「まっ、何はともあれ宜しくな、リッちゃん!」
『リッチャン?』
「リッパーだから、リッちゃんな。あともっと砕けてくれてもいいよ。 堅苦しいのは性にあわん。」
しばらく1人で高笑いしていると、見知らぬ女の声が聞こえた。
『いやぁ話の分かるマスターで良かったッス! 堅苦しいのウチも苦手なんスよー!』
「は?」
『ん? どーしたッスか?』
可愛らしい声が聞こえる。
しかも、目の前の骸骨からである。
「ん? 今の声って、もしかしてリッちゃん?」
『そうッスよ? 他に誰も居ないじゃないッスか!』
「嫌なんでそんな萌ボなんだよ! さっき迄のくっそ怖ぇ低音ボイスどこいったよ!?」
『あんなのキャラ作りに決まってるじゃないっスかー! でも、ぽかったッショ?』
何だこの骸骨ノリが軽いにも程がある。
でも、堅苦しいのよりかはこっちの方が気は楽か。
気を取り直して歩みを進めると、不思議な程モンスターと遭遇しない。
「なんか、こんなにもモンスターと遭遇しないなんておかしくないか?」
『んえ? いやいや、近づいて来たヤツらはこっち来る前に全部ぶっ殺してるんで。 マスターの身はウチが守るッス!』
「は?」
『ウチって出来る子っすねぇ♪ いっぱい褒めて下さいッス!』
「おすわり。」
『ほえ?』
「おすわりッ!」
『ハイッス!』
リッちゃんの言葉に頭を抱えた。
そりゃ身の安全は1番だけど、それならダンジョンに潜らない方がよっぽどいい。
「あのね、身の安全は大事だけど、そのぶっ殺したモンスターさんはどうしてるの?」
『え? どうもこうも、放置ッスね。』
「このおバカ! 魔石を拾わねぇと来た意味が無いでしょ!」
『えぇ……』
ダンジョンでは倒したモンスターが魔石を落とす。 その魔石が主な収入になるのだ。
低級なモンスターが落とす魔石1つでも、数万はしてくるのだ。
それを、それを……っ!
「はぁ、これからは回収出来るようにやってくれ……」
『申しわけないッス……』
そんなやり取りをしていると、この階層のボス部屋へと辿り着いた。
一際大きな扉をゆっくり開けると、仁王立ちするオーガキングとその周りにはオーガの群れ。
大きな部屋をビッシリと埋めつくしていた。
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