ダンジョンのある日常。

そーし

第1話


ダンジョン


それは突如現れ、人々の恐怖と欲を駆り立てた。

ある者は魔物に襲われ命を落とし、ある者は数々の苦難を乗り越え、富と名声を手に入れた。

ダンジョンが現れてから10余年、人々はダンジョンを中心とした生活に変わっていた。

ダンジョンで手に入れた物は高値で買われ、中でも【スキルの書】を手に入れれば一生遊んで暮らせるという。

そして、何の因果かそれ《スキルの書》が今、自分の目の前にあった。



「なんて言ってたっけ、不幸中の幸い?いや、 漁夫の利かな。まぁ、そんな事はどうでもいいか。 」


目の前には開かれた宝箱、後ろには自分を血眼になって探している化けオーガ達。

さっさとこの場からトンズラして、スキルの書を売っぱらいたいところだが……そもそもこの場からの脱出はほぼ不可能だ。

さっきまで仲良く話してた冒険者も、俺以外は奴らの腹の中。

スキルの書を暫く見つめて、ため息を零す。


「ったく、命あっての物種だしな。 せめて、この状況を変えれる位のスキルでありますよーに!」


そう言ってスキルの書を開くと、眩い光が溢れ出した。

あまりの眩しさに蹲り、暫くして視力が戻ると手元の書に文字が書かれてた。




ーーー

『ーー』


1 このーーーは、使用者のーを代償にーーへと覚醒する


2 使用者は、総てのーーを支配する


3 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「んだよ、これ、大事なとこが読めないじゃないか!」


スキルの書の中にも、勿論ハズレは存在する。

何の役にも立たないスキルや、今手元にあるスキルの様に、読めず、分からず、使えないスキルである。


そして、先程の光のせいで、気が付くとオーガの群れがすぐ後ろに迫っていた。

凶悪な顔で、ヨダレを垂れ流しながらこちらを見据えている。

冷や汗が地面に落ちると同時に、考えるまでもなく走り出した。


「なんで! 俺だけ! こんな目にぃぃい!」


息も忘れるほど、無我夢中で走った。

されど、現実は非常である。

どれだけ早く走れども、あっという間に捕まった。

人間と化け物、そこには覆せないほどの大きな差があった。


『ぐおおおおお!!!』

「うがぁぁぁあああああ!!!!!」


俺を捕らえたオーガは、足を掴み骨を折った。

次に肩を掴み、腕を引きちぎった。

大量の血が失われたせいか、とても寒く感じる。

体温と意識が奪われそうになる中、このどうしようも無い現実に、あの大はしゃぎしている化け物に怒りを覚えた。


「ぐぞっだれ……ごろず……じねぇ……ぐぶっ……」


段々と視界から光が無くなり、五感の全てが失われる。

恨み言を吐き捨てながら、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。



『条件が満たされました。 【冥王】が覚醒されます。』





「……ぃ、……か。」


誰かに、呼ばれている気がする。

重い瞼をゆっくりと開けると、爽やかな笑みを浮かべた中年の男が目の前にいた。


「大丈夫か?」

「……んっ、あれ、なんで。」

「よかった、意識が戻って。 この指は何本に見える?」

「……2本。」

「よし、大丈夫そうだな。 "こんな所"で倒れてるから、死んでるのかと思ったよ。」


男は優しい笑みを浮かべ、安堵のため息をついた。


「とりあえず、ここは危険だから移動しよう。 血の匂いに何が寄ってくるか分かったもんじゃないからな。」

「危険……血……?」


ゆっくりと辺りを見渡すと先程まで襲われていたオーガが地に伏せていた。

その死に方は様々で、斬殺、撲殺、圧殺、溺死、普通ではありえない死に方であった。

そして、ふと足元を見てみると折られたはずの足が、千切られた腕が何事も無かったかの様に治っていた。


「一体何が……?」

「どうした? 早く行くぞ。歩けないなら肩貸そうか?」

「あ、いえ、大丈夫です。」

「そういえば、自己紹介がまだだったな。 俺は田辺 《たなべ》 やすし42歳、 宜しくな。」

八代やしろ かおるです。21歳です。」

「21歳か、うちの娘と同い年だな。 」

「娘さんが居らっしゃるんですね。」

「あぁ、親バカと思われるかも知れないが、とても美人な子だよ。娘も冒険者なんだが…………」


他愛もない話をしながら出口を目指す。

不思議な事に、道中で魔物と遭遇することは無かった。

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