第25話 記録

「失礼します、ロニーとレイチェルです」

ロニーとレイチェルは部屋の前に立つ。

「お入りください」

「失礼します」

二人は言われた通り部屋へ入る。


「お呼びして申し訳ないですね」

「いえ。どうしたんですか?」

「実は、ある事例の古い記録が見つかったのです!」

「そ、それは……!?」


ロニーもレイチェルも同様が隠せない。

「30年ほど前の記録ですね……、異世界からこちらへとやって来たものがいるようですが……」

女王ははっきりと言わずに言いよどむ。

「ようですが……とは?」

「どうやら、記録上どこから来たか、さらに今はどうしているか、ということは分からないのです」

「そうなんですね……」

レイチェルは困り顔で言う。

「手掛かりが得られたと思ったんだけど……」

ロニーの言葉に、女王はうつむく。

「申し訳ないですね……」


「失礼します、女王陛下」

「あら、ルーテではないですか……!」

「少し、話をさせていただいてよろしいですか? もちろん、ロニーとレイチェルにも聞いてもらいたい」

「ええ、もちろん構いませんが……」

「恐れ入ります」

ルーテは恭しく頭を下げた。


「……本当は話すべきか、かなり悩んだことではありますが話をさせていただきます」

ルーテは自分の髪に触れる。


「髪の色が……!」

レイチェルは驚く。

ルーテの濃い茶色の髪が、薄い金髪に代わっていた。


「自分の母が、異世界から迷い込んだものです」

「あなたの母が?」

女王は本当に知らなかったようだ。

「ええ。自分は孤児院で育ちました。母は、自分を生むと同時に落命、父も分かりません」

「そうだったのね……」

レイチェルは同情的に言う。

「この髪は、特殊な薬で今まで茶色に染めておりました。ハーバティの人々はほとんどが茶色い髪をしているから、その方が気兼ねなく過ごせるだろう、と」

「だから、あの時少し髪色が違って見えたんだね……」


ロニーは髪を指摘した時のことを思い出す。

「ああ。……だが、そのおかげで話す決心ができた。ロニー、ありがとう」

「いや、僕は何も……」

「アンタが指摘しなかったら、俺は何も言わなかったさ」

ロニーは照れて笑った。


「それで、母の遺品から日記を見つけ、自分のその時に異世界の人間とハーバティのハーフだということを知りました」

「その異世界と言うのは……」

ルーテは一瞬言葉に詰まる。


「アローニ、そう日記に書かれていました」

「アローニ……!!」

「僕たちと同じじゃないか!」

ロニーとレイチェルも動揺する。

「まさか、アローニから異世界へと来ていた例があったとは……、初めて知りました。こちらの記録は、どこから来たかは不明とありましたから……。」

「自分は……、ハーバティとアローニ、どこにいればいいのか……」

「それはルーテが決めて良いんじゃない?」

レイチェルは明るく言う。

ロニーも頷く。


「そういえばさ、ルーテ」

「なんだ?」

「アローニの言葉でさ、『サルーテ』って言葉があるんだ」

「『サルーテ』?」

「明るく乾杯でもしよう、って意味なんだ」

「明るく、乾杯……?」

「うん、どんな人とも親しくなれますように、って願いを込めて付けられることが多いよ」

「……そうか」

ルーテはプルプルと震える。

そして、目からはぽろり、ぽろりと雫が零れた。

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