第15話 お菓子作り 上

翌日。

レイチェルはエプロンをしてキッチンに立っていた。

「さあ、始めましょうか!」

ルーテはただ静かに頷く。


「えーっと、まず……」

「小麦粉を量る」

ルーテは軽々と大きな小麦粉の袋を持ち運ぶ。

「すご……、力持ちなのね……」

「専門学校で言われている。最低でも20kgの小麦粉を運搬できるだけの力は付けて置け、とな」

「そうだったのね……。私は家事程度でしか料理をしないから……」

「そもそも、そっちに料理の学校はあるのか?」

「あるわよ!」

思わぬ一言に、レイチェルはつい強めにツッコんだ。


「ちなみに、今日は何を作るか分かっているんだろうな?」

ルーテは恐る恐る確認の一言を入れる。

「え? 今日はルーテがハーブクッキーの作り方を教えてくれるって話じゃなかった?」

「そうだが」

「なんで確認したの……?」

「忘れていないか心配になったからだな」

困惑するレイチェルに対して、ルーテは涼しい顔で言う。


「あとは、グラニュー糖を量る」

「グラニュー糖なの?」

「ハーブを混ぜ込むからな」

「相性が良い、ということなのね?」

「ああ、あと食感も少しザクザクする」

「食感も変わるのね……」

レイチェルは感心したように言う。


ルーテは計量したグラニュー糖の上に、ごそごそと何かをしていた。

「え?」

レイチェルは目を疑う。

「なんだ?」

ルーテはそう言いつつも手を止めない。

「それって……、ハーブティのティーバッグ?」

「そうだ」

「な、なんで中身を……?」

「グラニュー糖に揉みこんでいる」

「どうして……?」

「焼き上がればわかる」

ルーテはそれ以上何も言わなかった。


レイチェルはどういう意味かを分からないまま、ルーテの行動を見ていた。

もう一つの器にも、同じようにグラニュー糖がある。

そこにパラパラと何かを振りかけている。

「うーん、この香りは……」

「わかるか?」

ルーテはレイチェルが匂いを感じ取ったことに驚いていた。

「うん、何となく。ローズマリー?」

「ああ。ドライローズマリーだ」

「そうなのね……。これも揉みこむの?」

「ああ。その方が良い」

ルーテはそう言って、ドライローズマリーをグラニュー糖へと擦り付けている。


「レモン汁とかあれば良さそうね……」

「鋭いな!」

レイチェルは驚いたようにルーテを見る。

「まさに今加えようとしていたところだ」

「そうだったのね……」

「だが、どうしてレモン汁を加えると分かったんだ?」

「私たちは芳香剤とかになっちゃうけど、ローズマリーを使う時に何かを加えるとなれば、柑橘ならレモンを選ぶ人が多いから。そうじゃなかったら、ライムとか……、オレンジっていう人もいるけどオレンジならラベンダーに加える人の方が多いし」

「なるほど。そっちも色々そう言った専門家がいるということはよくわかった」

「私もその一人なのよ」

「そうみたいだな」

ルーテは嬉しそうな笑顔で言う。


「さてと、生地を寝かせるから、俺たちも少し休憩にするか」

「ええ、そうね」

レイチェルはそう言って笑顔を見せた。

「色々知るって、本当に楽しいわ」

「またいつでも色々教えてやるよ」

「ええ、ありがとう」

レイチェルの笑顔に、ルーテは照れ笑いした。

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