第22話 ご飯の材料を買いに

 瀬利奈とやって来た近所のスーパーは、もう既に通常営業に戻っていた。

 三が日が明けたとはいえ、この切り替えの早さはなんというかさすがと言うべきか。

 お昼だけだし、簡単なものと考えていたのだけど、瀬利奈は夕食も作り置きしてくれるらしくて多めに買い物をすることになっている。

 スーパーに入ってすぐの野菜売り場。瀬利奈は特に迷う素振りを見せることなくカートを押していく。


「メニュー決めてるの?」

「うん。お昼は親子丼でも作ろうかなって。それで、夜は餃子や麻婆豆腐の中華です」

「めっちゃ作るじゃん。さすがに予算が……」

「私が好きで作るんだから、私がお金も出すよ。……お昼、食べて帰ってもいいかな?」

「これでダメって答えたら極悪人じゃん」

「あ、たしかにそうかも」


 ぷっと笑い合う。

 とりあえず最初にカゴに入れたのはネギ。親子丼にちらすと見栄えもいいし美味しいから、瀬利奈が作ってくれるときはいつも入れていた。俺が作る時は見栄えとか気にしないから入れないけど。

 あ、親子丼に必要な玉ねぎよりも先に手に取った理由は簡単だよ。入り口から一番近かったからだから。

 そして、玉ねぎをカゴに入れて次に夕食に使う野菜を買いに行く。

 キャベツ、ニラ、白菜、ニンニク、人参……野菜だけでもすごい量だ。

 野菜の価格が高騰していると聞くし、さすがに瀬利奈のお財布にそこまで大きな負担をかけるわけにはいかないんだけど。これから豆腐とかお肉も買うんだし、決して安くはない。

 今日そこまでお金を持ってきたか不安だ。ここのスーパーってクレカ使えたっけ?

 最悪、スマホにはほとんど使ってないけど決済アプリも入ってるし、こちらはまぁ使えるだろう。普段から特徴的な決済音がレジで聞こえるし。


「結翔くんのその顔、折半しようって思ってる」

「バレてるし」

「デートしてたときも時々同じ顔してたもの。分かるよ」


 瀬利奈が胸を張り、少し自慢げにどや顔をする。


「本当に気にしなくていいから、大人しくしてなさい」

「はい……」

「……どうしてもっていうならさ、今度、何かプレゼントしてもらえると嬉しいかな……」


 消え入りそうな声でのお願い。

 そりゃあもちろんプレゼントは用意しますとも! 何がいいかはこれから考えるけど。

 そのことを瀬利奈に伝えると、顔色を明るくして笑顔を見せてくれた。


「嬉しいっ! ありがとう!」


 美形の顔が輝いて、ドキッとしてしまう。

 と、野菜コーナーから離れて果物のコーナーに入った瀬利奈はミカンが入った袋を手に持っていた。


「このみかん甘くて美味しそう……買っちゃおうかな」


 ふと、瀬利奈がこたつに入ってみかんを剥いている姿を想像してしまう。

 それがなぜか面白くて、つい笑ってしまった。


「え、どうしたの?」

「瀬利奈がみかんを剥いている姿を想像したらつい……」

「なにそれ! 似合わないって言いたいの?」


 ふくれっ面で詰め寄られた。けど、そんな姿も可愛い。

 そのみかんもカゴに入れ、次に麻婆豆腐に使う木綿豆腐を入れた。

 精肉コーナーに移動する。

 親子丼に使う鶏肉、餃子や麻婆豆腐に入れるミンチを買わなくては……って!


「高っ!?」


 そういえば今日はミンチの安売りの日じゃなかった。普段買ってる時と比べて二割ほど値段が張る。

 鶏肉はそれほどでもなかったけど、このミンチで作ってもらうのは気が引ける。


「え、高い? 近所のお店はもっと高いけど……」

「そういえば瀬利奈ってタワマン住みだったなぁ~……」


 そりゃあタワマンに住むお嬢様はお金を持ってるわ。近所のお店も多少高くても客層的には問題ないだろうな。

 実家がかなりのお金持ちで、都会に娘を送り出すのにセキュリティがしっかりしたところじゃないとダメだってことでタワマンに押し込まれたとか話していた。だからってなんでタワマンなんだよとかツッコミはあるけど。

 そんな理由もあってか、瀬利奈はこの値段を特に気にしていなかったようだ。


「ここらじゃこれが高いんだよ。メニュー変える?」

「確かにあの店の値段だったらアルバイトのお給料じゃ生活苦しそうって思ってたけど……。まぁでも、ここまで野菜を買ったし大丈夫」


 瀬利奈の頭の中では完成形が思い浮かんでいるのだろう。

 量的に必要分に最も近いパックを選び、ちょっとでも安く済ませていた。

 後は卵とか必要な材料をカゴに入れ、ちょっとしたお菓子も買ってレジに持っていく。

 本当に全部瀬利奈が出してくれた。擬似的にヒモになった気分を味わっております。

 重い袋は俺が持つ。じゃないと本格的なダメ男の完成だ。


「重いのにありがとう。半分持とうか?」

「半分もお金出してないのに半分持たせたら倫理的にダメな気がする」


 この上瀬利奈が肯定してくれるから複雑な気持ちだ。

 ただ、実は久々の瀬利奈の手料理は楽しみだったりする。

 隠せているかどうかわからないウキウキとした気分と共に歩いていると、俺のマンションが見えてきた。

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