第1章 ⑦
その頃雪坂は少し大きな道を通っていた。
もう間もなく日が落ちる。
黒いつやつやの髪を揺らし、左手にはスーパーで買ったものたちが入っているビニール袋を持っていた。
さあ、何をつくろう。
家には確か人参と玉ねぎと、あとじゃがいもがあったはず。
カレーにでもしようか。
「……?」
ふと細い路地道に目を向けると何やら動くもの。
「なんだ?」
路地の道へと進んだ。
「にゃあ~」
「?」
「にゃん」
白くまるっこい物体は雪坂にすりよる。
「なんだこいつ…。あ、まてよ?もしかして」
少し考えたあとに答えた。
「お前”猫”か?」
本の挿絵で何回かパラパラ見たことがあるが、本物は初めてだ。
ふわふわの毛をして四つ足の。
「へー」
とても感動した、まじで。
”猫”をまじまじと見つめていると、”猫”は雪坂の持っている袋に顔を近付け、くんくん、とにおいをかいだ。
「何だ?何か気になるもんでもあるのか?」
「にゃあ」
”猫”というやつはひたすらくんくんとにおいをかいでいる。
雪坂はふ、と笑った。
「なんだ、こん中のもんが欲しいのか?」
袋の中からパンを一つ取り出し、”猫”に差し出した。
「仕方ねーからこれやるよ」
”猫”は「ありがとう」とでも言うように鳴き、パンを食べはじめた。
その様子を優しく見つめていると、あるものが目に入った。
道の真ん中に転がっているものーー
雪坂は屈んでそれを拾う。手帳だ。生徒手帳。雪坂が初めて学校に来た際にもらった。
(なんでこんなもんが)
ペラリと手帳を開ける。
雪坂は目を細めた。
[高瀬 翔太]
この手帳は高瀬のであった。
(どうしようかね)
明日渡してもいいが。
雪坂は目を閉じた。
手帳に触れ、気配を探る。
(まだそんな遠くは行っていないようだな)
雪坂は再び目をあけた。
「にゃあ?」
”猫”が不思議そうな目をしながらよってきた。
「”猫”もうそろそろお別れだ」
「にゃあ……」
「んな顔するなよ、また来る」
「にゃあ!」
”猫”はとてもよろこんでいるみたいだった。
「さあ、渡しにでもいくか」
一つ欠伸をして雪坂は向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます