第5話 最高のアイドル!
6月の日曜日、私は早めに起きて朝食を作っていた。準備ができたため、テーブルの上に出来上がった食事を置いていく。すべて置き終わった後、テレビをつけて昨日の深夜に放送していたバラエティー番組を再生する。
今回ゲストとして相楽くんがでてたから普段はこの番組見ないけれど録画しちゃった。ゲストだから喋っている時間は短いだろうけれど、それでも推しがまたテレビ番組に呼ばれたことが本当にうれしい。番組プロデューサーさんやお偉いさん、ありがとうございます。
そう、あの熱愛報道をされた後、相楽くんは自分自身の言葉で報道の内容は真実であることをファンのみんなに伝えた。そしてそのうえでアイドルとしての活動を辞めることはない、ということも書かれていた。
そこからしばらくは色々と騒がれていたが、元々ガチ恋をしている人が少なかったこともあってか思っていたよりも早く鎮火した。そのおかげで相楽くんたちMarcuryは今こうして深夜帯とはいえ地上波に出してもらえている。
炎上が早く収まるのは嬉しいことだけれど、なんかなあ。でもそれを言ったら私も別に相楽くんにガチ恋はしていないし……。そんな推しの人気についてもやもやしながらご飯を食べていると、テレビに映っている番組MCの人が相楽くんにこんな質問をしていた。
「あなたもアイドルやってて楽しいことばかりじゃないでしょう? なんかこう、大変だった時期はどうやって乗り越えたの?」
この質問はどう考えてもあの時の熱愛報道についての質問だろう。せっかく落ち着いてきて仕事も増えてきたのにこんな質問をするなんて、また炎上でもしたらどうするのさ! 相楽くんを心配する気持ちと番組への怒りで心がぐつぐつと煮えるような感覚がしていたが、このあと相楽くんが話した内容でこの気持ちも全部吹き飛んでしまう。
「一番大変だった時期は去年の12月ですね。あの時は本当に色々な方に迷惑をかけました。新曲リリースの日と被っていたので、俺のせいでファンの子たちが新曲をちゃんととってくれるかすごく心配で。あまりに心配になってと俺たちのCDが売っているショップに足を運んでしまったんです。今思えば良くない行動で、あとでマネージャーたちにすごく怒られました」
そこで一瞬間をとった後、さらに相楽くんはこう続けた。
「ショップにいくとファンの子たちはほとんどいなくて、ああ、やっぱり俺がしでかしたことは許されないんだなって絶望しました。でも、たまたま俺のことに気が付いてくれたファンの子が言ってくれたんです。これから何があってもあなたのファンです!って」
話を聞いていて思わず箸が止まる。そして相楽くんがテレビ越しに私を見た。いつもなら目が合った!と思ってもでもきっと気のせいだと頭の中でわかっていた。でもこれはきっと気のせいではない。
「あの言葉を聞いて俺は救われたんです。ああ、まだ俺はアイドルをやっていていいんだって。あの時の人がいまこの番組を見ているかどうかわからないけれど、ここでお礼を言いたいです。本当にありがとう。君がいてくれたから俺はいまここにいるよ」
そんな相楽くんの言葉を聞いて番組MCさんがオーバーリアクションをしながらいい話だな、なんて言っている。私はそんな番組MCの言葉なんか右から左で全く頭に入らずにいた。
私、相楽くんのファンでよかった。認知されたことが嬉しいんじゃない。改めて彼が問題に真摯に向き合って答えをくれる人だって知ることができたのが嬉しいのだ。彼のファンであることを、私は誇りに思う。
そんな私のもとに例の神様がやってくる。問われることはもうわかっている。そしてその答えもだ。
「もう聞くまでもないでしょう? ここは最高の世界よ」
神様はもう何か言うまでもなく、ただ面白そうに笑ってそのまま消えていった。さてと、私はそろそろ仕事にいく準備しなくちゃ。今日は休日出勤、社畜もなかなか辛いわ。
でもこれもまたMarcuryのステージを見に行くため! そう思えば自然と力もわいてくる。そして私は仕事の支度をして外へ出る。
「いってきまーす」
私の推し活は相楽くんがアイドルでなくなる時まで続く。彼がステージに立っている限り、歳をとろうが結婚しようが、私は彼を応援し続ける。
だって彼は、私にとって最高のアイドルなのだから!
推し活のススメ!! 宮川雨 @sumire12064
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