第3話 勘違い

(まさか、このタイミングで追手……?)


 辺境へと向かう列車で、こっちに向かってくる謎の集団――シュリネを狙っていると考えるのが妥当だろう。

 今まで、シュリネに対して追手が差し向けられたことは、国を出てからは一度としてない。

 だが、いないとは限らない――何故なら、シュリネは大罪人として手配されているからだ。


(他に乗客もいるし、こんなところでやり合うのは面倒だけど……仕方ないか)


 敵対するのならば斬る――それが、シュリネの信条だ。

 同じ車両に集団が入ってきたところで、シュリネは腰に下げた刀の柄に触れ、ゆっくりと立ち上がる。

 何故だか分からないが、こちらに対しての殺気は感じられない。気配を殺すのに長けているのか、相当な実力者か。だとすれば、


「少しは楽しめそうな――」

「ルーテシア・ハイレンヴェルクだな」


 シュリネの言葉を遮ったのは、先頭を行く男であった。

 フードを目深に被り、前方と後方からそれぞれやってきた六人はいずれも顔が分からないようになっている。

 全員の視線が、シュリネの方に向けられた。それは隣に座る少女と女性も含めて、だ。

 当の本人は、困惑するように視線を泳がせている。


「え、あれ? わたしの追手ではない?」

「何者か知らぬが、こんな小娘を護衛に連れているのか」

「彼女は関係ないわ。それで、私に何か用なの?」


 少女――ルーテシアは立ち上がって、男の言葉に答えた。

 堂々した受け答えだが、これで状況を理解する――シュリネは、とんでもなく恥ずかしい勘違いをしていた。

 自分を追って来た刺客かと思えば、全く別人を狙った刺客であった。

 こんなことがあるのかと思い、思わず赤面してしまう。恥ずかしがっているシュリネをよそに、状況は進行する。


「用はある。すぐに済ませるつもりだ――お前の命を奪うだけだからな」

「何ですって……?」


 男達は懐に隠した短刀を一斉に取り出し、構えを取る。

 ルーテシアを庇うように女性が動き出したところで、その場にいた全員が動きを止めた。


「……何の真似だ?」


 先ほどから話していた男の首元に、シュリネは抜き放った刃をあてがっていた。

 ルーテシアと女性は、驚きの表情でこちらを見ている。

 シュリネは視線を男達に向けたまま、


「理由は分からないけど、この人達はあなたのこと狙っているみたいだね」

「そうみたいね」

「小娘――」

「あなたには聞いてないから、黙っててよ」


 刃をわずかに滑らせると、男は再び沈黙した。

 この距離で下手な動きをすれば首を斬られる――それくらいは理解しているだろう。


「それで、切り抜ける手立てはあるの?」

「……質問の意味が分からないわ」

「だから、こんなに簡単に近づかれてさ、あなたを守ってくれる人はいないの?」

「……」


 そう問いかけると、ルーテシアは押し黙る。

 目の前の男達はすでに武器を手に取っていて、シュリネも抜刀してしまっている。相手も動いていないのは運がいいと言えるが、いつ動き出すとも限らない。

 シュリネは小さく溜め息を吐くと、本題を口にする。


「わたし、ちょっとお金に困ってるんだ。護衛が必要なら、たった今から雇われてあげるけど」

「護衛って……貴女は一体――」

「お嬢様、失礼を」


 ルーテシアの言葉を遮って、彼女を守るように動いていた女性が口を開いた。


「私はハイン・クレルダ。ルーテシアお嬢様にお仕えする身です。単刀直入にお聞きしますが、あなたを雇えばこの状況を打破できると仰っていますか?」

「確約はしないけど、いないよりはマシじゃない? あなた一人で切り抜けられるって言うなら、別に雇わなくてもいいし」

「ちょっと、ハイン。話しているのは私で……」

「あなたの言う通りです――では、お願い致します」

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