あまりにも哀しい御伽噺。けれど物語を貫くのはそれでも生きた人の強い意思

この世界に救いはない。人間にできることはただ祈り、足掻き、それでも生き続けることだけだ。
作中からは常にそう語りかけるような冷たい空気が漂う。淡々とした精密な筆致が、さらに気温を底冷えにさせる。孤独な少年王と神のみ使いの行く末に歓喜はなく、権力とて神の力とて、虚無には勝てないのだと思い知らされる。
それでも。
それでも不思議と後味の悪さはないのです。残酷な御伽噺を読んだ、そんな感慨が胸を突くのに、なぜか。
それは自分のたどり着けない遥か彼方を見つめてひたすら歩いた少年王の眼差しを思い出すからなのでしょう。彼はひたすらに孤独の中を歩き続けた。その道が己にさいわいを与えることはないと知りながら。
その背中を、眼差しを思い出すとき、私の心を覆うのは、彼への哀惜の想い、そして歩き続けたことへの大きなリスペクトです。ままならぬ生を全うしたことへの尊敬の念です。
人間は全てを叶えて死ぬことはできない。けれど、その後ろ姿に他の誰がなにか感じ入ることがあれば、その人間の生は虚ろでも偽りでもなかった。そう思うのです。
たとえ頼りない輝きの宝石であっても、永遠のなかで煌めき続けることができるように。

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