第2話 顔が溶ける有延《ありのべ》さっき

 家に帰った私はともかく冷蔵庫にある豚肉と買ってきた野菜で適当に野菜炒めを作る、味噌汁は手抜きしてインスタントだ、後はご飯のスイッチを入れて残っている漬物を小皿に積み上げておけば文句は言われないだろう、その前に顔を見られたら死刑宣告を告げられるかも知れないし。


 家の中のすべての部屋の掃除も私の役目、私ってこの家の奴隷だったって初めて気が付いた、そういえば鎖に繋がれたりペットのゲージに閉じ込められたりするなんて日常だ、そうか私は奴隷なのだ母が私を殺したって誰からも咎められることは無いのだろう。

 (あーあほんとに悪魔が現れて母親を連れて行ってくれないかな、私の魂なんて好きなようにしていいから)


 そんな事を考えていたらおかしなことを思いついてしまった、きっと私の心に悪魔が住み着いてしまったのかもしれない。


(どこかにお母さんが飲んでいる睡眠薬が有ったはず、十袋ほど飲んでみようかな)


 寝室や台所を探してみたが見つからなかった、リビングで死刑宣告を待つのもばからしい、二階の自室に退避する。


 ベッドに寝転んでぼんやりしていたらいつの間にか眠っていた様だ、外はまだ明るい(えっ明るいって暗くなり始めてなかった???えっうそっ)


 目覚まし時計を見たら7時を回っていた(何時の7時なの朝って事!)

 朝食の用意もしていない死刑執行間違いなし。


 仕方なく下へ降りようとドアに近付くと張り紙に何か書いてある。

「朝8時まで下に顔を出すべからず、起きたら着替えなどを鞄に詰めて外出の準備で待機せよ」


(あっ部屋に入って来て顔を見たんだ寝ている間に首でも絞めて殺してくれたら嫌な思いもせずに死んでしまえたのに)


「やっぱり死刑執行間違いなしね、どうやって殺すつもり?お風呂に沈めるんじゃなくて何処かで車道に飛び出せとか?そりゃあ家の中で死んでほしくは無いわね、こんな顔の幽霊なんて見たくは無いわ私だって」


「ふう」とため息をつくと私の後ろで何かが動いた気がした。

(なに?)


 振り返るが何も変わったことは無い、顔を窓辺に向けるとカーテンが少しだけひらひらとはためいていた。


 窓が開いてる?

 外に30センチ近く張り出した窓際に近付くと外側に開く窓が少しだけ開いていた。

 この窓は鍵を掛けていないと勝手に開いてしまう事があって普段鍵を開けることは無い。

(お母さんが少しだけ開けて行った?)気が付いた私は当然閉めようとして窓に近付く、鍵を閉めようとして窓に手を掛けた時、「どんっ」と背中を押され私は窓の外へ頭から真っ逆さまに、、、


 実際は鍵を閉めるまで何も起こってはいなかった。

(いつもの様に妄想を爆発させた様だ)


「こんな子供に誰がしたのよ」

 一人毒づいてみた。

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