第35話 パウロの実力?

 「うぅ…」


 パウロは唾を飲み、俺とアスティアは暖かい目で見守った。


「ど、どうですか!!アルカディア!!」


「うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 唸り声が徐々に大きくなっていき、思いっきり立ち上がる。


「うまぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」


「へぇ?」


 腑抜けた声が漏れるパウロ。


「お、おいしいよ!!真也!!」


「当たり前だ、俺を誰だと思ってる。こう見えても、人生経験じゃあ、お前たちより上だぞ」


「真也!!私も食べていい?」


「ああ、いいぞ」


「やったぁぁぁ!!」


 アスティアは喜びながら、鍋を掬う。そのまま無邪気に一口食べる。


「おいしいよ!!!真也!!!」


「そうか、そうか…って、パウロは食べないのか?」


 放心状態で突っ立っているパウロに話しかけると、すぐに「はっ」っと意識が帰ってくる。


「あ、はい。食べます……」


 手を震わせながら、鍋の中身を掬うパウロの姿に、俺は直感で思った。


 パウロって結構、笑いキャラとして完璧なのでは?豊かな表情に、浮き沈みの激しい性格、それに加え、華麗なツッコミ……うん、やっぱり、笑いキャラとして完璧だ。


「た、食べますね」


 右手にもつスプーンで掬い、そのまま勢いで口の中へ頬張った。すると……。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」


 突然、唸り出すパウロ。そして少し屈み……。


「おいしい〜〜〜〜〜です!!」


 勢いのまま飛び跳ねた。


「真也!!美味しいですよ!!」


 俺の手を両手で握り、感謝を述べるパウロは顔を近づけてくる。


「ああ、そうか、嬉しいよ」


「はい!!本当に美味しいです!!」


「わかったから、一旦離れてくれ」


「あっ!?すいません…」


 すぐに引き下がり、後悔したのかテンションが低くなる。


「気にするな、パウロ。それより、冷めないうちにさっさと食べるぞ」


『は〜〜い!!』


 みんなで雑談しながら、俺たちは楽しく食事をした。


「よし、じゃあ、交代で見回りだ。俺とパウロ、アルカディアとアスティアな」


「わかりました」


「は〜〜い」


「が、頑張ります!!」


「よし、じゃあ、お前ら二人はさっさと寝ろ」


「わかってるって、じゃあ、頼んだよ、パウロちゃん」


「はい!!がんばります!!」


「アルカディア〜〜眠いよ〜〜」


 アスティアが眠そうにアルカディアの足にしがみつく。


「はいはい、じゃあ、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


「ごゆっくり!!」


 なんだか、やる気十分なパウロ。


 ああなると、たいていヘマするんだよな。


 こうして、アルカディアとアスティアが先に眠りにつき、俺とパウロは野営地の周りで警戒しながら、雑談していた。


「真也さん、一つ質問してもいいですか?」


「なんだよ…」


「少し気になったのですが、なぜ渓谷に?あそこって普通の人は立ち寄らないんですよ。だってあの渓谷は死の谷とも呼ばれ、普通の人は絶対に立ち入らないです」


「信じてもらないかもしれないけど、気づいたら、あそこにいた」


「気づいたら?」


「ああ、嘘は言ってないぞ、ほんとのことだ。まぁ信じるかどうかはパウロに任せるが…」


 俺は決して嘘はついていない。実際に気づけばあの渓谷にいたからだ。


 そんな風に雑談を繰り返してた。そして、俺は一つ、気になったことがあった。


 それはパウロの実力だ。戦っているところを見たことがないから、なんとも言えないが、俺の予想では、今の時点でアルカディアに匹敵するほどの実力はあると思っている。


 根拠としてはやはり、【固有スキル】が大きい。まだ【特殊スキル】を覚醒したばかりのアルカディア、完全に使いこなせれば、アルカディアが圧勝するだろうけど、今はまだ未熟だ。


 そんな考えが巡り、俺はあることを思いつく。


「なぁ、パウロ、少し運動しないか?」


「え、う、運動ですか?」


「ああ、まだ見回りの時間はあるし…どうだ?」


「べ、別にいいですけど、私、結構運動には自信ありますよ?」


「安心しろ、俺が負けることはないから」


 俺は自信ありげな表情を見せる。


「わかりました。いいでしょ!!!」


 やる気満々なパウロは思いっきり立ち上がる。


「で、運動は何をするんですか?」


 準備運動をしながら、聞いてくるパウロ。やる気が満ち溢れていることが感じ取れる。


「ここはやっぱり、決闘だろう。そうだな、相手に一発、当てた方が負けだ」


「いいんですか?ウサギ族は足が速いんですよ?」


「安心しろ、俺の方が早い」


 俺は片手に木刀を持つ。パウロは長い槍を持った。


「へぇ〜〜槍を使うんだ」


「はい。怖気付きました?」


「はは、笑えない冗談だ」


 二人は少し広いところへと移動し、お互いに深く構える。


「手加減はしませんよ」


「ああ…」


 いい顔をしている。多分、今日イチいい顔だ。きっとパウロは気づいていないんだろうな。今の自分の顔が……。


 飢えに飢える獣のような顔になっていることに……。


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