第29話 ダンジョン脱出・旅立ちのとき

その光は大きく、視界を包み、視界が明けるとそこは大きな部屋とその先にはいくつかの部屋につながっている扉があり、大きな部屋の奥には脱出用の魔法陣が描かれていた。


「なんだ、ここは?」


「誰かの部屋みたい?」


「みて、たくさん本が並んでる、これって誰かが住んでいたんじゃない?」


「う〜〜ん、とりあえず、疲れていることだし、ここら辺を探索しながら、休憩だ!!!」


俺たちはこまなく、この部屋の探索を始めた。


ずらりと並ぶ本の中身を確認すると、すでに失われた魔法や錬金術などの資料がたくさん並べられていた。

この本一つで10年間は普通に暮らしていけるだろう。


さらに何かしら実験をしていたのか研究室があった。

どうやら、ここで錬金術の研究をしていたのだろう。

そこには珍しい鉱石や見たことない鉱石もずらりと並ばれていた。

研究資料や鉱石の加工方法なども、知らせれており、これを見る限りではここにいた人物は錬金術師の可能性が出てきた。


「これだけ資料が揃っているなら、アルカディアに新しい武器が作れそうだな…」


今のアルカディアの剣はもはや武器とはいえないほどにボロボロだとどちらにせよ、早く新調しないといけない。


「ねぇねぇ、みんな!!こっちきて〜〜〜」


アスティアの呼び声が聞こえたので、そちらに向かった。



「これは…」

「すごい」



広がっていたのは大浴場だった。


「こんなところに風呂があるなんて…」

「すぐ入ろう!!今すぐ!!」

「まぁ、時間はたっぷりあるしな、俺はまだ色々見たいからアルカディアとアスティアは先に体を流しておけ」


「やった!!!アスティアちゃん〜〜、一緒に入るよ!!」

「ちょっと、勝手に服を〜〜きゃっ、ちょっと真也!!見るな〜〜〜」

「はいはい、ごゆっくり〜〜〜」


俺はそのまま部屋の探索を再び始める。

色々調べていると、あることに俺は気づいた。

この部屋は推定でも500年以上前から存在していたことだ。

本の紙の材質や魔法の原理、そのルールを見ても今の時代と大きく異なっていた。


「おそらく、ここにいた人物は……このダンジョンの制作者だ」


ダンジョンの存在自体が、いつからあったのかまだわかっていない、そうなるとここにあるものすべてがダンジョンの秘密に関わっているのかもしれない。


「もしかして、俺たちって結構、すごいものを見つけた?」


ある程度探索し終えて頃、アルカディアとアスティアが大浴場から上がってきた。


「あ〜〜気持ちよかった〜〜」

「久しぶりにゆっくりできた」

「だいぶゆっくりしてたな」

「うん!!真也も早く入ったほうがいいよ!!」


「ああ、俺もすぐ入るさぁ、あ、あとあっちで寝室があったからそこでゆっくりしておけ、今後についても話したいしな」


「了解です!!」


満遍な笑顔で返すアルカディア、大浴場でゆっくりできた上機嫌らしい。

まぁろくに体の汚れも流せてなかったし、ストレスも溜まっていたのだろう。


「さて、俺も入るかぁ」


そして俺は大浴場にゆっくりと浸かった。

適度な温度に、微かに香る柚の香りが疲れやストレスを和らげる。


「ほぉぉぉ〜〜〜〜なかなか、これぞ日本人の心って感じだな、てかよくもまぁこんなものを作れたよな」


きっとこの大浴場を作ったのは日本人だろう。

だって、これだけ再現度が高いとなると、日本人以外できるとは思えない。


「ふぅ、けどなんとか乗り切れたのはでかい……」


正直、ギリギリだった、アルカディアの覚醒、あの奇跡がなければ、魔王アルマスを倒すことはできなかった。


「ねぇ、隣いい?」

「ああ〜〜……うん?」


俺しかいないはずの大浴場に聞き覚えのある声が聞こえた。

ふと、俺は隣を見た。


「アスティア!!なんでお前が、さっき入ったんじゃないのか」

「ふふ、驚いている…まぁ見られて減るもんじゃないし、それより聞きたいことがあるって言ったでしょう?その答えを聞きに…」

「お前、そのためだけに来たのか、のぼせるぞ」

「大丈夫だよ」

「アルカディアはどうした?」

「あの子なら、今ぐっすり眠ってる」

「うん……そうか」


「じゃあ、教えてもらうよ、どうしてあなたが失われた神器を持っていたのか、そしてもう一つ、なぜアルカディアを英雄にしたいのかを……」


「ふん、じゃあまず、あの神器についてだが、俺は実際には本物ではない、ただの模造品だ」


「模造品?でも実際に神器の神の輝きを放っていたけど……」


「あれには仕組みがあってな、俺の持つもう一つのスキル『英雄回帰』のおかげなんだ」


「スキル『英雄回帰』?でも私の魔眼で見た時はそんなスキルは……」



「ああ、それはこのスキルが特殊スキルに分類されるからだ、でそのスキル『英雄回帰』は一度だけ、自分の知っている英雄を自身の体に憑依させることができるんだ、その際、武器も構築する、そうすることで一時的とはいえ、英雄へと昇華できるんだ、ただkのスキルには問題があって、一つは自分が知っていなくてはいけない、もう一つは武器は再現によって構築するため、本物より劣化していまう、だからもし魔王アルマスがまだ絶好調だった場合は流石に勝てなかったと思う」



「なんだか、余計に気になることを聞いた気がするけど、なんとなくわかった、結構デタラメなスキルね」



「まぁ、このスキルのおかげで今まで生きてきたからな…この50年の間にこのスキルをどれだけ使ったか、正直、俺が知っている英雄が減りつつある以上、むやみに使えないスキル、今回は流石に君たちが死ぬかと思って使ったけど、次からなるべく君達だけ戦ってくれよ」



「だから、あなたは基本、見ているだけなのね」


「まぁ、元々戦うのは苦手だからね…あ、あとなんでアルカディアを英雄にしたのかって質問だね」


「うん…」


「そんなの決まっている、ビビッときたから」


「え?」


「俺は勇者より英雄を求めた、そしてそれにふさわしい者こそ、アルカディアだと俺は確信した、ただそれだけ、言うなら俺の勘だ」


「なんか、結構、感覚で生きているタイプ?」


「まぁ、そうかもな、これで満足したか?」


「もう一つ、疑問ができた」


「なに?」

「特殊スキルって何?そんなスキル私は聞いたことがない…」

「それに関してはアルカディアと交えて話そうと思っていたから、その時に…」


アスティアと話していたら、気づけば1時間ほど時間が過ぎていた。


「そろそろ、出るか」

「そうね」


大浴場から出るとなぜか、アルカディアが腰に手を当てて、ぷんぷんな顔で待ち構えていた。


「あっ…」


「どうして、真也がアスティアちゃんと一緒に大浴場にいるのかな?」

「ちょっと待て、何か誤解をしているのか知らないが、決してやましい事などないぞ」

「そうだよ、ただちょっとだけ話していただけで…」

「そうなの、でも普通男女一緒に入るのはおかしいんじゃないかな?」


俺たちは何も反論できるず、なぜかアルカディアの説教を喰らうこととなった。

こうして説教を終えてた俺たちは寝室に向かう。


「まさか、説教を受けるとは、何十年ぶりか」

「私も、アルカディアが怒るとこんなに怖いなんて、知らなかった…」

「まぁまぁ、そんなに暗いといいこと起きないよ」


アルカディアは説教してスッキリしたのか、すごく爽やかな笑顔を見せる。

本当に、女の気持ちはわからん。


「さて、これからだが、まず、お前達に説明しないといけない、特殊スキルの存在を…」

「それそれ!!私、すごく気になった!!特殊スキルって一体なんなの?」


特殊スキルはそれは世界に12個しかない特別なスキル、その一個一個の能力はその所有者によって異なり、そして基本的に強力なスキルだ。

そしてそのスキルを保持する者は皆、世界の理から外れる。


「これが特殊スキルだ、言っておくが特殊スキルを複数所持することもできない」

「なるほど、じゃあ、私の場合は…」


「『アヴェンジャー』がお前の特殊スキルだ、ついでに俺の持つ、『英雄回帰』ってスキルも特殊スキルだな」


「なるほどね〜〜じゃあ、私ってかなりすごいの!!」


「まぁ、特殊スキルは数えても12人しか持っていないから、そう言う意味ではな、ただこの特殊スキルは使いこなすのが難しく、本来の能力も封印されていることが多い、実際に俺が会ってきた中で覚醒させたやつは3人しか見たことがない、あ、でもアルカディアは無事に覚醒させていたから、これで4人目だな」


「だから、あの時なんかすごく力が漲ったのか」


「しかし、私には一つ、引っかかる部分がある、世界の理から外れるってどいうこと?魔王アルマスもそんな言葉を言っていたけど…」


「それに関しては俺にもわからない、そもそもなぜスキルと別になっているのかすらも、それこそ神のみぞ知るって感じだな」


「そうね…」


「よし、じゃあ、今後について話し合いたいところだが、かなり俺たちも疲れていることだし、今日は寝るぞ」

「ふわぁぁぁ〜〜〜確かに、すごく眠い」

「そういえば、ろくに寝てなかったかも」


こうして俺たちは有り余る時間を使って、眠りについた。

気づけば、何時かも過ぎており、目が覚めると、無防備な姿で転がっているアスティアに俺の腕に抱きつくアルカディア。


「なんで、こいつら俺のベットに……」


確かあの後、部屋わけをして寝たはずなのだが。


「とりあえず……」


俺はそのまま研究室に向かった。

ここにきたのはアルカディアに新しい武器を作るためだ。

作れるかどうかは別だが、今の武器ではアルカディアの力を十分に発揮できない。

だったら、少し荒くても武器を作って、それを使った方がいい。


「始めだからな、よし、やるか…」


生憎と、鉱石は腐るほどある、俺は試行錯誤しながら錬金術を用いて、武器の錬成を始めた。

そして5時間が過ぎた頃、ついにまともな武器が完成した。


「俺って結構錬金術の才能あるかも…」


純正のアドマナイトという鉱石を加工して錬金した片手剣なのだが、これがまぁ恐ろしいほどに強い武器になってしまった。


まず純正のアドマナイトは魔力をよく通してくれるだけでなく、魔法付与も可能とする鉱石、さらにこの武器にはアルカディアが使いやすいように重さを軽減しつつも、魔力を流すことで重さを変えることができ、何よりほぼ壊れることのないアルカス鉱石を混ぜることで武器に強度を持たせた。


アルカディアはかなり純粋な剣士だ、いろんな機能を載せるとかえって弱くなる可能性があることを加味して、強度と重さ、そして魔法付与の機能だけをつけた剣に仕上げた。


「ふぅ、疲れた〜〜〜」


初めての錬金でここまでできたのは本当に才能があるのかと疑ったが、かなりの集中力が必要だから俺には向いていない。


「作るのはこれっきりだな」


俺は武器を作り終えた後、ゆっくりと一人の空間を過ごした。

いまだに二人が目覚める気配はなく、相当疲れが溜まっていたとみえる。


今振り返ると、ある意味で運が良かったのかもしれないと思い始める。


まず、アスティアがいなければ、そもそも魔王アルマスに勝てなかっただろうし、アルカディアが覚醒することもなかっただろう。


「ある意味では順調だな…だが……」


しばらく、ゆったりしていると二人が眠りから覚め、無防備な姿でこちらに向かってきた。


「お前ら、まずはその服をなんとかしろ」



『は〜い』


二人は口を揃えて返事をした。

どうやら、二人は完全に寝ぼけているようだ。


「あいつら……まぁいいか」


しばらくして、二人が着替え終え、最初の部屋に集まった。


「アルカディア、まずお前に渡したいものがある、これを受け取れ」


俺はアルカディアに錬成で作った片手剣を渡す。


「え!?いいの?」


「ああ、しばらくその武器で戦え…いいな」


「うん!!」



「よし、じゃあ今後についてだが、正直予定はない!!まず、ここを出てその先に何があるのかがわからない以上、決めるも何もない、だが目標の一つとして俺はこれを掲げたい!!!それは『仲間を作ること』だ」



「それって英雄に必要なことって言ってたやつだよね」


「その通りだ、なのでまずは俺たちの武器と知識を整えてから、ここを発つことにする、いいな!!」

「了解!!じゃあ、私は何をすればいいの?」

「アルカディアは錬成で作った武器になれるためにひたすら素振りだ」

「じゃあ、私は今ある本を読み漁ればいいの?」


「その通りだアスティア、では各自やれることをひたすらやるように!!」


こうしてここにあるものすべてを吸収すべく、皆励んだ。

俺もただひたすらに本を読み漁った。


それに一つ気がかりなことがあったのでついでにそれについても調べた。

もう何日が経ったかはわからないが、あらかた調べ終わり、ついに脱出することになった。


「この魔法陣を起動すれば、外に出ることができる、準備はいいな」

「バッチリよ!!」

「問題ない」

「ではいざ、ダンジョンの外へ!!!」


俺たちは魔法陣の上に乗ると、魔法陣が白く輝き出す。

魔法陣の輝きが俺たちを包んでいく。

次第に視界は光で完全に覆われていた。


視界に包まれていた光が引いていき、視界の先には渓谷が目の前に広がっていた。




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