ヴィランを愛する穢れ姫
広晴
プロローグ 討伐を終えて
※本作は以前書いていたものに手を加えて再掲しています。
大筋の話の流れは変わりませんので、予めご了承ください。
温かな風が吹く草原の夜空の下、2人の男が星を見上げている。
彼らはつい先ほどまで、ある存在との命を賭した死闘の只中にあり、犠牲を払いながらもその戦いを制したばかりであった。
先ほどまで共に戦った仲間、あるいは利害の一致から手を組んだ者たちは、すでに自分たちの居場所へ帰るためにこの地を去り、残ったのは定まった帰る場所の無い、旧知の彼ら2人だけだ。
彼らは2人とも東洋人の男で、60歳を過ぎたくらいに見える髭を蓄えた方がジーンズのポケットからくしゃくしゃの煙草を取り出し、ライターで煙草に火を付け、煙をくゆらせながら、30代前半くらいのもう1人に話しかける。
「なあケンタロウ、お前これからどうすんだ?」
比較的若い方の、タイ無しの草臥れた背広姿の東洋人は、目線を夜空の星から髭の男へ降ろし、自身の気持ちを確かめる様にゆっくりと口を開く。
その瞳は、先ほどの星を見上げていた邪気の無い呆けたものから、煮え滾るような熱を孕んだものに変わっていた。
「僕は………僕を殺し、友をも嬲って殺した連中を殺しに、あの国へ帰るよ」
髭の男は、胡乱な目線を若い方へ向ける。
「はあ? 誰にも誇れないとはいえ、あの
若い方の男、ケンタロウと呼ばれた男は、髭の男に向き直り、正面から視線を返す。
「貴方自身が自分を英雄などとは思っていないだろうが。………仮にそうだとしても、あの異形を殺したところで都合よく撒き散らした混沌の源が消えるわけじゃない。世界はもう元に戻らないが、その混沌に乗じて富と栄誉を手に入れ、他者を踏みしだいたあの連中は、僕が必ず殺す」
己の握り込んだ拳に誓うように、決意を噛みしめるように若い方の男は言葉を放つ。
それに対して髭の男は顎をしゃくって鼻で嗤う。
「ハン、正義の味方気どりか? いい年こいてみっともねえぞ青二才が」
「そんなんじゃない。ただ何年経とうが許せないと分かった。それだけのことだ。ニヒル気どりの若作りジジイに言われる筋合いじゃない」
2人は静かに睨みあう。
静寂。
ガツンッ!
ほぼ同時に、彼らが互いに放ったパンチを互いの肘でガードする。
鏡合わせのように同じ姿勢で向かい合う2人。
ガンッ! ゴッ!
拳と蹴りが互いを襲い、攻撃と防御を交わしながら足を止めて殴り合う。
攻撃には容赦の類は一切見られない。
響く音は明らかに、直撃すれば必倒。
ゴンッ!!
すり抜けるようなクリーンヒットが互いの頬と腹に入り、ふらついて少し距離が離れる。
相討ちだったためか、互いの威力はいくらか相殺されて、地に伏すには至らなかった。
「………分からず屋の小僧が」
「………綺麗ごとで僕を止められると思うな」
髭の男はペッ、と血が混じった唾を吐き捨てる。
若い方の男は背を反らしてゆっくりと呼吸を整え、打たれた腹を撫でる。
「………勝手にしろ」
「………元よりそのつもりだ」
2人は背を向け合い、違えた道を歩き出す。
様々な地を旅し、手を貸し合いながら決して短いとはいえない濃い時間を過ごした2人だ。
互いの思いは察した上での、必然の別れ。
「おっと、そうだ」
髭の男は振り向かずに、ポケットから取り出した何かを背後の若い方の男に投げる。
振り向かず片手で受け取ったそれは、1本の何の変哲もない鍵だった。
「帰るなら事務所の掃除をやっとけ」
「………引き受けた」
若い方の男は鍵をジャケットの内ポケットに入れ、再び振り返る。
背を向け合った2人は、歩き出す。
「達者でな」
「世話になった」
2人は草を踏みしだき、そのまま別々の方角へ歩き去った。
夜空の星は瞬き、その地には、ついに誰もいなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます