第6話 相性0パーセント




 相性0パーセント。

 それは、都市伝説のような話だった。


 100パーセントは確率は低いが、それでも年に2、3組ぐらいは現れる。しかし0パーセントは、未だかつて聞いたことがない。

 どんなに悪い結果でも、一桁の数字にはなる。0パーセントはありえないと考えられていた。でも、出てしまった。私が選んだ人で。


「提出してもらった時に聞きそびれたんだが、高橋と片岡は接点があったのか? 今までそんな様子はなかったから、ずっと不思議に思っていたんだ」


 片岡かたおか陽祐ようすけ。私が用紙に書いた名前。

 林先生が不思議がっているように、私達の間に接点なんてなかった。


 彼は、いつも1人でいる。あえて、人と関わろうとしていない。1人でいる方が、楽だといった感じだった。

 あの時、美咲が通行の邪魔をしているのに対して声をかけてこなければ、私も名前を書こうとしなかったはずだ。


 その性格もだけど、彼は容姿でも他の人より目立っている。クラスで、いや学校でも一、二を争うぐらいに背が高いからだ。たぶん190センチはある。本人は嫌だとしても、いるだけで存在感が出てしまう。並んで立ったら、見上げるぐらいに大きい。

 そして、いつもは長い前髪で隠れてしまっているが、たまに見える顔が格好いいと噂されて、密かに好意を寄せる女子が何人かいた。もしかしたら、希望調査でも名前を書いた人は、私の他にもいたのかもしれない。いや、本人にバレたら冷たい眼差しを向けられそうで、怖くて書けなかった子が多いかもしれない。


 彼を選んだのは、本当に偶然だった。それなのに、まさかこんな結果が出るなんて。

 私には0か100しかいないのか。あまりにも極端すぎる。


「え、と。昔からの知り合いで、誰を書いたらいいか分からなくて、彼の名前を書いたんです」


「そうだったのか! いや、でも残念だったな。学校でも創立以来初めてのことだったから、高橋が気に病むんじゃないかって心配だったんだ。でもそのすぐ後に、御手洗との結果が出て、みんな安心したよ」


「は、はは」


 私の乾いた笑いを、どう受けとったのだろう。どこか同情を含んだ眼差しで、肩を叩いてきた。

 慰めるにしては、全く心がこもっていない。逆効果な行為だ。


 そうだ。0パーセントに、驚いている場合じゃない。

 このままだと、前みたいに勝手に結婚の話が進んでしまう。100パーセントだとバレた今、私に残された時間は少ない。


 どうする。どうすれば、御手洗君との結婚を避けられる?

 私は必死に考えながら、それでも表面上は先生と穏やかな会話を続けた。とにかく話を終わらせて、次の作戦を考えなきゃ。

 考えすぎて、頭が痛くなってくる。それでも、自分の将来が関わってくることだから、甘えたことを言っている状況じゃない。


 顔合わせをする日時が決まり、ようやく解放された頃には、考えすぎて開き直っていた。もう迷ったり、悩んでいるのは止めよう。

 挨拶もそこそこに職員室から出ると、私は教室に向かって走った。全速力の私に、すれ違う人が驚いて見てくる。そんな視線には構わず、教室まで最短距離で戻ると、勢いのまま扉を開ける。


 大きな音に、一気に注目が私に向けられた。放課後だったから心配していたけど、教室には何人かが残っていて、幸運なことに目的の人もいる。

 私のことなんて目もくれず、用事がないからか、ゆっくりと帰る準備をしている。騒がしさを全く気にしていない。今から、それが崩れ去るとも知らずに。


 私は深呼吸をして息を整えると、片岡君の元へ一直線に歩いた。鬼気迫る勢いに押された人が、何も言わなくても道を開けてくれた。そして、私が向かっている先が分かり、困惑もしている。


 彼は近づく私に気づいていなかったけど、目の前に立てば、ようやくこちらに視線が移動した。目の前に立たれている理由が思い当たらず、みんなの注目が集まっているせいで、とてつもなく機嫌が悪そうだ。


「……なに?」


 視線が鋭い。前髪の間から覗く目は、冷たさしか感じられなかった。人によっては、怖がって逃げそうだ。

 でも今の私は、吹っ切れて無敵状態だった。そんな鋭い視線も受け流して、いい印象を抱いてもらおうと笑ってみる。ぎこちなくなってしまったから、やらない方が良かったかもしれない。

 顔が余計にしかめられ、私の出方を伺っている。場合によっては、そのまま席を立ってしまいそうだ。まだそうしていないのは、私が何をしたいのか分からないから。それだけ。


 これから、彼を巻き込もうとしている。全く関係ないのに、助けてもらえるような関係性でもないのに。

 それでも私にとって、彼が最後の砦だった。もう他に選択肢があると思えなかった。

 上手くいったら、後でいくらでも謝ろう。お詫びの品に、なんでも要求するものを渡そう。


 私は内心で謝りながら、彼に手を差し伸べる。

 その手を訝しげに見てくるが、もちろん握り返してくれはしない。警戒レベルが強まっただけ。次の言葉を聞いたら、どんな顔になるのだろう。

 どこか期待しながら、私は教室中に聞こえる声で言った。


「私と、結婚を前提にお付き合いしてください!」





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