6.誘ってきた男は駅に置き去りにする

「ねぇ、この後ホテルでも行かない?」


 酔った男友達は、私にそうけしかけてきた。


 派手な化粧に華美な服装をする事もある私だったが、貞操観念には自信があり、身持ちの堅さだけは一級品だった。


「やっぱり美人と飲むと酒がうまいな。どう? 俺と付き合ってみない?」


 音楽の師匠Tも、ミュージシャンの名に恥じない女たらしだった。教え子と不倫をして第一奥方と離婚していたにも関わらず、懲りずにこう弟子の私に声を掛けてきたのだ。


「とりあえず飲みましょうよ! 話はそれから♡」


 いつも、どんな時でも、どんな男に誘われても私の答えは同じだった。とりあえず飲ませる。


 眼鏡の奥から相手を真っ直ぐに見つめる瞳。それに加えて貧乳で清貧。それが私のだった。その言葉の奥に潜むある目的に気付かれる事は無かった。そう、いつも失敗しないのだ。


「まだ飲めるの? じゃぁ、じゃんじゃん飲んじゃって!」


 私の身体目当ての男達は、私を酔わせてお持ち帰りしようとそれは躍起になって酒を進めてきた。


「じゃぁ、頂いちゃいまーす!」


 私は、どんなに酔ってもそれが顔に出ない体質だった。加えて、家系的にも酒豪で、アルコールには滅法強かった。


「おひゃー。あわあわ、終電ももう無いよ~。どうしようね~」


 酔いに酔った男達は、それでも最終カード『終電が無い』という誘い文句を掛けてきていた。しかし、その足はふらふらで千鳥足を通り越したものだった。


「私はまだ終電あるんで、頑張って帰ってくださーい♡」


 私が住んでいる沿線は、終電が深夜一時台まであった。しかし、一緒に飲んでいる男は大抵その前に終電が無くなっていた。それも、見越して……だ。


 そう、身体目当ての男は駅に放置してさっさと帰宅するに限る。


 これが、身持ちの堅い私が編み出したライフハックなのだ。

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