第10話 私の術にすべてを賭ける!?
「六道さん、こちらへ」
「あっ、はい!」
結局なにも言えないまま、社長と
ーー2級を賭けるの!? 私の術なんかに!?
そんな思いが脳内を占領するけど、チャンスなのは間違いない。
3級事務所の依頼を解決する。
そんなことが出来れば、落ちこぼれなんて言われなくなる!
そうは思うけど、私のレベルじゃ、さすがに夢物語で……
「なあ、相棒」
「ん?」
溜息が出そうになる私を他所に、大黒が目を輝かせる。
ポケットの中でもモゾモゾ動いて、ニヤリと笑った。
「本のタイトルなんだけどよ。『
そんな声が聞こえるけど、なにを言ってるの?
本??
「プロローグのタイトルは、『依頼を奪え』より『躍動する才能』の方が売れるよな?」
ニシシと笑いながら、大黒がポケットのふちに手をかける。
そのまま私の上着を掴んで肩に登り、ペタンと座った。
白紙の巻物とえんぴつを取り出して、なにかを書き込む。
『男たちは、
『床に額を付け、乞い願う』
『
『魅零はやれやれと肩を竦め、慈悲の心で手を貸す』
『いいわ。この依頼は私が解決する。あなたたちは黙って見てなさい』
「くふふー、これは良きだな! 100万部重版、アニメ化待ったなし!」
……いやいや、本当になにを言っているの?
私の式神を辞めて、小説家になるつもり?
しかも、9割捏造してるよね!?
そう思っていると、
「多神の隠し球は、面白い式神を連れてるようだな」
どうしよう。
絶対怒ってるよ……、
「そういうオッサンは、面白くねぇ霊力してるよなー。そんなんじゃモテねぇぜ?」
「ーーちょっ、大黒!!」
慌てて大黒を捕まえて、ポケットに押し込む。
もがもがと暴れる大黒を尻目に、愛想笑いを浮かべた。
そんな
「おや、この素晴らしさが分からないのですか?」
ちょっーー!?
社長!???
「……どういう意味だ?」
「それがわかるようになれば、2級に上がれますよ」
どうして、火に油を注いでるんですか!
殺気が出てますよ!?
「廃業寸前の社長が、面白いことを言いよるな」
「いえいえ。これでも、もとは1級事務所の社長ですので」
2人の視線が交わり、社長が微笑む。
「六道さんの素晴らしさが一目でわかるようになれば、1級に上がれますよ」
売り言葉に買い言葉。
一瞬だけそう思ったけど、社長は普段と変わらず冷静に見えた。
「1級の力、見せてくれるんだろうな?」
「……いえ、あのーー」
「無論ですよ。我々はその為に出向きましたので」
私の声を遮って、社長が言葉を引き継ぐ。
もちろん、私が言いたかった言葉とは真逆で……、
「まあいい。こっちだ」
苛立った声音のまま、
歩き出そうとしたよしらさんを、なぜか社長が呼び止めた。
「失礼、こちらの部屋は使っていないようですね?」
「あん?」
社長が見詰める先にあったのは、変哲のない普通の部屋。
掲げられたプレートには、第2休憩室と書いてある。
「まあ、そうだな。それがどうかしたのか?」
「いえ、こちらの部屋を借りれないかと思いまして」
「……は?」
目を見開いたよしらさんが、部屋の中に視線を向ける。
ロッカー、電子レンジ、冷蔵庫、電気ケトル、燃えると燃えないのゴミ箱。
中央にある縦長の机と8つの椅子が並べられた、普通の休憩室だ。
「……なにをする気だ?」
「ここでお仕事をしようかと思いまして」
「「!!!!」」
もう一度部屋を見たけど、普通の休憩室だ。
霊脈の上にある訳でも、方角がいいわけでもない。
本当に普通の休憩室。
「……俺たちの力は不要。そう言いたいわけか?」
「いえ、彼女にはここが適している。それだけの話です」
「「……」」
陰陽師事務所は、それぞれが術式に用いる部屋を作っている。
どこよりも、術の威力が上がるように。
どこよりも、術の制度が上がるように。
そう願い、お金と時間と持てる技術をすべて費やした『事務所の心臓部』と呼べる場所。
簡単な術式だとしても、必ずその部屋を使うのが基本だ。
それなのに、
「私が術を使うなら、ここがいい……?」
特別な部屋よりも、普通の休憩室の方がいいの?
思わず声に出していた私を流し見て、社長が優しく微笑む。
そんな中で、大黒がポケットから飛び出した。
「ちょっと、大黒!?」
呼び掛けたけど、大黒は止まらない。
開いていたドアの隙間を抜けて、休憩室の中に入っていった。
慌てて追いかける私の前で、大黒が机のあしを駆け上がる。
鋭い爪と肉球で挟むようにして、机の上に跳び乗った。
「……んー、まあ、いいんじゃね? ちょっと近い気はするけど、相棒なら大丈夫だろ」
「へ……?」
近い? なにに?
思わず足を止めた私の隣を社長が通り抜ける。
「こちらで行うと言うことでよろしいですね?」
「おう! もうちょい狭い方が好みだが、相棒なら大丈夫だろ。大船に乗ったつもりでいいぜ!」
「それはそれは、ずいぶんと心強い」
大黒が突き出した拳に、社長が拳を合わせる。
社長は懐からしめ縄を取り出して、唯一の出入口に飾りはじめた。
「六道さん。すみませんが、そちらを持って頂けますか?」
「え……? あっ、はい!」
なぜしめ縄?
本当に、ここでお仕事をするの?
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