実は俺もVtuber~駆け出しVtuberを支える俺、実は登録者数100万人の人気Vtuberな件~

こりんさん@クラきょど4巻2026年発売

第一章

第1話 人気Vtuberグループ「FIVE ELEMENTS」

 世はまさに、空前のVtuberブーム――。


 ネット配信というコンテンツが普及したことにより、動画配信を行う人口は年々増加傾向にある。


 その中でも、二次元キャラクターを動かしたり、3Dのキャラクターを用いて動画配信を行うVtuberというコンテンツは、近年特に人気を増している。


 その大きな理由の一つとして、自分の素顔を隠したまま配信できるという点にあるだろう。

 誰でも可愛い、もしくはかっこいいキャラクターになることができ、配信上ではそのキャラクターとして観てくれる人を楽しませることが出来るし、観る側もVtuberの中から推しを作ることができる。


 つまりVtuberとは、配信する側と観る側、両方の需要と供給が上手くマッチしたコンテンツなのである。


 そんなわけで、年々その数を増やし続けているVtuber。

 中でも、最近グイグイと人気が急上昇しているVtuberグループが存在する。

 その名は、「FIVE ELEMENTS」。


 男性二人、女性三人からなるVtuberグループで、普段はゲームや雑談配信などをメインに活動しつつも、年に一度、大きな会場で歌って踊るアイドルとしての一面も併せ持っている。


 全員が強い個性に溢れており、高い歌唱力とともに完璧なステージを届けてくれるという完璧なアイドル性。

 けれど普段の配信では、アイドルではなくもっと身近な存在として気楽に楽しめるところもまた、彼らが高い人気を集めている理由と言えるだろう。


 普段は緩い分、ステージに立った時のギャップがヤバイとSNSでバズって以降、一躍人気Vtuberグループへと登り詰めていったFIVE ELEMENTS。

 メンバーそれぞれがチャンネル登録者数百万人を超えており、今では多くのVtuber達の憧れの的となっているのであった。



 ◇



 ジリリリリリ――。


「……うるさい」


 目覚ましに無理矢理起こされた俺は、まだ眠たい目を擦りながらベッドから上半身を起こす。


「やばい……全然昨日の疲れが取れてない……」


 ずっしりと身体が重たく感じられる……。

 けれども、もう起きる時間で二度寝は許されない。

 仕方なく俺はベッドから立ち上がると、寝ぐせでボサボサになった頭を掻きながら、大きな欠伸とともに洗面台へ向かう。


 俺の名前は、桐生彰きりゅうあきら

 今年の四月から大学に通っており、現在は慣れない都会での一人暮らしを頑張っている。


 眠気でフラフラと歯磨きをしながら、洗面台の鏡に映った自分の姿を確認する。

 そこには、まだ眠たそうに目を細めながら、ボサボサの頭のままシュコシュコと歯を磨く冴えない男の姿――。


 まぁこの歳にもなれば、世間における自分の立ち位置なんてものは分かっている。


 モテるわけでも、人気者なわけでもない。

 ただ空気のように存在するだけの日陰人間。それが俺だ。


 でも勘違いしないで欲しいのは、俺は別に陰キャではない。

 地元に帰れば一応友達はいるし、人と普通に話すことも嫌いではない。

 だからクラスの集まりとかに誘われれば、普通に参加だってしてきたのだ。


 ただ、生まれ持ったこの存在感の薄さから、人から好かれるわけでも嫌われるわけでもなく、空気のような存在として扱われることが多いだけなのである。


 でもまぁ、学校という閉じた世界のバランスとして、自分みたいな役割の人間も必要なのだと分かっている。

 だから別に、これまでの人生で何かを悔いているとか、誰かを恨んでいるなんてことは一切ないし、まぁ要するにどこの学校にもいるような平凡な男。

 それが俺の、正直な自己評価なのである。


「いっそ、今度整形でもしてみるかぁ?」


 自分の頬をペチペチと叩きながら、違う自分を想像してみる。

 もっと目を大きくして、鼻筋をグンと高くでもすればマシになるだろうか?


 ……いや、やめておこう。

 別に俺は、誰かに恋しているわけでもなければ、異性にモテたいわけでもないのだ。

 それに今は、割と忙しい日々を送れていることに、それなりに満足だってしている。


「やば、アホなこと考えてたら遅刻するな。急がなきゃ」


 そんなわけで、ようやく脳もしゃっきりとしてきた俺は、今日も身支度を済ませると通っている大学へ向かうのであった。



 ◇



「おはよー!」

「おっす! おはよー!」


 今日の一限は、経済学の授業。

 教室に入った俺は、同じ学科の友達と朝の挨拶を――交わしたりはしない。


 挨拶を交わし合う人達の横を無言で横切った俺は、今日も一番後ろの列の一番端の席へと座る。

 ここへ座ることで、他の同じ学科の人達とは完全に孤立した、一人だけの空間が生まれる。


 そう、俺はこの大学で、見事ボッチの座を獲得しているのである――。


 地方から上京し、この大学へと進学してきた俺。

 つまり学科どころか、大学内に同じ高校だった人なんて一人もいないのである。


 でもそれは、俺に限らず多くの人が上京してきているだろうから同じ境遇だったはずだ。

 では何故、俺だけこうしてボッチをしているのか。

 それは、俺が完全にスタートダッシュに乗り遅れたからである……。


 入学してすぐ、みんな友達を作るために気の合いそうな仲間とグループを形成していた。

 そして気が付くと、自ら一歩踏み出すことの無かった俺はどのグループに属することなく、見事ボッチの座を獲得してしまっていたのである。


 そんなわけで、出だしから失敗した俺の大学生活。

 ただそれにも、一応理由はあるのだ。

 入学して間もない頃の俺は、本当に色々とやることが多すぎて、正直友達を作っている余裕なんてなかったのだ。


 何ならそれは現在進行形で、今も結構慌ただしい生活を送っているため、このボッチな環境はむしろ都合が良かったりするのである。


 ――おかげで、昨日も寝るのが遅くなって寝不足だしな。


 俺は欠伸をかみ殺しながら、こういう隙間時間にやれることをやっておこうと鞄からノートPCを取り出す。

 PCは授業でも使うし、それ以外のことでも俺にとっての必需品。

 だからここでPCを開いていても不自然ではないし、ボッチの俺は誰にも見られないのを良いことに、大学内でも堂々と自分の作業を進めることができるのだ。



「……うわぁ、やっぱり凄いアイコンの数だねぇ」



 しかし、そんなボッチの俺に対して、隣からいきなり声をかけられる。

 しかもそれは、まさかの女性の声だった――。


 驚いて振り向くと、そこには同じ学科の女の子が立っていた。

 目が合ったことでOKだと思ったのか、彼女は興味深そうに俺のPCの画面を覗き込んでくる。


 彼女の名前は、藍沢梨々花あいざわりりかさん。

 何故、ボッチの俺でも彼女の名前を知っているのかと言えば、それは彼女がこの学科におけるちょっとした有名人だからだ。


 サラサラとした金髪のストレートヘアーに、健康的な白い肌。

 少し露出の多い服を好んで着ており、今日もシャツの隙間からは、そのたわわな胸の谷間が少しだけ覗いている。


 そんな彼女を一言でいうなら、ギャルだ――。

 明るく、見ればいつも楽しそうに笑っていて、既にこの学科内でも中心人物と言えるような目立った存在。

 それが俺の藍沢さんに対する印象だ。


 そんな藍沢さんは、もちろん男子達からの人気も高い。

 何故知っているのかと言えば、別にみんなに聞いて回ったわけではなく、同じ教室にいれば嫌でも他の男子達の会話が漏れ聞こえてくるからである。

 今だって、周囲の男子達がこっちを探るようにチラチラと見てきているのが証拠だ。


 もちろん俺から見ても、確かに藍沢さんは普通に可愛いと思う。

 猫のようにくりっとしたその大きな瞳に、ぷっくりとした可愛らしい唇。

 オマケに健康的な足はスラリと長く、ただ歩いているだけでも周囲の視線を奪ってしまうような特別な美しさがある。

 非の打ち所がないという言葉がピッタリな存在。


 だからこそ、そんな藍沢さんがいきなり俺なんかに声をかけてきたことに戸惑ってしまう。

 多分今日まで、一度も会話すら交わしたことがないのに……。


「え、えっと……何か用かな……?」


 俺は恐る恐る返事をすると、藍沢さんはニッと意味深に微笑む。

 そしてその整った顔を、グイっとこちらへ近付けてくる。


「ねぇ、わたしにパソコン教えてよ?」


 彼女はその言葉と共に、自分の荷物を隣の席に置くと、そのまま俺の隣の席へと腰掛けるのであった――。



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