こんな日もあるよね


 あおぞらに けむりモクモク やきざかな




 うぅん、ヒマだ。


 今日もいい天気なのに。お空には、美味しそうな雲がいっぱい浮かんでるのに。


 ヒマだよぅー!


 おっ。あっちの雲は、トリ唐の形だぞ。


 あっ、イワシの群れだぁ。


 ヒマだなぁ~。


 やっぱ、ちょっとくらい、外行ってみようかな?


 でも、やっぱ、抜け駆けはズルいよな? 姉ちゃんいるときにしといたほうがいいよな?

 べ、べつにビビってなんかいねえし。オーガだって、スラリウムがあれば余裕だし!


 あ、そっか。

 スラリウム持って行けばいいんだ! オレって天才。


 今のところ、このへんはスライムとオーガくらいしか出てきてねえもんな。ご近所ちょっと散歩して帰ってくるくらいなら、大丈夫だよな?


 ようし! そうと決まれば。トリ唐サンドとスラリウム持って出かけよう!




 ふっふーん。これでオレは、無敵だぜ!


 右手にバスケット、左腕に壺を抱えて、玄関ポーチを一歩降りた、その時だった。


「んっ? 誰かいる!」


 フェンスの向こう、森の中で何かが動いた。いや、ハッキリと人が見えたんだ。むしろ、目が合っちゃったぞ。


「あいつ……。前にも来てたやつじゃねえか」


 ここ何日か、屋敷の窓から外を見ると、ああして何人かが森の中からじっとこっちを見てるんだ。

 木陰にコソコソ隠れてるけど、オレにはお見通しだかんな!


 今も、目が合ったら急いで逃げてった。


 ストーカーか? あいつら、ストーカーだろ。


 たしか、ストーカー除けのおまじないがあったはずだぞ。

 えっと……。あ! ベランダにパンツ干したらいいんだっけ? なんでそんなもんが効くんだ?

 臭いパンツのほうがいいのかな。だけど、そんなの持ってねえしなあ。そもそも、何枚くらい干しゃいいんだ?


 こういうの、姉ちゃんなら知ってるかな。帰ってきたら聞いてみようか。


 だけど……言わないほうがいいのかなあ。知ったら姉ちゃん、怖がらせちゃうかな?


 うーん。


 ううーん……。


 ………………………。


「こんなところで、ピクニック?」

「わわっ!? ……姉ちゃん!」


 もう帰ってきたのかと思ったけど、庭に目を戻すとだった。


 スラリウム、オレ、バスケット。三人仲良く並んで玄関ポーチに腰かけたまま、気づけば夕日が庭を染めている。明日も晴れんのかな。


 姉ちゃんも右端に加わった。


「美味しそうじゃない。一個ちょうだい」


 えへんっ。オレの自慢のサンドイッチ・コレクション「トリ唐サンド~マヨネーズ味~」と「トリ唐サンド~レモン&バジル風味~」と「トリ唐サンド~スイート・チリ~」の詰め合わせだぜ!


「……だけど、時間経っちゃったから、ちょっとパサついてるかもしれねえよ」

「ん? 大丈夫、美味しいよ」


 もう食ってるし!


 あ、しかも、もう一コいくの?

 ヤバい。無くなっちゃう。オレも食べねえと!


「姉ちゃん、腹減ってたの?」

「うん……、ちょっと今日は、お昼食べ損ねちゃってね」


 それに、と姉ちゃんは続けた気がするんだけど、その先はサンドイッチと一緒に飲みこまれてしまった。

 大きな口でかじりついて、モリモリかみ砕く。


「姉ちゃん、そんなに急いで食べたら、のど詰めるぞ?」

「うん……」


 オレの予言は当たらない。


 姉ちゃんはオレの水筒を奪ってゴクゴク飲んで、あっという間にサンドイッチを平らげてしまった。


「クロは? 今日、どうだった。外の散歩でもしてきたの?」

「うん、そのつもりだったんだけど……。庭の探検してたら、こんな時間になっちゃった」

「へえ。何か見つけた?」


 その言葉に、思わず森のほうへ目を向ける。だけどそこには、もう人の気配はまるでなかった。


「そうだ! すごいの見つけたよ。ほら、あの雲! 焼き魚の煙みたいじゃない?」

「え? うーん……」

「それから、あっちはトリ唐! トリ唐にそっくりだろ」

「トリ唐って、丸ければ何でもいいんじゃないの」

「違うぞ! トリ唐は、まん丸とは微妙に違うんだぞ」

「ハイハイ」


 オレ、ウソはついてないよな。

 だけど姉ちゃんに隠し事しちゃった。


 姉ちゃん、早く帰ってきてくれるようになって、たくさんお話しできるようになったけど。もしかしたら、それって全部が全部いいコトばかりじゃないのかな。


「だけど、そうだね。このへん安心して散歩するためには、オーガをなんとかしないとねえ」

「なんとかって?」

「それはこれから考える」

「ちぇっ、なんだよ」


 でもやっぱ、全部じゃなくても、いいコトのほうが多いかも。


「ああ、それから」


 姉ちゃんは立ち上がって、お尻をパンパン払ってからオレを振り向いた。


「明日の夜、後輩がウチに来るから。よろしくね」

「えっ! 来るって、ここに!?」

「まさか。だよ」

「なあんだ。ビックリした」

「でも、そのうち何か動物連れてきたいな」

「え、なんで?」


 まさか姉ちゃん、ペット飼う気じゃねえだろうな!? ダメだぞ。スライムだっているんだし、これ以上要らねえってば。


「スライムはダメだったけど、じゃあ、あっちから連れてくるのは? それが可能なら『異世界の生物はダメ』の裏が証明できるでしょ」

「裏?」

「まずは昆虫とかがいいかな。だけど、こっちの生態系になるべく影響を与えないようにしないと」


 姉ちゃん、全然懲りてなかったんだな!


 だけど、まあ……、これでこそオレの姉ちゃんだよな。



  

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