第43話 その後の晴彦と穂乃果
時は
大学の寮とはいえ、初めての一人暮らしに心が躍る。
鉄筋コンクリート造りの新しい寮もあるが、穂乃果が入居するのは古い木造の寮だ。家賃が安く、寮母さんが常駐していて食事付きということで、ここに決めた。
(わがまま言ってここまで来たんだから、なるべくお金の負担をかけないようにしなきゃ。勉強もバイトも頑張ろう)
全室個室だが、食事は一階の食堂でとるので、ここで初めて入居している女性たちと顔を合わせた。慣れた様子で寮母さんと話しているのは上級生だろう。
隣に座った女の子をちらりと見ると、どことなく落ち着かない様子できょろきょろしている。
穂乃果は勇気を出して話しかけた。
「もしかして、新入生ですか?」
「はい。あ、もしかしてあなたも?」
彼女もほっとした様子で応えてくれた。
ふたりで話をしていると、「実はわたしも」と会話の輪に入ってくる子もいる。そんな風にして寮での友人が増えていった。
穂乃果の家が神社だというと、皆が面白がって色々と質問してくる。
「どうしてこの大学に来たの? うちって神道学科とかないよね?」
「まだ神社を継ぐかどうか決めてないの。今は興味のあることを勉強してみたくて。両親もそれでいいって言うし」
「そっか。良かったねぇ、話のわかる親で」
「ほんと。うちなんてさあ――」
話が
* * *
晴彦が住んでいる
「鷹尾の大天狗さまも強そうだけど、豊前坊さまとどっちが強いのかな」
「穂乃果ちゃん、可愛い顔して恐ろしいこと考えるね」
晴彦がぶるっと身体を震わせるが、初夏のこの時期、肌はうっすらと汗をかいている。
穂乃果が福岡に来てから、ふたりは月に二、三度会っている。といっても、町をぶらぶら歩いたり、神社巡りをしたりするだけだ。
今日は
しばらく歩いてから、海を見渡せる石段に並んで座った。海水浴にはまだ早いが、波打ち際では親子連れが遊び、女子高生たちが制服のままはしゃいでいる。
のどかな休日。堤防の上にいる釣り人たちを見て、「なにが釣れるのかなあ」と晴彦は興味津々だ。
穂乃果は、ぼんやりと海を見ながら考えていた。
出がけに、寮に住む友人に「デート?」と訊かれて返事に困った。
「好き」とは言われたものの、「付き合おう」とは言われていない。
だったらこれは「デート」ではないのか?
でも、男女ふたりきりで海を見ることを普通はデートと呼ぶのではないだろうか?
考えてもよくわからないので、直接聞いてみることにした。
「わたしたちって付き合ってるんですかね?」
「へ?」
唐突な質問に晴彦は戸惑いを隠せない。
「ぼくは以前きみに告白してるんだけど……覚えてる?」
「忘れるわけないじゃないですか」
「ああ、そう。良かった……だからね、穂乃果ちゃんさえよければ、ぼくたちはもう『付き合ってる』と言っていいと思うよ」
穂乃果は目を見張った。
「そっか。わたしの返事待ちだったんですね」
「うはは。そうだねぇ」
晴彦が苦笑し、少し寂しそうに微笑む。
「返事は焦ってないから。大学生活もまだまだ長いしね」
優しいひとだなと穂乃果は思う。
だけど、誰に強制されたわけでもなく、自分で決めてここまで来たんだ。
こんな顔をさせたまま、待たせっぱなしというのも女がすたる。
「いえ、大丈夫です。今、お返事します」
「え!? いや、ちょっと待って。心の準備が――」
「お付き合いしましょう。よろしくお願いします」
穂乃果がペコリと頭を下げる。
「え、ほんとに? それはつまり、ぼくのこと……」
「好きですよ。でなければこんなところまで来ません」
生真面目な口調で言われて、おかしいやら可愛いやら。
「きみってほんと……ちょっとハグしてもいい?」
「駄目に決まってるでしょ、大勢ひとがいるのに」
「だよねえ。ん? 人がいないとこならいいの!?」
「まあ、そうですね」
「じゃ、じゃあ、今日はこのままふたりきりになれるとこに――」
「なに言ってるんですか。これからグリーンパークに行ってコツメカワウソのえさやり体験するんですよ? 熱帯生態園も見なきゃいけないし。そろそろ行きましょう」
「……はい」
どこまでもマイペースな穂乃果。
「ほら、行きますよ」
「待ってよ、穂乃果ちゃん」
太陽を浴びて
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