第231話:敵の力
ファビウスは先頭で走る。右手に愛用の円盾を持っていて、二つの盾が宙に浮いて付いてくる。これは[動的防御]を発動したからだ。
この盾はファビウスに対する攻撃をある程度自動で防いでくれる。レントゥルスの[盾球]ほどの自由度はないけれど、代わりに意識はあまり割かなくても良い。この能力を活かすためには、ファビウスは最前列に立って攻撃的に立ち回る必要がある。
ネポスが弓を引いるのが見える。ニーナとプルケルは後ろにいるはずなので狙いは明確だ。ファビウスは加速した。【聖弓術】の攻撃だってこの状態であれば防げるに違いない。
青白く光る矢が放たれる。加速したおかげで溜めは十分ではなかっただろうが、危険な匂いがする。ファビウスは咄嗟に全ての円盾に光の属性を付与した。
矢が近づくにつれて宙に浮いた盾が動く。ファビウスは矢に対する盾の角度を微妙に調整した。
「受ける!」
一番前にあった盾に矢が当たる。角度調整の甲斐があったのか矢は弾かれた。しかし、受けた盾はひしゃげていてもう使い物になりそうもない。
ファビウスは壊れた盾を霧散させ、再度[複製]した。この力も[動的防御]も闘気や魔力を大きく消費するけれど、使わずにはいられない。
「【光刃術】」
こっちが本命の攻撃のはずだ。ファビウスは盾の光の属性付与を強め、さらに闘気を送り込んだ。
「任せる!」
後ろからニーナの声が聞こえてくる。ニーナから凶々しく身体の中で躍動するような闘気の気配を感じる。この攻撃を防げばこちらの攻撃の番になる。
「来い!!」
ファビウスは叫びながら高速でやってくる光刃に備えた。盾三枚で対抗するのだ。
刃が達した時、一番前に出ていた盾はすぐに弾けた。だが、付与した光の属性が刃と同化し、攻撃の一部を飲み込んでいる。
二番目の盾も同じだった。瞬間的に見えただけだったけれど、刃の光は弱まりファビウスが手に持つ第三の盾に吸い込まれていった。
着弾の瞬間、大きな衝撃が手を伝った。痛みが腕から肩へと広がっていく。かなり威力を削いだはずなのにこれだけの力だ。直撃したら不味かった。
「うおおおおお!」
ファビウスは咆哮する。『達人』は通常攻撃がまるで必殺技のようだ。だが、目的は達した。さらに身体の強化度を上げて刃を弾く。一瞬怯んでしまうけれど、あとは後ろに任せれば良い。
「やああああ!」
ファビウスが仰け反った瞬間、後ろからニーナが飛び出してきた。
「ブレダ、ジース! まだ近くにいたら拠点に戻れ!!」
敵の二人は体勢的に中途半端な攻撃しかできなさそうだ。セルウィクスが初めて焦ったような声をあげている。
「行くよ!」
ニーナの槌は虹色に煌めいている。最大限まで闘気を集中させたのだ。
「[
ニーナは敵の手前側に攻撃を叩きつけることにしたようだ。槌が動いた後には虹が残っているが、これが後に補助効果をもたらす。
敵は瞬時に後ろに飛んだ。ニーナの槌を止めることは諦めて攻撃の余波に備えることにしたようだ。
「[相殺]!」
虹色に輝く衝撃波と黄金の光刃が激突する。
セルウィクスは剣を振り抜き、自分とそのすぐ隣にいるネポスに当たる部分だけを無効化した。
ニーナはすぐに追撃を加えている。宙に残る虹には攻撃効果があるが、本人だけはそれをすり抜けられる。一瞬でセルウィクスとネポスの包囲陣が形成される。
ニーナの動きはキレを増し、飛び跳ねながら敵を押し続けている。宙に浮く虹にはニーナの身体能力を上げる効果もある。
ファビウスは円盾をもう一枚[複製]し、虹をすり抜けるように投げた。実は盾には紐が付けられているので、破壊されない限りは回収できる。
プルケルも雷の魔法を撃っている。障害物に当たらないようにしながら変則的な動きのニーナを補助できるのは長い付き合いがあるからだ。
ニーナの切り札、プルケルとファビウスの援護。これによって攻撃が続いている。こちら側が押しているという実感もある。だが……。
「これで勝てたら苦労はないんだけれどね」
ファビウスはそう呟いた。先ほどニーナが[残虹]使ったことでストローとメネニアが合流してくるはずだが、その後が大事だ。
作戦はいま最後の段階に入ろうとしている。敵の斥候二人はこの場から離れたし、強力な二人の騎士もこちらで戦いに釘付けになっている。
あとはどれだけ長く目の前の二人をここに留めておけるかの問題だ。そんな風に考えながら三人で攻撃を加えているとセルウィクスが動いた。
「なるほど。後手にまわると対処が難しい技だ。ブレダ達を守るために様子見したのが悪手だったようだな」
セルウィクスとネポスは何度かこちらの攻撃を受けてはいるけれど、大きな傷はない。強力なニーナの技には特に警戒を強めていて、直撃することは一度もなかった。
「しかし、この攻撃にも慣れてきた」
セルウィクスはニーナの攻撃の一瞬の隙間に力を溜めた。
そして身体を光り輝かせながら剣を振り、ニーナの槌を受け止めた。
「ネポス!」
「任せろ! [全射全弾]!」
同時に、ネポスが持つ弓が青白く光り出した。彼が弦を引き絞るとそこに光が集まり、眩く輝く。
「ニーナ、避けろ!」
ファビウスは叫びながら盾を構える。後ろにいたプルケルは守れるが、ニーナは間に合わなそうだった。
ネポスが弦を解き放つ。すると[残虹]を含む全ての物体に強力な聖属性の矢が飛んだ。
ファビウスは盾を重ねて矢を受ける。一番前にあった盾に矢が刺さるが突き抜けることはなかった。何とか受け切れたが、これが一度に数十本も放たれたのだと思うとゾッとする。
「ニーナ!」
プルケルの声が聞こえる。目を向けるとニーナはボロボロになっていたが、何とか攻撃を受け切れたようだった。
「虹がなかったら多分終わってた……」
珍しくヘロヘロの様子でニーナは敵から離れた。態勢が整っていなかったのもあるが、あの早さで放たれる技にしては強力すぎる。
「満身創痍の者が一人、短期集中型のスキルを使っている者が一人、強力な魔法で消耗し始めている者が一人……。悪くない状況になったな」
ネポスがニヤっと笑った。だが、すぐにその顔が引き締まり、「ちっ」と舌打ちをした。
「誰が何人だって?」
声が聞こえた瞬間、ニーナの身体が緑色の光に包まれ、怪我が治っていくのが見えた。
「遅いよ。ストロー、メネニア」
後方から二人が現れた。二人は少し肩を震わせている。かなりの速度で走ってきたのだろう。手にはほぼ同じ形の小さな杖を持っているけれど、これはドルシーラ謹製の補助効果のある杖だ。
「厄介そうな奴がまた湧いてきたな」
そう言ったのはネポスだ。先ほどまでの飄々とした態度はなくなり、睨むようにこちらを見ている。油断はしていなかっただろうけれど、もう簡単に隙をつくことはできないだろう。
「どうやら作戦にハマったようだな。だが、五人でなら俺たちに勝てると思ったか?」
静かに様子を見ていたセルウィクスも口を開く。彼の方も凄みを増し、びりびりとするような威圧感が滲み出てきている。
「勝てるかは分かりませんが、対抗は出来るでしょうね」
ストローが軽い調子で言った。緊張しているのがよく分かる。
「威勢だけは認めてやろう」
セルウィクスは剣を構えた。
ストローは大量の魔力を引き出し、圧縮している。これを小出しにしながら戦うのが彼の戦闘方法だ。
「それじゃあ、戦いますか。『羅針盤』の力をお見せしますよ」
ニーナに代わってプルケルが前に出て来た。
「[雷装結界]!」
周囲を囲うように透明な結界が出現する。そしてプルケルは同時に[帯雷]も発動した。そこかしこでバチバチと音が鳴っている。
「さぁ、行こうか!」
作戦は最終段階に入った。
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