40.義弟、誤解される


 ––生徒数、二百人弱。


 多いか少ないかはさておき、年頃の貴族子女が国中から集まるこの学院で、全員のデータを覚える事はそう難しくはなかった。

 王妃教育の中で既に国内の貴族家は全て覚えていたので、家の情報から個人に紐付けていけば割と簡単なことだった。


「––ありがとうございました、読み終わりました」


「お、おう。どうだった? 活用できそうか?」


「それは分かりませんが、とても興味深かったですよ。皆さん一人一人にそれぞれの物語があって面白かったです」


 書類にはフルネームと家族構成、見た目の特徴と大まかな生育歴、学院での成績が書かれていた。

 それから、教師から見た人物評や趣味特技、苦手な事など、本来であればある程度仲良くならなければ見えて来ないような情報も沢山書かれていた。

 こういう客観的な情報を特別な理由もなく一律に取れる――それだけでも国にとって学院は価値がある場所だと“こちら側”に立った今、つくづく思う。


「では、さっそく脱走者を取っ捕まえて誉め殺してきます」


「いや、もう終わりだよ」


「えっ」


「もう終わり。とっくに授業は終わってて、今はサークル活動の時間」


 壁にかかっている豪奢な時計を見ると、時刻は既に十六時を回っている。

 通常、下校時間は十五時半。書類を読み始めたのはお昼前くらいからだから、四時間ほど没頭していた事になる。


「え、ハヤトは!? もう帰っちゃいました!?」


「さっき迎えに来たから、あと少し待ってろって言っといた。しっかしあいつにお前の事バレるの早かったなー。もうちょっと見ていたかったのに」


「ど、どこで待ってるんでしょうか?」


「知らん。自分で探してこい。帰るなら変装は解いてから行けよ。ああそれと、明日は実習があるから動きやすくて防御力のある服を持ってきてくれ」


「わかりました!」


 大急ぎで理事長室を飛び出し、教員用女子更衣室で着替える。

 髪を直して襟を正し、完全に元のアリーシャに戻ってこっそり廊下に出た。


 まずは教室を覗きに行ってみる。

 女子生徒数人が残っていたけど、ハヤトはいない。

 違うところかな、と思ってすぐ立ち去ろうと思ったけど、何か不穏な空気を感じて教室の中の様子を少し観察する事にした。

 教室の中にいるのは、ワイズ侯爵家令嬢エスメラルダ、ボルドー伯爵家令嬢ブリジット、ウェスト伯爵家令嬢セシリア。

 揃いも揃って気の強さが顔面に出ている、典型的な意地悪三人組といった風情だ。

 私アリーシャとはよくお茶会でご一緒したから、彼女達とは顔見知り。ちなみに学院の書類には「クインビー三人娘」と雑な一言メモが書かれていた。

 そしてもう一人。こちらは私としては初めて見掛けるけれど、先ほど見た書類によると彼女はおそらくメイプル男爵家令嬢、アンナ。

 気の弱さが前面に出ている典型的なモテ女子(偏見)。ハヤトの隣の席の女子でもある。

 猫っ毛のような柔らかい黒髪をおさげにして肩下に垂らした、あざといほどの清純を纏った女子生徒。

 改めて彼女を見た私は直感した。あれは私の敵だ––と。

 絶妙すぎていっそ計算だと言ってくれたほうがマシに感じるような絶妙な垢抜けなさと、おどおどと気弱そうな態度で庇護欲を掻き立てた結果、たった一人で周囲の異性の関心と献身をかっさらっておきながら最後には「私、そんなつもりじゃなかったのに……」と、本音なのかズレてるのかわからない言葉を言ってのけるタイプ。

 好きな人の気を引くため、またはなりたい自分になるために服や化粧、髪型を一生懸命考え悩む女子の人生を真っ向から否定してくる鬼畜タイプである。

 なお、今考えた事は完全に偏見だ。

 モテない女のひがみなのは自覚している。


 マリアも最初はこのタイプだった。彼女は殿下達の寵愛を一身に受けるうちに尊大になっていったけれど、果たしてアンナはどうなのか––。

 教室内の様子を観察していると、伯爵家令嬢ブリジットが何やら興奮した様子でアンナの肩を突き飛ばした。


 ああ、やっちゃった……。


 見てしまった。

 さっさと立ち去れば知らないままでいられたのに。

 ハヤトの隣の席ってところに引っ掛かって見てしまったのが運の尽き。

 知らないふりは、因果の元。

 去年と同じ展開をまたやられちゃたまんないよ。


 バタン! とわざと大きな音を立てて教室に踏み込んだ。

 クインビー達は弾かれたように振り返り、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で私を見る。

 私は、さも偶然扉を開けてしまったていを装って話し掛けた。


「あら、ワイズ家のご令嬢エスメラルダ様ではありませんか。どうなさいましたか?」


「え? ……ええと……」


 困っている。今の私は化粧が薄くて縦ロールじゃないから誰なのか分からないのかもしれない。


「ああ、失礼しました。私、アリーシャと申します」


「えっ!? アリーシャ様!?」


「はい。私、婚約者を迎えに来たのですけど……見当たらないのですよね。どこにいるかご存じではありませんか?」


「ぞ、存じ上げません、申し訳ありません。そうそう、アリーシャ様。ちょうど良いところにいらっしゃいました。このかた、メイプル男爵家のご令嬢なのですけど、一年以上学院に通っておきながらまだマナーがわかっていないようなのです。本日編入してきたアリーシャ様のご婚約者様の隣の席なのですけど、何かと触れたり授業中にこっそり手紙を回してみたりと……あまりに馴れ馴れしい様子なので、注意をして差し上げたところですの」


「そう……」


 手紙。

 大人しそうな顔して、思った以上にグイグイ行くじゃん……。


「ええと……アンナ様、でしたわね。良かったら、こんどお茶でもご一緒していただけないかしら。貴女の事をもっとちゃんと知りたいわ」


 アンナはビクッと肩を縮こまらせ、うっすら涙を滲ませながら小さく頷いた。

 別にいじめてないよ。

 だからそんなに怯えないで欲しい。


「では、エスメラルダ様。お気持ちはとても有難いのですが、ここは私が預りますから、今日はこれで終わりにして差し上げて下さい」


「はい……。アリーシャ様がそうおっしゃるのでしたら……。ブリジット様、セシリア様、参りましょう」


 ではごきげんよう、と挨拶をしてクインビー達は教室から出て行った。

 アンナと二人きりになった教室はやけに静かで、なんだか気が滅入ってくるような謎の疲労感に襲われる。


「……貴女とゆっくり話をしてみたいのですけど、婚約者を待たせてしまっているので……今日は私もこれで失礼しますね。お茶には改めてお誘いします。それと、出来れば……今後は誤解を招くような事は控えていただけると嬉しいです」


 話し掛けても目が合う事はなく、震えるばかりで反応がない。

 私は、加害者なのか……?

 彼女といると、どうもそんな気分にさせられてしまう。

 返事をもらう事は諦めて、黙って教室を後にした。


 気持ちを切り替えて、ハヤトはどこにいるのかしらと考えながら廊下を歩く。

 すると風に乗って微かにピアノの音が響いてきた。

 音に透明感があって、まるで歌っているかのような豊かな音色。

 彼の弾くピアノだとすぐに分かる。音に誘われるように、真っ直ぐに、彼の元へと向かう。

 いくつもあるサロンのうち一つの扉を開けると、私に気付いたハヤトは手を止めてにこっと笑った。


「終わった?」


「はい。遅くなってごめんなさい。ピアノ、止めないでほしかったです」


 この人は公爵家住まいになってから、身体を動かす機会が減った代わりにピアノにハマるようになっていた。

 基礎と適性があったからか教会音楽以外の曲を覚えるのがとても面白いらしく、今ではお父様にちゃんとしたピアノ講師を付けられて、元々持っていた味は損なわないままメキメキと上達しているところだ。


 ちなみに――この世界には“女神の本棚”と呼ばれる現象がある。

 誰がいつ編集して発行したのか分からない、誰も知らない曲。そんな持っているはずのない楽譜がある日突然棚からポロッと出てくる現象をそう呼んでいるのだ。

 女神の本棚から出てきた楽譜はいずれも宝物のような名曲揃いで、この優れた楽曲達がどこから来ているのか––、長年の謎とされてきたのだけど。

 その正体が、今の私には分かる。

 全部、前世の世界にあった曲だよ。クラシックを中心に選りすぐりの名曲ばかり。今ハヤトが弾いていたのはその中の一曲。


 女神の楽譜は全て手書きだ。どうしてかいずれも作曲者名だけは書かれていないけれどそこ以外は(ほぼ)正確に記されている。

 どうやらこの世界の女神様は音楽が大好きらしい。


「まだ練習を始めたばっかりだからあんまり聞かれたくないな。アリスが好きって言ってた曲だから、もうちょっと精度上げてからにしたい」


「今でもじゅうぶん素敵ですよ」


 隣に座って、左手で今の曲の左手のパートをゆっくり弾いてみる。

 ハヤトは私に合わせて右手でゆっくり右手で弾いてくれて、一緒に曲を紡いでいく。まるで今日のアレコレなど無かったかのような、いつも通りの穏やかな空気感。

 鍵盤上で指がぶつかって、曲が途切れた。ハヤトの指をくぐって向こう側に行こうとすると、わざと邪魔してきて、思いがけず指バトルが始まる。


「ちょっと、やめてくださいよ」


「やだ。やめない」


 弾きながら彼の左手が肩に回ってきて、鍵盤の上の手は絡め取られた。

 私も、右腕でハヤトの腰に手を回す。

 彼は私の左手の薬指の辺りを指先でなぞり、指輪に触れてから手のひらをそっと握りしめた。


「……じゃ、帰ろっか」


「はい。だけど少し付き合ってほしいところがあるんです」


「いいよ。どこ行きたいの?」


「貴方の指輪を買いに行きたいんです。ゆっくり選びたかったのですが、なるべく早いほうがいいと思いまして」


 虫除けにね。

 明日から着けてほしい。切実に。


「え、本当にくれるの?」


「昨日約束したじゃないですか。たとえ嫌がっても着けてもらいたいくらいなんですからね。絶対今日中に買いたいんです」


 ピアノの鍵盤蓋を閉じ、鞄を持って立ち上がった。

 ハヤトは手を差し出してきて、繋ぎたいアピールをしてくる。手のひらを合わせ、指の間に指を入れて繋ぐと彼は嬉しそうな顔で笑った。


 宣言通り宝飾店に寄り道して、白金のシンプルな指輪を買って彼の薬指に嵌める。

 ああ、どうしよう。独占欲が満足している。

 こんな感情、要らないのに。大好きで、大切にしたくて、幸せになってほしい人。

 その気持ちに、こんな重い感情は似合わない。

 だから、少しでも軽くするために私は口にする。

 こんな気持ち、一人で抱えていたら絶対ロクな事にならないのだ。


「浮気、ダメ、絶対」


「誰が浮気だって?」


 心外、という顔で見てくるので、帰ったらアンナの手紙を見せなさいと迫るつもりだ。今夜は、お互いに色々聞き出す時間になる。



 ――夜、夕食のあと、ハヤトの使っている客室で今日の話をした。


「……それで、エリー先生って何なの? なんでわざわざ別人を装ってまで学院に来て――普通にアリーシャ先生じゃダメだった?」


 彼も彼で言いたい事がある様子。

 そりゃそうだよね。


「だって、考えてみて下さいよ。貴方が編入したその日に先生なんて始めたら、私、完全にただの追っかけじゃないですか。……追っかけですけど。学院に就職してまで追いかけて来る婚約者なんて、赤の他人でも引きますよ」


「そうかな」


「はい。それだけじゃなくて、試験の時に贔屓や情報の横流しを疑われても嫌ですし。……貴方、絶対次も満点取るでしょう?」


 そう。編入前に受けた去年の一年生の学年末試験と、今年行われた二年生の試験。

 この人は全て満点で通過して入学している。

 私はもうそういう人だって知っているから意外でも何でもないけど、知らない人からすればちょっと信じがたいだろうと思う。

 どうやって勉強しているのか尋ねたら「教科書を読んでノートに書く」と、当たり前体操みたいな答えが返ってきた。

 ノートを見せてもらったら、基本的にはメモリーツリー式なんだけど、時々枝の飛び出し方が逸脱しすぎというか、さまざまな分野の言葉が多岐に渡って入り乱れているページがあって――例えば、数学の公式と歴史上の出来事と現代法律と、それとなぜかその日の私の服装が一本線で繋がっているとか。

 どういう事なのか解説を頼むと、公式を証明した数学者→その人物が生きた時代の出来事→その出来事に今の法律を適用するとしたらコレ、みたいな感じでツリーをどんどん伸ばしてみると本人的に面白いらしい。

 完全に遊んでいる……。

 私の服装に関しては、特に意味はないとの事。

 意味はないらしいけど、多分次にこの服を着たら"かわいいよ"と言いつつ頭の中には公式か歴史か法律が浮かんでいるんだろうな、と思うとちょっと複雑な気持ちになる。

 深く考えるのはやめて、目の前の会話に集中する事にした。


「情報の横流し……。まあ、そうだね。言う奴はいそうだね」


「そうでしょう? ただでさえ崩壊気味の学院でそんな疑いが出たら色々と面倒じゃないですか。だから他人を装ったんですよ」


「ふーん。俺はアリーシャ先生が良かったなー……。でも仕方ないか。でもね、エリー先生の仕事は抜け出す生徒を逆に増やしている気がするよ」


「そうですか? 確かに多かったですけど」


「でしょ? アリスが教室に来る前と後では男の熱気が全然違ったもん……。"俺も捕まえてもらうんだ"って言って出て行ったりして」


 彼は少し不機嫌そうに言った。


「え、もしかして、ハヤトも捕まえてもらいたいんですか?」


「…………」


 すっと目を逸らされた。

 かわいい。


「……明日もエリー先生やるの?」


「嫌ですか? 嫌ならやめます」


「嫌じゃないけど、仕事内容はちょっと相談したほうがいいと思う……」


「そうですね……。明日、理事長に相談してみます」


 よし。

 "嫌じゃない"との言質を取った。

 これで公認ストーカーとして堂々と学院に出入り出来る(エリー先生としてだけど)。

 ……さて、ここからは私のターン! 言わせてもらいますからね。


「話は変わるのですが……実は夕方、教室を覗いたらメイプル男爵家のアンナ様がいらっしゃってですね。同じクラスの方から注意を受けていたようなのです」


「へー。どんな?」


「どんなって、貴方の事ですよ。なんでも、授業中に手紙を回したりしていたそうではありませんか。どういう内容のやり取りをしたのか、ぜひ教えて頂きたいのですけど」


「手紙? ……ああ、なんかノートの端に色々書いて見せてきたやつかな。好きな食べ物とか休みの日は何をしているのかとか、色々質問されたからそれに書いて返しただけだよ」


 ノートの端。

 という事は、現物はあちらの手元にしかないという事か。本人直筆のやり取りを残すなんて、私の~LOVE-NOTE~よりレベルが高い気がする。

 というか、質問の内容! お見合いか!

 ……いや、もしかしたら、普通に新しいクラスメイトとしてコミュニケーションを取ろうとしているだけかもしれない。

 それはわかっている。

 だけど、私なら隣の席になっただけの、初対面の男の子に好きな食べ物を訊いたりしない。

 だって、気心知れる前にいきなりそれを訊く時って「私もそれ好きなんです。こんど一緒に食べましょう」に持って行きたい時だよ。

 こんなの身分関係なく、普通の人の感覚だと思うの。

 もしそんな意図もなくただ訊いているのだとしたら、色んな異性に天然でそれをやった末に勘違いされて付きまとわれる未来が見える。……と、現ストーカーは考える。


「アリスはさ、そんなにアンナ嬢が気になるの?」


「もちろんです! 彼女がどういうつもりでそんな質問をしてくるのか、ハヤトには分からないかもしれませんが」


 人から向けられる好意に鈍い彼の事だ。

 きっと、ただの雑談として片付けているに違いない。そう思っていたのだけど––。


「わかってるよ」


「え、そうなんですか?」


「そりゃね。実際、ランチに誘われたし。お弁当作りすぎたから、一緒に食べてくれませんかって」


 うわっ。

 書類を読んでいる間に先手を打たれていたらしい。

 遠慮がなさすぎて怖いよ。先生からの人物評には"大人しいが心の優しい頑張り屋。祖母と母の折り合いが悪く、同性に恐怖心あり"と書かれていたけれど、あいにくそんな繊細さ私には感じられない。

 なんだろう?

 ハヤトに婚約者がいるって、エスメラルダ様達に言われるまで知らなかったのかな?


「それで、一緒に食べたんですか?」


「まさか。俺だってそういうお誘いに乗っちゃいけないって事くらいわかるよ。その時はね、ルーク君が僕とご一緒しませんかって誘ってきたから乗っからせてもらったよ。アンナ嬢は結局自分の友達と一緒に食べたみたい」


「そうだったんですか……。私がボーッとしている間にそんな事が……」


 ルークがハヤトをランチに誘ったなんて意外中の意外だ。

 家の中では知らん顔してくるし、ほとんど接触ないのに……。

 一応、こっちを気にしてはいるんだね。


「あの子とどんな話をしたんですか?」


「んーとね……。義姉さんをよろしくって言ってた。あと、年上の女性をお誘いするにはどうしたらいいか聞かれたよ。知りませんって答えたけど」


 背筋に冷や汗が流れる。

 エリー先生プロポーズ事件は知られていないのだろうか。

 知られずに済むならその方がいいんだけど。


「ルーク君ね、アリスの事心配してたよ。俺の事ほっといたらまた去年みたいな事になるんじゃないかって不安になったってさ。お義姉さんが二回も婚約を破棄されるのは嫌なんだって。絶対大丈夫ですって言っといた」


「ルーク……」


 ありがとう。

 正直、どう接したらいいのかまだ分からないところはあるけど、味方になってくれて嬉しい。

 昔の敵が今は味方。心強い。


「ルーク君とは初めてちゃんと話したけど、蝶の真似して遊んでるような人には見えなかったよ。何かの間違いなんじゃない?」


「あ。それは本当にやってるみたいですよ。エリー先生は見ました」


「え、学院で? 授業中に?」


「はい」


「嘘だろ……」


 そんな変な人には見えない、と呟く。

 変?

 色んな女の子と遊ぶのって褒められた事ではないけど、別に変ではなくない?

 たまにいるよね。そういう人。


「いったい何が楽しいんだ……?」


「さあ……。私にはわからないです。でも男性はそういう遊び方に憧れる方も多いのではないでしょうか」


「憧れないよ!?」


「そうですか? 本当に?」


「うん。春先辺りにたまにそういう人が出るとは聞くけど、羨ましいと思ったことは無いね。っていうかそれが当たり前じゃない!?」


 段々本気トーンになってきたハヤトに少し引きながら頷く。

 なんでそんなに必死なの!? っていうか春先に多いの?


「私も羨ましくないのが当たり前だと思いますよ。むしろそうじゃないと困ります。……春先に多いんですか?」


「そう言われる事が多いような気がする。なんだろう、暖かくなると気分が開放的になるのかな」


「それはありそうですね」


 なんとなくお互いに納得したような顔で頷きあい、そのまま夜はお開きとなった。

 自室に戻って、ぐっすり眠って翌朝。


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