EP.2-8 不愛想な転校生

2学期が始まって1週間後、転校生が来ると予想されている日が来た。


「みんなおっはよー!」

ダイナーが大きな声で教室に入ってきた。

「おはようダイナー。今日も元気ね」

コッペがダイナーの挨拶に答えた。

「俺が元気じゃない日なんてないって! ……って、このくだり前もやったなw」

ダイナーが机の上に飛び乗り、寝ころびながら言った。

「ふふっ、卒業までずっとこんなことやってるんじゃない?」

コッペが小さく笑う。

「それより! 今日転校生来るんだよな!?」

ダイナーが必死そうにコッペに聞く。

「予定なら今日来るはずよ、よっぽど楽しみなのね」

「そうだよ! 結局種族も聞かされてねーし、どんなかわいい子が来るんかなぁ!」

「あまり変な期待はしないほうが良いわよ」

コッペが困ったような笑みを浮かべる。


少し時間が経った後、ティールとクロッパが一緒に教室に入ってきた。

「おはよー」

「あれ、ティール? クロッパと一緒に来るなんで珍しいなぁ」

「ちょっと、寝坊しかけて……」

というのも、ティールは昨夜、夢の世界で悪夢退治をしていた。

予想よりも長引いたため母親に起こされて急いで登校してきた。

……そんなことはこの場で言えないので、テキトーにはぐらかしていた。

「大丈夫? 運動会の練習の疲れが取れてないんじゃないの?」

コッペが心配そうに話しかけると、クロッパが前に出てきた。

「その話はボクとやったよ。今日は早めに寝ような、ティール。あとダイナー、机は寝るところじゃない」

「うん、ありがとう」

ティールはクロッパにほほ笑んだ。

「それか、先生の隙を見て授業中に寝ても良いぞ」

「それはダメ」

ダイナーの提案は即却下された。



学校のチャイムが鳴り、キツネの先生が教卓に立ち、児童が席に着く。

「みんな、おはようございます。今日は、みんなお楽しみの転校生を紹介します」

「イエーーーーーイ!!」

クラス内の元気の良いやつ(ダイナー含む)が一斉に騒ぎ始める。

「こらこら、静かに。……それでは、どうぞ、入って来てー!!」

先生が扉に向かって声をかけると、その扉が開かれた。

児童全員が見守る中、扉から現れたのは、


ゴリラ(メス)でした。


はい、男子全員(ダイナー含む)がしらけました。おっと、女子も全員(コッペ含む)しらけました。

その露骨ろこつな空気の変化を感じ取ったのか、転校生は露骨に嫌そうな顔をして、先生の隣に立つ。

転校生は……、お世辞にも可愛いとは言えず、さらに身だしなみも整っていなかった。第一印象は最悪だ。

「……えっと、はい。今日からみんなと一緒にお勉強する、メリーちゃんです。みんな仲良くしてくださいね。メリーちゃん、自己紹介お願いします」

メリーと呼ばれたゴリラは目の前にいる児童たちを見渡し、口を開いた。

「リルガモ小学校から転校してきた、メリーです。よろしく」

メリーは仏頂面ぶっちょうづらで短く自己紹介をした。

めちゃくちゃ気まずいです。先生もおどおどしています。

「……メリーちゃん。もうちょっとお願いできる? 好きな食べ物とかは……?」

「……」

メリーは先生を見つめて何も言わない。先生はもうあせあせ。今にもこの場から逃げてしまいそうです。

「えーっと……、それでは、メリーさんはあそこの開いている席を使ってください」

先生はもうすべてを諦めて、転校生の紹介を終えた。

メリーが自分の席に向かう途中、クラスメートの態度は大きく分けて2種類あった。

一つは、興味を失い手持ちの筆記用具をいじったり、よその方向を眺めたりする者。

もう一つは、メリーのことが少し気になってその姿を目で追いかける者。

例外として、ダイナーは寝ていた。

「……はい、それでは、朝の連絡事項を始めます」

この時点で体力の半分を使ってしまった先生、果たして今日1日を乗り切ることができるのでしょうか?



「メリーちゃん、始めまして」

「ちゃん付けで呼ぶのやめてくれない?」

メリーに話しかけたコッペが辛辣しんらつな返答を受けていた。

「ああ、ごめんね、メリー。私はコッペ。『はれやかシスターズ』の番長をやってるのよ」

「……え?」

聞きなれない言葉にメリーが疑問をあらわにした。

「あ、番長って言ってるけど、別に階級があるとかそういうのじゃなくて、ただそう呼ばれてるだけよ」

「いや、そうじゃなくて、……シスターズ?」

「ああ、『はれやかシスターズ』ね。私と、あそこの2匹を合わせて『はれやかシスターズ』って言ってるのよ」

コッペがそう言って指差したのは、遠くの席からこちらを見ているカモメとワニの児童。どっちもメスだ。

「あそこのカモメが族長のジョン、ワニが会長のニャイロよ」

組長と族長と会長がいる訳の分からないグループだが、要するに女子の集まりである。

ジョンが静かにほほ笑み、ニャイロが手招きをする。

「今日学校が終わったらみんなで遊びに行こうと思ってるんだけど、一緒にどうかな?」

「……行かない」

メリーはそっぽを向いて断った。

「あ、別に危ないことはしないのよ、でも、メリーも転校したばかりだから、なるべく早く友達ができたほうが良いと思うの」

「行かないって言ってるでしょ」

「……そっか、ごめん」

コッペはメリーを勧誘するのを諦め、ジョンとニャイロのところに戻った。


「ダメだった」

戻ってきたコッペが事情を話した。

「そっかー、あまり友達は作りたくないのかな?」

「引っ越ししたてで忙しいのかもぉ。1週間遅れて来るぐらいだしぃ」

ジョンががっかりした様子で、ニャイロがチャラけた様子で話した。

「それじゃ今日は3匹でカラオケ行きましょ」

「「りょーかイタチクワンコ!!」」

コッペの提案に他の2匹が謎の合言葉で返事をした。

ここでちょうどチャイムが鳴ったので、児童全員が席に着き始める。

コッペが自席に戻る途中、メリーが身体を引っ張ってきた。

「きゃっ、……?」

コッペが小さく声を上げ、メリーのほうを見る。メリーもまたコッペのほうを見ていた。

「……何?」

メリーは少し目をそらし、言った。


「カラオケなら行っても良いわ」

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