第2話
深くうなるような汽笛。俺はハッとして起き上がった。
「目が覚めたか。ロディ」
ベッドの横にいるのは、二つ年上のサンタのハンスだった。やつは俺を不憫そうに眺めると、立ち上がって言った。
「元気そうだな、なら俺はもう行くぞ。医者は三日休むように伝えろとのことだ。腹の傷は浅い」
俺はそう言われて、自分の腹をなでる。ズキリと痛みが走る。窓の外では子供たちが縄跳びをしている様子が見えた。確かあれはエミリーと同級生だったか。今は真昼のようだ。
「クリスマスは終わったよ。俺は次の街に行く準備をする。お前も早めに済ませておけよ」
ぼんやりとする思考の中で、俺は彼女のことを思い出す。
「エミリーは?!」
「わからない」
ハンスは言いにくそうい短く告げた。
「わからない?」
「消えたんだ。直前まで、お前と一緒にいたことはわかってる。クリスマスイブの日、お前が彼女といたところを数人が見ている。だが、夜中に道の真ん中で発見されたのはお前だけだったんだ。エミリーは今も行方不明だよ」
「エミリーは悪魔に刺されていた。おそらくあいつらは、人さらいだ」
「間違いないだろうな」
「なんで知ってる?」
「今年、この街で子供が十人もさらわれた。一人さらわれるだけでも珍しいのに、十人だ」
「そんな……!」
「人さらいから子供を奪還した例は少ない。なんせ悪魔の街に行かないきゃならないわけだからな」
「そんなこと関係ない……」
俺は声を荒げて主張する。
「俺のせいだ。サンタでありながら俺の目の前で、エミリーはさらわれた。俺が彼女をこの街に返さなきゃ!」
「馬鹿言うな。お前はまだ十六だろ。悪魔からしちゃお前も子供だ。格好の餌食だぞ」
「でも……」
「夏になれば焦土作戦が行われる。お前が下手に動かなくても、運が良けりゃそれでエミリーは帰ってこれるさ」
「でも、半年も悪魔の街で生きていられる保証はないだろ?!」
「それはお前も同じさ」
俺はベッドのシーツを握り締める。
「とにかく、お前は今は傷を治せ。欠員が出ると、それこそ次の犠牲者が増えることに繋がりかねない。わかったな?」
「ああ……」
ハンスはじゃあな、とだけ加えると、俺の寝室から出ていった。
俺は外を眺めて思う。
本当なら、エミリーも今頃、あの子たちと縄跳びをしていたのだろうか。情けない。思わず悔し涙で視界がうるんだ。
彼女はもう、この街にはいない。
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