第7話 美少年


 一瞬どよめきに近い驚きが走る。


 それは悠馬も同じだった。


 転校生が私立中から来たとか、秀才が挫折して落ちこぼれになったとか、そんなことじゃない。


 その名前だ。


 鵜戸岬?


 まさか、学校の名前がその転校生と同じ名前なんてシャレにならない。


 校長先生は冗談がきつくて生徒を困らせていることが多い。


 しょうもないシャレを連続してしかもそれをわざわざ給食の時間に放送室から「漢詩の復習です。杜甫はトホホ」と全校中からブーイングの嵐が来たくらいだ。


 今日のこれもきつい冗談なんだろうと思った。




「鵜戸君は二年生のクラスに入ります。みなさん、仲良くしましょう。慣れていないようだから困っているときは優しく教えましょう」


 いや、そうじゃない。


 あの照れ顔で有名な校長先生は澄まし顔で真面目に話を続けているし、何より他の先生たちの顔が曇っていない。


 体育館に漂う雰囲気も至って真面目である。


 たった十人しかいない全校生徒の中からまだどよめきが終わらない。


 ごそごそと小話を続ける人もいるし、戸惑いが隠せない人もいる。


 動揺が辺りに走ってみんな神妙だ。信じられないんだろう。名前が学校と同じだなんてシャレにならない。


 それよりもみんなの視線が釘付けになっていたのはその転校生の完璧な顔立ちだった。


 


 その鵜戸岬君はなるほど、女子の十人に九人は一目惚れしてしまいそうな整った顔立ち、端的に言えば芸能人みたいな顔立ちだった。


 大きな二重の眼は二つ並んでも、左右対称で鏡に面してもくっきりと折り紙のはしを整えて折ったときみたいに綺麗にバランスがいい。


 微妙なラインをした眉毛は濃ゆくもなく薄すぎず、まるでアイラインをプロが描いて修正したかのようだ。


 つり合いが整った唇、しかも綺麗な反り返った弧の字になっている。


 しかし、その健康そうに見えるはずの唇は、彼岸花のように真っ赤に染められており、ただものではなかった。


 それと肌にニキビが一つもなかった。


 


 これは女も男も大事だろう。


 モテなくても肌が清潔に見えるのは面接でも大事だから、第一印象も画期的によくなる。


 睫毛も遠くから見ても長く影が揺れ遠巻きに見惚れる、きっと女子なら。


 かしましい戸高さんもワアーと奇声をあげて喜びそうな顔だった。


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