第20話 セリオ・ルモリエ
仕事が終わり、エマは事務所を出ると、レイラと少し雑談をし、そこで別れて城へと向かった。そしてエマは裏の使用人の入り口から入る。
その様子を陰からシュウは見る。
――エマが城に入るまででいいんだよな。
ハルから、エマは城の中に自室があるため、仕事が終わり城に入るまで護衛しろと言われていた。
なぜエマの部屋が城にあるのか気になり聞いたが、ハルからは教えてもらえなかった。守秘義務だと言われてしまえば、それ以上聞くことは出来ない。こういうことはよくあることなので、それ以上追求することはしない。ただ仕事に徹底するだけだ。
「これでよし」
シュウはその場を後にした。
エマは城に入り廊下を歩いていると、前からキョロキョロしながら白衣を着た眼鏡をかけた男性が歩いていた。そしてエマを見つけると笑顔で寄ってきた。
「あーいいところに。君メイドさんだよね?」
「あ、はい……」
「すまないが、僕の研究室はどこかな?」
「はい?」
――なんだこの人は?
不審者扱いの目を向けるエマに男は両手をパタパタ振る。
「あ、不審者じゃないから! 僕はこの城で研究をしているセリオ・ルモリエと言うものだ。あ、ほら」
そう言って胸元につけている名札を見せる。確かに本物の研究者のようだ。
「僕ね、極度の方向音痴なんだ」
「はあ……」
「いつもは助手のビアンカが部屋まで案内してくれてるんだけど、1週間休みでね。なんかこの長期の休みを使って旅行に――」
なぜか助手の話をし始めたセリオにどうしたものかとエマは愛想笑いをしていたが、なかなか終わる気配がないので、途中で話を遮る。
「あ、あのーすみません。研究室の場所ですよね?」
そこでセリオは本来の目的を思い出したようだ。
「あ、そうそう。どこか教えてくれるかい?」
「私まだこの城に来たばかりであまり場所は分からないんですけど、研究室は城の何階にあるんですか?」
「研究室は地下なんだ。階段がどこかにあると思うんだけど」
地下と言えば階段は1つだ。
「ああ。それなら分かります。案内しますね」
「ほんとかい? ありがとう」
エマはセリオを地下へと続く階段まで案内する。
「ここです」
「おお、ありがとう。ここまでくれば大丈夫だ。じゃあ」
そう言ってセリオは階段を上り始めた。それに驚いたのはエマだ。
「ちょっ、ちょっと待って! そっちは上!」
「え?」
エマは仕方なく一緒に研究室まで案内することにする。
初めて地下に来たが、廊下も広く、部屋もいくつかあった。
歩きながらセリオは聞いていないのにエマに丁寧に説明する。
「ここは食品の貯蔵庫で、こっちが薬品の貯蔵庫、そしてここが書庫で、ここが倉庫で、この突き当たりが研究室なんだ」
そしてセリオは研究室の扉を開けた。部屋の中はけっこう広く、地下といっても城の裏側に位置するため、半地下の状態で高い場所に窓が設置してあり、電気がなくてもけっこう明るかった。
「どうぞ。お茶でもだすよ」
「あ、ありがとうございます」
研究室と言っていたが、書類が大半を占め、真ん中のテーブルに所狭しとビーカーやフラスコなどの研究で使う実験器具などが置いてあった。
「あ、その辺に座ってて。悪いね。えーと、君の名前は?」
「エマです」
「エマ、コーヒーでいいかな?」
「はい」
するとセリオは、コーヒーメーカーではなく、フラスコをアルコールランプで火にかけて中にコーヒーを沸かし始めた。さすが研究者だなとエマは思う。
そして首を巡らせば、広い部屋の三面は壁一面本棚が天井までびっしり置かれていた。
「すごい本……」
エマは本棚へと足を運び、どんな本があるのかと見て廻る。
「あ! これ私が読みたかったガブリエラ漂流記」
エマは本を取り、ペラペラとめくる。
「それは面白いよ。そのガブリエラが島へと行くんだけど、そこの島って本当に実在する島なんだ。そこの島には鉱山があってね、世界的にも珍しいマリンベレナという鉱石があるんだよ。その分布図が載ってるんだけど、これが地形や地質、塩分などの質量など正確な数値が書いてあって、これは作者はその場所に行って書いているんじゃないかと――」
「……」
「ああ、ごめんごめん。つい語ってしまった。よくビアンカに怒られるんだよ。先生は余分な話が多いってね。はい、コーヒー」
セリオはエマにコーヒーの入ったカップを渡す。
「ありがとうございます」
カップを受け取りながら、その通りだとエマは思った。
「セリオ先生は、何の研究をしているのですか?」
「僕の研究は、すべてかな」
「すべて?」
「ああ。僕は小さい頃から探究心が人より異常にあってね、気になったことは何でもとことん調べるタイプなんだ。だから城のあらゆる物を調べている」
「あらゆるもの?」
「ああ。ウイルスから石の成分、見知らぬ生物、魔法、歴史などジャンルは問わない」
「そうなんですね」
「最近は解毒剤を作ってくれと言われてるから、それを作っているかな」
そう言ってセリオはエマを見る。
「君のその髪は染めてるのかい?」
「え?」
まただ。城に来てからこれで4人目だ。エマは気になりセリオに尋ねる。
「これは自毛です。この髪色に何かあるのですか? 最近よく聞かれるんです」
するとセリオはふうと息を吐き、飲みかけのコップを机に置く。
「昔、魔法を使う唯一の種族がいた。トーカ族と言う民族だ。トーカ族はその力を使って大きな富を作った。だがそのうち悪魔だ魔女だと罵られ、大量虐殺が起った。昔ではよくあることだ。権力者が将来驚異になるであろう民族を、何らかの理由をつけて抹殺しようとすることはよくあったことだ。そしてトーカ族は、逃げるように地方へとバラバラに去って行った。そしてトーカ族ということを隠しながら暮らし、他の種族と結婚をするようになると、魔法は受け継がれなくなり、今ではトーカ族はこの世にいなくなったと言われている。そのトーカ族の特徴が、君のその
「!」
「最近、トーカの者は少人数であるが存在するのではないかと密かにささやかれている。その理由は2つだ。1つは君の髪色だ。よく似たピンクに染める人が多くなり、トーカ族の髪色と似ているということが世間に出回ったためだ。まあ実際の色は君の色だ。知らなければ分からないことだな。そしてもう1つは、トーカの財宝だ」
「トーカの財宝?」
「1度は聞いたことがあるだろう。トーカの財宝と言われる物が、この国にはあちこちに点在している。今わかっているだけで20近くあるだろう」
トーカの財宝は、トーカ族が持っていた金品財宝を隠し、魔法で隠したとされている物だ。全国の財宝マニアや探検者、研究者がこぞって探し回っているのだとエマは聞いたことがあった。
「そのトーカの財宝だと言われていた1つが何者かに開けられて、中身が取られていたんだ。それでトーカ族の生き残りがやったのではないかと言われるようになった。だが僕から言わせれば、鍵を開けることなんてそう難しいことじゃない。トーカの魔法でかけられたものであっても技術と僕のような研究者がいれば出来なくはない。だからトーカの者がやったという説は違うと思っていたんだが、君を見てもしかしたらいるんじゃないかと思うようになったよ」
そういう理由だったのかとエマは納得する。
「先生の期待を裏切るようですけど、トーカ族じゃないと思うわ。私は魔法は使えないもの」
「魔法が使えるか使えないかよりも、魔力を持っているかが重要なんだよ。それにその髪色が何よりの証拠なんだよね」
「はあ…………」
「エマはなぜ城に?」
「くじ引き大会で優勝して、その景品がここで働けるというものだったんで」
「…………へえ」
「あ、もう行かなくちゃ。先生、また来ていいです?」
「ああ。ここは誰も来ないからね。好きに使っていいよ」
「ありがとうございます」
頭を下げ、エマは研究室を後にした。
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