第26話 お前さんのお陰だ

 ――〈古代の枯坑道〉行方不明事件を解決してから、早三日が経過した。


 ザッパさんの息子さんを始め、助け出された人々の多くはかなり衰弱していたが、徐々に回復してきている。


 事件を解決した俺はドロテアさん、もとい冒険者ギルド連盟からかなりの額の報酬を受け取り、さらに元Sランク冒険者だった経緯もあってCランク冒険者へと昇格。

 これはかなりの特例措置だが、非常にありがたい。

 挑める依頼やダンジョンの数が飛躍的に増えるワケだからな。


 で、今現在の俺は――


「――よし、そっちに行ったぞエルヴィ!」


「は、はい、です!」


 エルヴィのレベルアップとダンジョン攻略訓練を兼ねて、手頃なCランクダンジョンへと潜っていた。


 俺が追い込んだロックリザードに対し、エルヴィが矢を放つ。

 彼女の矢はロックリザードの頭部に見事命中し、一撃で仕留めた。


「よし、よくやったなエルヴィ。コイツを一発で仕留められるなら上出来だ」


「ありがとうございます、です! シュリオ様に褒められちゃいました、えへへ……」


 エルヴィは着実にレベルを上げていき、落ち着いてモンスターとも戦えるようになってきている。

 当然まだまだ目を離せないが、この調子なら成長は早いだろう。


 ……【経験値奪取ポイントスティール】で一気にレベルアップしてあげてもいいのだが、彼女にはしっかりとした経験を踏まえた上で成長してほしい。

 楽して強くなって、ゲイツたちのように傲慢になってほしくないのだ。


 勿論、これから先は要所要所で〝経験値〟を少しずつ分けていこうとは思っているが、あくまで自分の力で強くなっていけるよう背中を見守っている。


 今の俺は、さながら先輩か先生みたいな立場だな。


「よし、それじゃあ今日はこの辺にして、ラバノの町に戻ろう。ロックリザードの素材を換金したら飯だな。なに食いたい?」


「こ、今夜は私がシュリオ様に手料理をご馳走する、です!」


「お、エルヴィが作ってくれるのか?」


「はい、です! 森人エルフの里に伝わるハーブシチューを、ぜひ食べてほしい、です!」


「シチューか、そりゃ楽しみだ」


 しかも森人エルフの里に伝わる特別レシピとなれば、それは期待大。

 久しぶりに優しい料理が食えそうだな。

 俺シチュー好きだし楽しみ。


 そんなことを思いつつ、俺たちはダンジョンの出口へと向かう。


 ――さて、そんな感じで俺たちは実に冒険者らしい一日を過ごしている。

 だが――別に森神様からの呼び出しを忘れたワケではない。


 森人エルフの里となると遠征することになるから、準備が整い次第ラバノから出発しようとは考えている。


 ちなみに、その準備・・には――レイスが落とした〝魔石〟が絡んでいる。

 

 ラバノに戻ってきた俺たち二人。

 俺はエルヴィに剥ぎ取ったロックリザードの素材を渡し、


「エルヴィ、先にドロテアさんのところに戻っててくれ。俺はザッパさんのところへ寄っていくから」


「わかりました、です。それではシュリオ様、また後ほど」


 トテテ、と可愛らしく走っていくエルヴィ。

 その後ろ姿を見送り、俺は『フロンマー武具店』へと足を向ける。


 しばらく歩いて店に着き、おもむろに入り口ドアを開けた。


「こんばんはー、ザッパさんいらっしゃいます?」


「あら、シュリオさん。いらっしゃいませ」


「! シュリオの兄貴、いらっしゃい!」


 以前と同じく店内のカウンターにはザッパさんの奥さんがおり、俺を出迎えてくれる。

 その隣には、俺たちが助け出したザッパさんの息子カーシュの姿もあった。


「やあカーシュ、もう身体は大丈夫なのかい?」


「全然へっちゃらだよ! たくさん飯食って気力も戻ったし、絶好調さ!」


「こら、バカ言わないのカーシュ。まだ絶対安静って言われてるでしょ?」


 優しい口調でカーシュを窘める奥さん。


 彼女の表情には、以前のような暗い感じは既にない。

 むしろ穏やかで笑顔になっているくらいで、なによりだ。


「アハハ、元気になったならなによりだ。それより、ザッパさんの様子はどうです。任せておいた〝魔石〟は――」


「……よう、つい今しがた仕上がったところだぜ」


 俺たちが話していると、奥から煤に汚れたザッパさんが出てくる。


 まさに直前まで作業をしていたらしい。


「見てくれ、コイツが〝魔石〟から鍛えた――お前さんのための〝レイスの短刀ゴースト・ナイフ〟だぜ」


「これが……!」


 そう言って、彼は鞘に納められた一本のナイフを渡してくる。


 ――実は行方不明者たちを救出した後、ザッパさんは「レイスが落とした〝魔石〟で武器を作らせてほしい」と申し出ていた。


 彼曰くあれほど高純度な〝魔石〟ならば強力な武器を作れるというのと、息子であるカーシュを助けたお礼という意味合いもあったらしい。


 そのため俺は〝魔石〟を彼に預け、武器の完成を待っていたのである。

 これが未だにラバノに留まっていた理由だ。

 

 ――俺は、ザッパさんから受け取ったナイフを鞘から抜き取る。


 そのナイフはあまりにもしっくりと俺の手に馴染み、重量バランスも抜群。

 だがなによりも目を引くのは――刃の色が艶やかな紫色をしているということだ。


「これがレイスの〝魔石〟から作ったナイフ……。こんな色の武器は見たことがありません」


「だろうな。ゴースト系レイスがドロップした〝魔石〟で武器を作ったのは、俺も初めてってくらいだからよ。込められた魔力から推測して、このナイフなら実体のないゴースト系のモンスターにもダメージを与えられるはずだ。あるいは魔術が使えるなら、その媒介にも使えるかもしれん。可能性は全くの未知数――いずれにせよ、コイツは間違いなく俺の人生で最高の一振りさ」


「そ、そんな物を本当に貰っちゃっていいんですか? 売れば凄いお金になるんじゃ……」


「バカ言ってんじゃねえ。そもそもあの〝魔石〟はお前さんたちの物だし、なにより息子せがれを救ってもらった恩義がある」


 ザッパさんは相変わらず強面のまま、奥さんと息子カーシュの肩を持つ。

 そして少しだけ笑って、


「シュリオ、お前さんと森人エルヴィのお嬢ちゃんには本当に世話になったな。もうこの町を出ちまうんだろ? もしまたラバノに寄ることがあったら、いつでも顔を出してくれや。俺たち家族は待ってるからよ」


「ザッパさん……ありがとうございます。いつか必ず、また顔を出しに来ますよ」

 

 俺は〝レイスの短刀ゴースト・ナイフ〟を腰に備え、彼ら家族に見送られるまま店を出る。


 これで、準備は整った。


 翌日――ドロテアさんに行先を伝えた俺とエルヴィは、森人エルヴィの里へと旅立ったのだった。

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