第13話オマケ 裏話 図書館デートのお誘い
その日、喫茶店【寄り道】は閑古鳥が鳴いていた。
別に珍しいことではない、月に一回は必ずこういう日があるのだ。
端的に言ってしまうと、給料日前なのだ。
そのため、来客がとくに減ってしまう。
加えて、今日は朝からどんよりとした曇り空で、昼過ぎには降り出してきた。
雨はいまだに止むことなく、降り続いている。
そんな日でも、店に顔を出す人物がいた。
常連客であるミカゲだ。
ミカゲはいつものカウンター席に座って、目的の人物が現れるのを待った。
やがて、お冷を持ってルリアが現れると、
「いつもの、フルーツサンド、あと、ホットコーヒー」
言葉をブツ切りにしつつ、注文する。
それをルリアが受ける。
ルリアがここでアルバイトをするようになって、二ヶ月が過ぎた。
仕事も板に付いてきて、バイトリーダーの粟田の補助はほとんど不要になっていた。
新人特有の初々しさが消え、澄ました仕事用の顔をするようになっていた。
それがまた綺麗で、ミカゲは見蕩れてしまうのだ。
綺麗で可愛くて、さらに粟田や他の者から聞いた話では頭もよく、運動神経も良いらしい。
まさに才色兼備というやつだ。
(……好きなやつって誰なんだろ)
ルリアは受けた注文が間違っていないか、復唱する。
綺麗に澄んだ彼女の声は、とても心地いい。
注文は正しいと伝えると、ルリアは厨房に引っ込んだ。
触れてしまえば壊れてしまうガラス細工か人形を思わせる、繊細な少女。
そんな彼女が片思いしている相手が、ミカゲは気になって仕方なかった。
しかし、ルリアに好きな人がいるかも、という話はそもそも常連客が勝手に言っていただけだ。
ルリアにとって、先輩バイトにあたる中堅バイトの女の子は、彼女から直に好きな人はいない、と聞いているのだ。
ミカゲは、他の男に思いを寄せるルリアを想像して、イライラとモヤモヤが同時に沸き起こるのを感じた。
これを解消するには、自分からルリアに聞くのが一番だ。
その時の反応を見て、判断すればいいのだから。
けど、喧嘩時にはまず感じたことの無い、恐れのようなものを感じて、聞けずにいた。
もしも聞いて、
『彼氏?いますよー!!
私が18歳になったら、籍を入れようねって言ってくれたんです。
あ、式には絶対きてくださいね!!
ミカゲさんに、招待状送りますから!』
なんて、返された日には吐くと思う。
もしくは茫然自失になって、しばらく喧嘩も出来ないと思う。
でも、あれだけ綺麗な顔立ちなのだから、純白のドレス姿もよく似合うだろうな、なんて考えてしまう。
そんな光景を想像して、ミカゲは死にたくなった。
けれど同時に、
「人妻、か」
なんか気持ち悪いことを口走ってしまった。
幸い、その呟きは小さすぎて誰にも聞こえていない。
やがて、ルリアがフルーツサンドとホットコーヒーを運んできた。
それらをミカゲの前に並べて、間違いがないか確認する。
「それでは、ごゆっくり」
ルリアはそこまで言って、何かを思い出したのか去らずにミカゲへ向かってさらに続けた。
「ミカゲさん、この前貸してくれた漫画、面白いです。
貸してくれた妹さんにも、ありがとうございましたって伝えてください」
先日、ミカゲは妹に無理を言って少女漫画を借りたのだ。
ルリアのために。
彼女はそれを読んで、たいそうお気に召したらしい。
続きは自分で買う、という話になった。
話の流れで、
「バイト代足りるのか??」
とつい聞いてしまった。
するとルリアは嫌な顔ひとつせずに、こう答えた。
「私だって、そんな毎回買ってるわけじゃないですよ。
小説だって、図書館で借りて試し読みして気に入ったら買うってことにしてるんです。
じっくり読みたいけど、そうすると図書館の本の貸出期間は二週間じゃないですか?
じっくり読んでると時間が足りなくなって、とても読み終わらないんです」
(図書館で本借りると、二週間も借りられるのか)
ミカゲは図書館を利用しないので、知らなかった。
学校の図書室も、利用していない。
不良が来ると、図書室を利用してる生徒が怖がるからだ。
「京極〇彦の百〇夜行シリーズとか、私は二週間では、とても読み切れないので、毎回延長するんですよ」
ルリアはとても楽しそうにそう語った。
「本の貸出って、延長できるのか」
「そうですよ」
他に客がいないので、ルリアがミカゲと話していても、店長と粟田はとくになにも言ってこない。
「そういえば、お前がオススメだって言ってたやつ。
まだ読めてなかったな」
ミカゲはルリアからオススメされた小説のタイトルを口にした。
そのタイトルを聞いて、ルリアはある事に気づいた。
「あ、すみません。
その作品なんですけど、私も図書館で見つけて読んだんです。
随分前に絶版になったらしくて、出回ってないんですよ」
「そうなのか」
ミカゲは怒ることなく、淡々と返した。
そんなミカゲに、
「もし良かったら、今度一緒に行きませんか?」
ルリアからそんなお誘いがあった。
「へ?」
ミカゲは、今までの人生で出したことの無いほど間抜けな声を出した。
ルリアもルリアで、自分が何を言ったのか気づいてしまう。
慌てて、
「あっ!えっと、その、ミカゲさんも用事がありますもんね!!
今のは、忘れてくだ、しゃい」
そう言ってみたものの、最後のセリフを噛んでしまった。
「別に、大丈夫だ。
予定なら、合わせるから。
いつにする?」
二人して顔を真っ赤にして、そんなやり取りをする。
それを、ジト目で見ていたバイトリーダー粟田は、
(さっさとくっつけよ、おめーら)
内心で吐き捨てていた。
嫉妬からではなく、この二ヶ月、新人教育でルリアに付きっきりだったので、ずっとこんな光景を見せつけられていたからであった。
少なくとも、表向きは言葉遣いが丁寧な方の粟田が内心で毒づく程度には、二人のジリジリ感がまどろっこしくて仕方ないのであった。
こうして二人は次の日曜日に、図書館に行くことを決めたのであった。
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