第8話集会場・Ⅲ
席を立ち上がって滝本鉱太は流美とすれ違い様に演説の壇席に向かう。かなり場馴れしているようですぐさま壇席に立ってシャキッと直立不動になるといつもの癖であろうかスリーピースのベストの左ポケットに親指を入れて手を腹部にあてている感じにした。
「みなさんこんばんは。乙海市市長候補の滝本鉱太です。今回は若い候補者がお2人出られてる上に中々画期的な立案が出てきておまけにこの会場もいつもと違って実に煌びやかですな。今夜のこの会場はサイリウムのお陰で随分明るいようですがまさかみなさんいつぞやのセンター・・・選抜の総選挙とお間違えではないということでよろしいかな?」
「ハㇵㇵㇵ・・・」
わが意を得たりとでも思ったのであろうか?客席から沸いた笑い声に滝本の顔にも笑みが出る。話の中にサイリウムのことが出てきたのは少なからず流美がいることを意識したのであろう。
「先ほどまでのお2人の候補の方のように目を見張るような画期的な立案はありませんがこの滝本乙海市のために期待を寄せられていることにかけては負けてはおりませんぞ」
「おぉぉぉ・・・」
「いいぞぉ!その意気だぁ」
どよめきと歓声が会場内に沸き上がった。
「さて先日この志岐田製パンドームが落成となりめでたく選挙戦の開幕をむかえられたわけでありますがこの日が来るまでに大変な困難がありました。ここ乙海市の予算の他に志岐田製パン様より多大なる御支援をいただきました。厚く御礼を申し上げます。そしてさらに世界に名立たる志岐田製パン様よりこのドームの運営になお一層の御支援をしていただけること重ねて厚く厚く御礼申し上げます」
演説の壇上から見て右方向に志岐田(しきだ)製パンの関係者が陣取っていたようなので候補の滝本はそこへ向かって一礼した。
意中の人 荒城吾朗 @goro-8
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