第14話 Check Up
何だコイツのスピードは!?
確かに"そこ"にいたハズなのに、いつのまにか、背後に回り込まれていた
反射的に振り返った先で、先程のモンスターが今にも襲いかかってきそうな形相でこちらを見ている
グルルルルルルラララララ
大したことないやつだと思ってたのに...
「ルシアっ!!スピード上げろ!」
「うっ、うん!」
体に力がみなぎってくる...
いつも「スピードを上げる」の一言で済ませるこの魔法だが、反射神経や体の運動性能を上げるため、受けている効果の実際の感覚は言葉では説明しにくい
サウスドレシアでの一件の時よりも、体に馴染んで心地いい。もちろん、この倍強かった時もあるが、慣れればどうってことはない
最近、強い敵ばかりと対峙している気がする。俺たちが弱くなったからなのか?それにしても...
今度は目を離さない、しっかりとその姿を捉える。
距離自体は数歩歩けば届くが、おそらく直線上に動けば逃げるだけだろう。敢えて蛇のような歩き方で距離を詰める
気休め程度でしかないだろうが、あるのとないのでは大分違うだろう
早速足を踏み出した
いつ向こうから襲ってくるかもわらからないが...
一歩、二歩、確実に距離を詰める...
グルルァァ!!
来たッ!!!!!!!!........
しかし、ヤツはあさっての方向へ走っていってしまった
「あれ?行っちゃったね?」
「俺に恐れをなして逃げたか」
実際どうかは知らない。早いだけで戦闘するようなモンスターじゃなかったのだろうか?
「さっすがお兄ちゃん!これが威圧感ってやつ?」
「多分違うと思うなぁ〜」
ルシアが牽制する。よほど俺に嫉妬しているようだ
全肯定してくれる妹か...悪くないのかもな
......
いやいや!ないない!
何が"ない"なのか自分でも分からないが
「奇妙なモンスターだったな、全く」
「ああ、この辺のモンスターは把握してるつもりだったが、こんなのがいたとはな」
スレイに同意
「今の...もしかして?」
ヴェルが何やら知っているような物言いだ
「どうした?心当たりがあるなら言ってみろよ」
「もしかしてなんだけどね、今のってグルイルフなんじゃない?」
え?なんだって?
「あー!!絶滅したとかいってた!?」
ルシアが反応する。ヴェルの昔話で出てきたのだろうか
「うん、特徴としては完璧に一致してるんだけど...」
絶滅してる扱いなら、俺たちが知らなかったのも納得がいく。個体数がそれだけ少ないってことだ
「特徴って、どんなのだよ」
「えっとね!まず、見た目はウルフみたいでー」
「そんなモンスターは何種類といるぞ」
「そして、すっごく素早いの」
「まあでも、オオカミ系は速いしなぁ」
「そして鳴き声が珍しくて、グルルララーッ!って鳴くの」
「おお!完全一致じゃないか!」
...
「でも絶滅してるんだろ?」
「一匹くらい生き残っててもおかしくないよ!」
「そんなもんかねぇ」
このあたりは結構街に近いし...見つけられると思うんだが...
「もっと見たかったなーー!」
のんきなもんだ
しかし、仕留め損ねたのはちょっち残念だな
「ほらほら、歩くぞ、こんなことで止まってたら旅なんて出来ないだろう?」
全くその通りだ
「ほいほい」
それじゃ行きますか
カチャ...カチャ...カチャ...
とてとてとてとて...
またもや、足音を鳴らしながら俺たちは歩きだした
せっかくだから、昔話もちょっとは聞いてやるかな
「で、絶滅したって言ってたけどよ、なんで絶滅したんだ?」
「言ったでしょー?テザフュスが完成させた新兵器、チベルエラグラドンを使ったんだってー」
「そのチベスナグラードンってなんだよ」
「チベルエラグラドン!雷属性のウルフ特攻武器で、その雷光の如き攻撃は最強っ!」
急に語彙力が下がるな
「誰が使ってたんだ?」
「みんなが使ってたんだよ。グルイルフは強くて、弱いモンスターを倒しちゃうんだって、そのせいで弱い人が倒すモンスターがいなくなったりするから、迷惑を感じてたみんなで一致団結して戦ったんだよ」
「ふーん」
魔王との戦いに勝つために必要なのが魔王軍のモンスターとはな、なんか変な感じだ
「でね!他にも!...」
...
俺はヴェルと話しながら歩いていた...
「あの2人...」
「本当に兄弟みたいだよね...ちょっとジェラシー...」
そうだろうか?
......
...
俺たちは歩き続けている
本来の旅の目的は違うが、この少女との限られた時間に、少し、楽しさを感じていた
歩き続ける俺たちと違って、ヴェルには帰るべき家がある。親も心配しているだろう、早く家に返さないといけないのだが...
ちょっと、名残惜しいよな
フッ...
そう思ってしまった自分が、自分で少し恥ずかしくなってしまった
「わっ!やっぱ撤回!鼻の下伸ばしちゃってるよ!あんな小さい子に!」
...
はぁ...全く...
しかし、こんな今が、俺にとっては憩いの時間だ
いつか来る激しい旅を控え、俺たちは歩き続ける
いつか来る別れも乗り越えて...
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