弥生 和貴(やよい かずき)
立ち止まった先、石造りの門が出迎え、その奥に二階建てと三階建ての校舎があり、他の学校と同じくグラウンドも設備されていた。
少し歩いたところには学生寮があり、学生たちは全員寮で暮らすことになっている。寮まで送り届ける予定だった雪邑は急遽呼び出しを受けたため、寮へは渚杜一人で向かうことになった。学生寮は男性、女性用とそれぞれ二棟用意されている。
渚杜は案内状に従い自分の部屋を目指した。廊下を歩いた一番端の部屋。そこには既に名前のプレートが掲げられていた。
自分の名前を確認すると、扉を開けようと取手に手を掛けたところで隣の部屋の扉が開いた。
「わっ! びっくりした。誰!? あ、新しい入寮生?」
顔を覗かせたのは渚杜と同じ年の少年。少年は渚杜を頭の先から爪の先まで往復し、渚杜のズボンをギュッと握りながら見上げてくる二人の少女と目が合った。
「うん。今年から陰陽寮へ入学する卯月 渚杜。よろしく。君は?」
「よ、よろしく。俺は弥生 和貴(やよい かずき)」
「同期……つまり! 新しい友達か!」
「会ったばかりでもう!? 気が早いな!?」
渚杜の発想に和貴が目を丸くする。同級生からいきなり友達へのステップアップが早すぎる。目の前で瞳を輝かせる少年に和貴は苦笑いを返した。
「ところで、さ。その……」
和貴の視線が渚杜から足元へ移動し、それに気付いた少年が驚いたように目を見開いた。視線を受けた二人の少女も和貴と目が合う。驚いた黒緋と裏柳は渚杜の足で顔を隠したが、その動きまで追えている時点で完全に和貴は二人を視認できている。
「ああ。この子たちは」
「お前の妹?」
「違うけど」
説明しようとした渚杜に被せるように言った和貴の言葉は間髪入れずに否定された。
「二人は俺の式神。黒髪が黒緋で、白髪の方が裏柳。ほら、二人とも挨拶」
渚杜に促された二人は一歩前に出ると和貴を見上げた。
「あたしは黒緋。主の式神」
「私は裏柳。同じく主様の式神です。よろしくお願いいたします」
一礼した二人の式神に遅れながらも和貴は「う、うん。よろしく」と返して再び渚杜を見る。自分の式神が初対面の人にしっかりと挨拶出来たことに満足しているようだ。
「って、ちがーう! 新入生なのになんでもう式神召喚してんの!? しかも、二人も! 陰陽寮へ入学する必要ある? お前何者(なにもん)だよ」
「主様はとても努力家なので」
「師匠様がとても厳しかったので」
「あははは。二人とも口が軽いぞ」
声を揃えた黒緋と裏柳の口を渚杜は笑いながら抑えた。
「まあいいや。人の事情はそれぞれだしね。お前、えっと、卯月だっけか。寮のことは知らないんだっけ?」
「そういえば何も聞いてないな」
「この棟は男子寮。一階が一年生、二階、三階と上がるごとに学年が上がる。食事は平日は朝と夜に食堂で飯が出る。風呂は一階にあるから空いてる時に入るって感じかな。任務があるからみんな時間バラバラなんだよ。ま、一年は任務があまりないから風呂の時間は割と自由かな。何か分からないことある?」
「いや、今のところは大丈夫。和貴はいつから寮に入ってるんだ?」
「あ、ああ。一週間前からだよ。入学が楽しみで早めに来ちゃった、みたいな感じ」
和貴は笑顔でそう言った。寮の案内をしようか、と和貴が提案し、渚杜が頷きかけたタイミングで渚杜のスマートフォンが鳴った。断りを入れてからスマートフォンの画面を見ると「狐井雪邑」の文字。そういえば、別れる前に番号を交換したんだったと思いながら通話をタップする。
「ああ、出た。渚杜、時間あるか? あるよな? すぐに寮の外に出てくれ。急で悪いが任務、受けてくれないか?」
そう言われた渚杜は「わかりました」と返すと通話を終了した。
「なんだ、急用か?」
「うん。ちょっと行ってくる」
渚杜は和貴に手を振ると寮を出て行った。出会ったばかりの少年を見送った和貴は「変な奴……」と零し、息を深く吐き出した。
「……この陰陽寮がどんなところか知らないんだろうなぁ。希望に満ちた目をしてさ……」
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