<第1話「森へ脱走」から第3話「温かい食事」までを読んでのレビューです>
文体は淡々としておりながらも、視点人物の心情が強く滲む。展開は切迫感と静けさが交互に現れるように進み、場面ごとに色調が変化するのが印象的でした。読み進めるうちに「走る息遣い」と「森の空気感」が重なり、読者の身体感覚に迫ってくるように思えます。
個人的に印象的だったのは、
「心臓が路上のペットボトルみたいに潰れそう」
という一文です。ありふれた道端の光景を比喩に使うことで、逃げ出す少女の恐怖が急に生々しく立ち上がるように感じました。極端に飾らない表現でありながら、場面の緊張を確かに支えています。
虐げられた日常からの脱出、そして不思議な存在との出会い。その流れはシンプルですが、読みながら常に「この先はどうなるのか」と足を進めたくなる。とりわけ、食事の場面での温もりに、物語の芯があるのだと理解できました。