第36話 墜落
「いやぁ、お前らが無事で良かった良かった」
機体を船の格納庫へ送った後、アルバートはそう言って裕斗とルイーゼを労った。
「いやいや、あんなの楽勝でしたよ」
「ほう?私の目には武器がなく慌てる姿が映っていたのだが」
「ギクッ!」
ルイーゼに痛いところを疲れる裕斗。
裕斗は痛いのは嫌なので強引に違う話題へと持って行った。
「あ!そういえばあの二人は大丈夫でしたか!?」
「アルゴとトーマスのことか?あいつらなら船ン中で手伝ってるぜ。お前に助けられた後だからな、気まずくて会えないんだろ」
「そうですか……」
話をそらすために振った話題だったが、それでも無事だという知らせにほっとする。
「ちょっとあんた達何してんの!早く乗らないと置いてくわよ!」
ふいに聞こえた怒号に振り返ると船から赤髪の少女、ヴァネッサが顔を出した。
「ああ、ごめん。すぐ乗るよ」
裕斗はプンプン怒るヴァネッサをなだめるように言った後、ルイーゼとアルバートとともに船へと乗り込んだ。
扉が閉まるとともにガコン、と音を立てて船が浮かぶ。
先程まで踏みしめていた地面はみるみるうちに小さくなり、船は起動を変えて元居た国へと帰るべく進みだした。
「フゥ、やっと帰れるね」
ふにゃった顔で壁に体を預ける裕斗に、ルイーゼは「そうだな」と頷いた。
「今回は予想外の戦闘もあった。部屋に戻って休むとしよう」
「うん」
船には兵一人一人に部屋が割り振られている。裕斗とルイーゼは両隣の部屋に割り振られているため、部屋に戻る際は必然的に同じ道を通ることとなる。
「じゃあ僕たちは部屋に戻るね」
裕斗はヴァネッサとアルバートに顔を向けた。
その時だった。
衝撃。
耳をつんざく激しい音とともに船が大きく揺れる。
バランスを失ったのか、船は地面に向かって落下していった。
「なな、なんだ!」
「きゃああああ!何よこれ!」
「一体何が……」
裕斗、ヴァネッサ、ルイーゼはそれぞれ困惑した表情を浮かべる。
そんな時、それぞれの通信魔導具からエルザの声が聞こえてきた。
『当艦はこれより不時着する!皆衝撃に備えろ!』
「ハァァァァ!?」
思わず声を荒げる裕斗。それに対してルイーゼは冷静だった。
「とにかく何かにつかまって体制を低くするんだ!」
「ッ!」
ルイーゼの指示に従い、壁の取っ手につかまって体制を低くした。
次の瞬間、さらなる衝撃。
壁のガラスはすべて砕け散り、裕斗の脆弱な体の中をシェイクするかのような衝撃が襲う。
地面に接触しても、船の落下エネルギーは消え去らない。
ガガガガガッ!
地面を削るようにして、船はその身を削りながら突き進む。
よもやこのまま船がすべて削り取られるのではと思われたが、船の揺れが収まった。
「止まった……?」
「の、ようだな」
ルイーゼの言葉にホッ、と裕斗は息を吐く。
「お前ら、ケガねえか?」
アルバートは立ち上がって裕斗たちの無事を確かめる。
「ええ、はい……ウッ!」
彼に返事を返そうとしたその時、裕斗は嘔吐した。
「ウプ…ウェ、オェェ……」
裕斗は何とか抑えようとするが止まらない。
「ユウト!?」
「ちょ、あんたどうしたのよ!?」
「お、おい!どうしたんだ!?」
ルイーゼたちは裕斗に駆け寄るが、裕斗はそれに答えることができない。
吐き気が止まらないし、さっきから頭がガンガン痛い。意識も朦朧として来た。
それでも何とか、口を動かそうとする。
「だ、だいじょ…ウ……」
そこまでして、裕斗の体は横に倒れる。
「―――!―――!」
ルイーゼはそんな裕斗に何か言っていたが、それが脳に届く前に、裕斗の意識は闇の中へ消えていった。
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