第25話カレンと勇者
時は少し遡る
冒険者ギルドで大きく取り乱したカレンに勇者ユージは舌打ちをする。
カレンのノアへの執着心を数年かけてじっくりと自分へと向けるように洗脳し、もうすぐ完全にノアのことは忘れて自分に依存する想定だったからだ。
カレンの記憶の奥底に眠っていた幼い頃の思い出が、大好きだったノアとの思い出が一つの記事によって呼び起こされ、洗脳が解けたのである。
「ノア……ノア、ごめんね、ほんとにごめんね……」
ぶつくさ独り言を言うカレンを聖女エミリア火の大魔法使いフレアに担がせて宿へ急ぐ。
洗脳が解けたばかりで混乱している間ならば、もう一度かけ直すことも比較的容易であるからだ。
それに、協力者である騎士の助力が必要なのだ。
「おい、早くしろ!」
「は、はい!」
「わかったわ」
ユージの洗脳に掛かっているのはカレンだけではない。パーティの女性陣であるエリシアとフレアもその毒牙にかかっていた。
これまで幾度となく体を交え、愛を囁き合うほどに。
「でも、こんなに有名になるってことは、剣聖の私と釣り合うように努力したんだよね……。そうだよね、ノアが私を忘れるはずないし、嫌いになるはずがないもの」
「ちっ、まずいな……」
ユージはカレンを奪った時を想起する。
☆☆☆☆☆☆
当時まだ若かったユージは、偶然訪れた田舎町で飛び抜けて可愛い女の子を見つける。
深海のような美しい髪に、ぱっちりとした目。笑顔がとびきりキュートだった。
それがカレンである。
当時15歳だったユージはもう勇者として認定され、仲間探しと修行の旅に出ていたため、彼女を仲間にしようと考えた。
まずは、顔見知りになり良い印象を持たせることを試みる。
友人と二人で遊んでいるところに声をかけた。
「やあ、かわいいお嬢様。俺はユージと言うんだ。よろしくね」
できるだけ優しく言ったつもりだった。
しかし、カレンは友人ーーノアの背中に隠れ、怯えた表情を見せる。
「ど、どうしたんだい? こっちに来てお話しようよ」
それでも出てこない。
明確な拒絶に、ユージはイライラする。
ユージは元々貴族であり、選民思想の激しい一家で生まれ育った。
自分が欲しいものは全て手に入り、平民が傅いて命令を聞くのはユーザの中で当然であり、その思想は勇者に選ばれてから拍車がかかっていた。
「おい、平民。こっちに来い! ーーいって!?」
ノアの背後にいるカレンの腕を掴もうと手を伸ばす。
その手をノアが持っていた木刀ではたき落とし、そのまま二人で逃げ去っていった。
「あ、おい! くそが!」
これまでユージの手に入らなかったものはほとんどなく、それは一国の皇女であったり、国宝などユージの頭でも流石に厳しいかも、と思えるようなものであった。
平民ごときに高貴な自分の誘いを断られ、木刀で殴られることなど人生において初めてであり、屈辱だった。
「絶対に逃さねえし、許さねえぞ……!」
そして、ユージはカレンとノアについて徹底的に調べさせた。
その上で、自分に無礼を働いたノアにとって何が一番絶望させられるか、そしてカレンを自分のモノにできるかを考えた。
「……そうだ」
そして思いついたのが、自分の誰も知らない能力、洗脳を使ってカレンの手でノアを拒否し、自分を選ばせるという方法。
洗脳は、単発ではほぼ効果がないが、じっくりと何度も何度も使えばそれは根深く精神を蝕み、最後には完全に洗脳ができる能力。
また、これは精神が未熟な子どもやボケている老人には効果が強くなる傾向にある。
とは言っても、短期間では深層心理だったり、思っていることを吐き出しやすくする程度だが。
ユージはこれを利用して、対外的にはカレン自らの意志で勇者パーティに入ることにさせ、カレンがノアを裏切る構図にすることを考えたのである。
そして、街の広場でカレンを勇者パーティに指名し、壇上に上がらせたカレンに洗脳の能力を使って、
「勇者パーティになりたいよな?」
と囁く。
そのあと民衆に聞こえる声量で問うのだ。
「カレン! どうか俺と一緒に諸悪の根源、魔王を倒す旅についてきてくれ!」
カレンは逡巡する。
「ついて来い」
そうして、一人の少女が勇者と旅を共にすることとなった。
絶望に打ちひしがれる少年に対して、
「この者はカレンを唆す害悪だ。甘言でカレンを洗脳し、自分のものにしようとしていた!」
と叫び、ノアの印象操作をすることも忘れずに。
そんな洗脳が解けた状況だが、実はカレンたちが勇者パーティを抜けるのは容易なことではない。
国王から叙勲と認証を受けて結成された今の勇者パーティを解散させることは、国王の意見を無視すると言うことに等しく、またカレンが洗脳された、と言いふらしても証拠がないのだ。
ユージはその間に、じっくりと念入りに洗脳を強化することや、万が一洗脳が効かなかったとしてもこれまでのセックスの快楽で自分なしでは生きられない体にしてやろうと、どこか楽観的な考えを持っていた。
そして宿につき、カレンを部屋に押し込む。
「おいカレン、大丈夫か?」
ユージが訊ねるも、返事は返ってこない。
「新聞に何か書いてあったのか? 教えてくれ」
「なあ、カレン」
「おい」
いくら呼び掛けてもカレンは反応を示さなかった。
埒があかないと、勇者は能力を使う。
「俺はお前の彼女なんだから、なんでも相談してくれていいーー!?」
言い終わる前、カレンとユージの間の中空で紫電が迸った。
それはユージの頭に激痛を与えた。
「……"
カレンも同様に、紫電を驚きを持って見ていた。
そして、自分の開花した能力が何であるかを自然と理解し、この能力が発動した理由を察す。
「……! まさかあなた、洗脳か何かしてたわね!?」
「げっ……ち、ちがう! 決してそんなことはしていない!」
洗脳が効かないというイレギュラーにユージは焦る。
「嘘つきなさい! あなたが喋った瞬間に私の能力が発動した! 言葉の魔法以外に何があるのいうの!?」
「ぐっ……」
「最低ね! 勇者がこんなクソやろうだなんて、選んだ神様も承認した王様も泣いてるでしょうね!」
純粋な怒りをぶつけられ、短気なユージも青筋を浮かべる。
「なんだとっ! 俺に見染められたからって良い気になりやがって! 平民風情が偉そうにもの言うんじゃねえよ! 俺の力だって、思ってもないことをいきなり言えるようになるほどの力はねえよ! あーあ! こんなことになるならお前をわざわざ洗脳してまで連れてくるんじゃなかったぜ!」
その言葉を聞いた瞬間、カレンは冷や水をぶっかけられた勢いで青ざめる。
「え……。まさか、あの時もあなたがその能力で私に選択をさせたの……?」
彼女は最近になるまで、女性陣にノアのことを語っていた。
彼女の目線の話では、最後は辛い別れだったけど、きっとノアは自分を信じて待っててくれる、応援しててくれる。
勇者様は好きだけど、いつかはノアも迎えに行って、一緒に旅をしたい。
と楽しそうに語っていた。
女性陣はノアと一緒に過ごすのは厳しいそう、と感じながらも、年頃の女の子だ、カレンの色恋話を楽しそうに聞いていた。
自分の人生の転換期の選択を、洗脳によって歪められていたと知り、カレンは愕然とする。
取り繕うことを諦めたユージは哄笑する。
「そうだよぉ! 軽く洗脳してやったらイチコロだったよ!」
「あなたって人は……! もういい、これからは別行動よ!」
「おい落ち着けよ。過去はどうやったって変わらないだろう」
「あなたが言うことなの!?」
カレンの絶望顔を見た時に少し冷静になったユージは、絶世の美女に育ったカレンを見て、やはり手放すのは惜しいと考える。
「要するに、お前はノアってやつとやり直したいんだろ? 俺たちはこれから学園に帰る。その時にノアを旅に連れて行けばいいじゃねえか」
「……」
カレンは思案する。
勇者パーティを抜けるには相当な労力がかかる。
それに、苦楽を共にしたエリシアとフレアをこのまま置いていくのは忍びない。
まずはノアに勇者パーティに入ってもらってから、手順を踏んでゆっくり脱退すればそれでもいいのではないか。
「約束よ」
とりあえず、カレンは頷く。
ユージは小手調べとか力試しとか適当な理由を付けてノアをぶち殺し、動揺した隙に洗脳してやろう、と心に決める。
何年も頼ってきた、依存してきたと言ってもいい洗脳の能力が100%効かないとはどうしても思えないユージの判断だった。
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また、読んでいて不鮮明だった部分、イメージしづらい部分なども教えていただけると幸いです。
★個人的に読者の皆さんの意見を聞きたいところ★
○現状ミーシアのヤンデレが垣間見えていると思いますが、ちゃんとヤンデレぽくなってますかね?
○ノアが少しずつ人に慣れていっている感じ、出てますか?
○ノア、女性キャラそれぞれ魅力を感じますか?
○ストーリーでわかりにくいところとかないですか?
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