第18話イレギュラー
ミーシアにめちゃくちゃ心配されたあと、ルナトリアが止めに入る夜中まで好き放題された翌日。
ブーベンツが今日の放課後に行われるダンジョン攻略の概要やルールを説明している。
「放課後に行われるダンジョン攻略は隣のクラスと合同で行われる。君たちは何名かでパーティを組み、ダンジョンの奥にある鍵を持って帰ってきてもらう。それぞれのパーティに上級生が一人つくから死ぬ可能性は低いが、油断大敵だ。また、人数が多ければ多いほど成績は上がりにくいから気をつけるように。適正は4〜6名だ」
この学園の地下にダンジョンがあって、適当にパーティ組んでクリアしろってことらしい。
それを聞いた生徒たちが誰と組もうか、とざわつく。
俺? 俺にはそんな相手いないから大丈夫……。
普段声掛けてくれる女の子たちも、普段へばっている俺を連れてクリアする自信はないようだし。
これでも魔法の授業はちゃんと聞いて練習したから、リオラ姉ちゃんのところにいた時くらいの感覚は戻ってきているんだけど。
「……ふぁあ」
もちろん男子から声がかかるはずもなく、俺はぼんやりと話を聞き流していた。
そしたらその後のブーベンツの授業でいつも以上に走らされた。
そして放課後、結局マジでソロになりそうな雰囲気を感じながら、集合場所であるグラウンドに行く。
「あ、ノアっ! あなた一人なの?」
いつものメンバーで集まっていたミーシアが声をかける。
「まぁ……うん」
普段から人付き合いを避けているため、仕方ないといえば仕方ないのだが、改めて言葉にされると地味にくるものがあるな……。
「じゃあ私たちのチームに入りますか?」
複雑な表情をしていると、サーシャが誘ってくれる。
「えっと……」
「いいじゃんね! 入りなよっ」
「……歓迎」
こういう時、どういう反応をすればいいかわからないでいると、みんなが笑顔で迎えてくれた。
「ね?」
「……お願いします」
別に信用なんてしてないが、ちょっと照れくさくて嬉しかったのは秘密だ。
こうしてパーティは俺、ミーシア、サーシャ、リア、ルアの五人。
見張りの先輩はヒョロヒョロのブス男だった。
☆☆☆☆☆☆
ダンジョンの中は、壁に埋め込まれた光源である程度は明るかった。
俺たちは初めて潜るダンジョンにテンションが上がる……と思いきや
「なあ、君ら美人だねぇ。こっそり手伝ってやるからこの後ご飯でもどう? ゲスス」
「いえ、結構です」
「つれないこと言わずにさぁ? 奢るよ?」
「お金の心配はありませんので」
「おじさんは黙って仕事しといてくれるかなー?」
「……邪魔」
「ぐ……」
付き添いの先輩がいちいち声を掛けてきて、うちの女性陣が絶賛大不機嫌中だった。
俺以外の全員に拒否られた男は、俺の近くに歩み寄る。
「き、きみはどう? なんならお金出してもいいよ! ゲスゲスゲス」
「あ? ケツの穴かっぽじって奥歯ガタガタ言わせたろか」
「ひいぃぃ!?」
男になに声掛けてんだアホ。
……それにしても、思ったより低い声出たな。ついに俺にも声変わりがきたか!?
一人テンションが上がる一方で、俺の一言が効いたのか先輩はしょぼんとして一番後ろの定位置に帰っていった。
ミーシアがぶるぶる震えていたのはなぜだろうか。
「敵だよっ!」
リアの声が緩んだ空気を引き締める。
対面するのはゴブリン。一個体は大した強さではないが、数が多いので囲まれると厄介なモンスターだ。
「風よ」
「風切りっ」
「
「……ふっ」
俺、サーシャ、ミーシアの魔法が、ルアの土壁で逃げ場を失ったゴブリンたちに直撃する。
そして、追撃に行ったリアが両刃の剣を振るう。
「てりゃあっ!」
一体、二体と倒したところで全滅した。
前衛がリアだけという偏重パーティだが、この程度なら余裕を持っていけそうである。
「やったわね!」
「やりましたっ!」
「よっしゃー!」
「……いぇい」
それぞれ初討伐に盛り上がっている。
先輩の少し悔しそうな表情を見る限り、ゴブリンからレベルが大きく上がるモンスターはいなさそうである。
と周りの様子を見ていると、
「ほら、ノアも。いぇい」
「え、あ……いぇい」
彼女たちの間に、俺も混ぜてもらう。
久しぶりに、友人とこんなことをした気がする。
俺も幼馴染が勇者に奪われなければ、こんな景色が日常になっていたのかな。
ふと、過去を思い出して涙がこぼれたが、すぐに拭い取ったので誰にも気づかれていないだろう。
「じゃあ、進もっか!」
パーティはまた歩き出す。
俺も、くよくよしてないで前を向かないとな。
それからも敵の強さは変わらず、サクサクと進んでいく。
すると、進むペースが早かったのか、先行していたパーティの声が聞こえてくる。
「ーーー早く!」
「やってる!」
「先輩! 助けてくださいよ!」
どうやら苦戦しているらしい。
俺たちは顔を見合わせて、頷く。
「様子を見に行こう」
少し開けた場所で先行パーティが対峙していたのは、体高がミーシアの身長ーー160cmほど、長さが15mほどもあるデカい緑色のトカゲ。
先行パーティは二名が怪我をして倒れ、二名が逃げ回っている。そして付き添いの先輩は離れたところでへたりこんでいる。
「な、なんであいつがここに!?」
後ろにいた先輩が悲鳴に似た声をあげる。
彼からしても、想定外のモンスターのようだ。
「た、助けてぇ!」
戦闘、いや一方的に嬲られているパーティからの助けを求める声。
「行くわよっ!」
ミーシアの声に続き、みんなが臨戦体制をとる。
「鎌鼬……!」
「風切っ!」
まずは俺とサーシャの風魔法が、女性に噛みつこうとしていたトカゲに衝突する。
「グギャァァ!?」
ゴブリン程度なら真っ二つにできる威力の魔法は、トカゲに裂傷を作る程度に終わる。
「ノアっ!」
「ああ」
普通の魔法じゃ効かないと感じ、俺はミーシアに支援魔法を掛ける。
身体能力と魔法が大幅に強化されたミーシアが魔法を発動する。
「火炎弾っ!」
ミーシアを覆う大きさの火の玉がトカゲへと向かう。
「ぐぎ!?」
それをトカゲは俊敏な動きで回避する。
目標を失った火球は壁にぶちあたり、強い熱風としてトカゲを襲う。
「先輩! あの人たちを安全な場所に運んでください!」
「む、無理だよ!」
サーシャが叫ぶ。
しかし顔を青ざめさせた先輩はそれを拒否、それどころか来た道を走っていく。
「あーもうっ、使えないな……!」
リアが毒づき、トカゲに肉薄して気をひく。
それと同時に強化されたミーシアが生徒を回収に向かう。
リアはまともに打ち合っては分が悪いと、ヒットアンドアウェーで戦う。
そして、ミーシアが運び終えた頃、トカゲの尻尾がリアを捉える。
「う"っ……!?」
なんとか剣を間に挟んだが、強い衝撃に小さな体が吹き飛ばされる。
「リアっ!?」
普段静かなルアの悲鳴。
俺の中で葛藤が生まれる。
俺たちはまだ一年生の最初で、強大な魔法なんてものは全然使えない。
そんななか、二年生がびびって逃げ出すようなモンスターを相手にできるわけがない。
だが、俺の支援魔法を全員に付与すれば可能性は十分に生まれる。
「……」
しかし、リオラ姉ちゃんは言っていた。支援魔法の才能は、悪い奴にバレれば悪用されかねないよ。だから、本当に信頼できる人を見つけて、使おうね、と。
正直、まだ踏ん切りがつかない。
「くっ……らぁぁぁっ!」
起き上がったらリアが裂帛の気合いで再びトカゲに向かう。
尻尾の攻撃を意識し、正面から突撃。
「……土壁っ」
足の引っ掻きをルアが土壁で妨害。
その隙に一撃。しかし力不足で浅い傷しか入らない。
またリアが下がろうと着地した瞬間。
「なっ!?」
トカゲが長い舌を伸ばし、リアを捕える。
リアはもがくがびくともせずに、恐怖を煽るようにゆっくりと口に近づけていく。
魔法を使えば巻き込んでしまうため、俺たちは動けなかった。
「……っ!」
俺の主人のミーシアの親友である女性。彼女が心を許している友人ならば、俺も信用してもいいんじゃないか。
掌をリアに向ける。
短い期間だが、明るい姉のように振る舞ってくれた少女に、俺は支援魔法を全力で掛けた。
「くっそ……!? これは……」
リアは淡い光に包まれる。
「リアっ!」
彼女の名を呼んだ俺と目が合う。
「う、おぉぉぉぉッ!」
ぶち、ぶちぶちぶちィ……!
リアがニヤリと笑って叫び、舌を引きちぎる。
「グ、ギャァァァァ!?」
たまらずのけぞったトカゲ。
リアはその隙を見逃さない。
地面を踏み締め斜め上に飛び上がり、剣で胴体をぶち抜いた。
「ゴギュッ……」
どしん、と地面が揺れる。
トカゲは、リアのたった一撃で絶命に追いやられたのだった。
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