第17話因果応報

それからひと月が経っても、あの差別推奨教師、名前はブーベンツの平民いびりは変わらず、あいつが担当の授業はいつもヘトヘトになっていた。


交友関係は、女子と少し顔見知りになった程度で男子との関わりは一切なく、彼らが俺へ送る視線は厳しいものになっていることを自覚している。


昼休みも相変わらずミーシアたちと一緒にいるので、もはや男の生徒と関わる機会は当分なさそうである。


と思っていたある日のこと。


「なあ、放課後この資料をE棟の103号室に運んどいてくれ。用事があって忙しいんだ」


授業間の移動時間に、ある男の貴族から声を掛けられた。

人に物を頼む態度ではなかったが、断ったら断ったで面倒臭そうなので了承する。


「……ああ」


無駄な仕事が増えてげんなりするが、今日はミーシアたちのクラスでダンジョン攻略説明会があり、一人で帰るため迷惑はかけないからいいか、と切り替えることにする。



そして放課後。

無駄に多い量の紙束を持ってなんとか目的地に辿り着く。

がらり、と扉を開けると、中から腕が出てきて勢いよく引き込まれた。


「うわっ!?」


前につんのめり、四つん這いに倒れると、見計らったかのように蹴り上げられた脚が俺の腹を襲う。


「う"うっ……」


酸っぱい液が胃から込み上げ、力無く倒れ、うずくまる。


「パシリご苦労様でした〜。ギャハハっ!」


頭上から聞こえる嗤い声。

三人程度が俺を囲んで笑っている。


「なあ、これから何されるか分かるか?」


「っ……知るかクズがっーーーぐぇっ」


「お前はボコボコにされて、この映像水晶で服ひん剥かれて恥ずかしい映像を撮られて一生俺たちの奴隷として生きてもらうんだよォ!」


胸ぐらを掴まれ無理やり立たせられ、壁に押し付けられる。

抵抗しようにも力は相手の方が圧倒的に強く、勝ち目は薄い。

そして魔法で戦うのも三体一は厳しい。


「へ、やってみろよ……!」


「減らず口を!」


ならば、暴力を受け流そう。

殴られる瞬間、風魔法を発動し、自分の体を回転させることや先に自ら飛ぶことで威力をいなす。

リオラ姉ちゃんに教えてもらったことの一つである。

屋敷の事件の時は相手が格上であったため意味をなさなかったが、この程度の相手なら十分できる。


「おらっ!」


「死ねやッ!」


普段人を殴り慣れていない貴族のぼんぼんたちは、受け流されていることに気づかず、楽しそうに暴力を振るう。

それに合わせて俺の服や身体もボロボロになっていくが、ダメージは見た目より相当少ない。

だが、映像は脅しの材料になる。だから、その前に逃げなければならない。


「ふぅ……。そろそろいいぜ。次は恥ずかしい映像でも撮ってやるよーーーなに!?」


それが五分ほど続き、貴族たちは息を整える。

その一瞬の隙をつき、扉へ全力で走る。


「ざまぁみろ!」


扉に体当たりし、開かないことがわかると鍵を開ける。幸いキーが必要なタイプではなく、すぐに空いた。

ガラガラと扉を開き、外の景色が見えた


「逃すかよ」


腰を捕まえた一人がまたしても室内に引き込む。


「くうっ……!」


そして、扉は閉められ、一人がそこに張り付くように立つ。


「危ねえ。まだそんな元気があったとはな……。だが残念だったな、もうチャンスはない」


ボタンが外され、一枚、また一枚と衣服を奪われていく。


「離せよ! くそ! だからお前らはゴミなんだ! 私利私欲のために人を傷つけて、なんとも思わねえのかッ! お前らなんか人じゃねえ!」


「黙らせろ」


「ーーーっ」


首を絞められ、声が出なくなる。

首にかかった手を外そうと抵抗するが、力の差は歴然であり、魔法も集中できないなかで首に使うのは困難である。

だんだんと薄れゆく意識の中で思う。


(やっぱり貴族は害悪だ)


だらん、と力が抜け、もう意識を無くす。

その瞬間だった。


鍵ごと扉が吹き飛ばされた。

そこには凛とした雰囲気の少女。


「なにをしているんだッ!」


現場を見るや否や、腰に携えた木刀を一閃する。


「うごっ!?」


「ほげぇ!?」


彼女は超速で接近し、木刀が二人の頭を捉えており、二人は意識を手放す。


「かひゅーーーげほっ、がほっ……」


気道が確保された俺は酸素を目一杯吸い込み、むせる。

彼女はそんな俺の背中を静かにさすってくれる。


「……ふぅ」


「大丈夫かい? って傷だらけじゃないか」


落ち着いた頃合いで、彼女が口を開く。


「怖かったね。でももう安心さ。悪者はボクが倒したから。ほら、ぎゅっ」


そう言って抱きしめられる。 


「むぐぅっ……」


外からはわからないが、意外とデカい胸に顔を埋められ、なんとか顔を上に向けて呼吸を確保する。

顔をよく見てみると、真っ白な長い髪をポニーテールにしており、緋色の目が特徴のスラっとした美人だ。

貴族に虐げられてきたからこその俺の貴族センサーが反応しないあたり、この人は平民の出っぽい。


「暴行に性暴力未遂、最低だね。でも間に合って良かった」


爽やかな笑みを浮かべる美少女。


「えと、あん……あなたは?」


「あぁ、ボクは騎士科二年生、ユズリハだよ。これでも学内じゃけっこう強いんだ。だから安心してボクに守られてね」


騎士科か。

初めてあったけど、正義感のありそうな人物である。



「は、はあ」


安心して守られてねってところが意味わからないがなんか大丈夫な人そうである。


「キミは?」


「俺は魔法科の一年生のノア……です」


「ノア、だね、よろしく。キミみたいな可愛い子が騎士科にいるわけないもんね」


「あはは……」


今すぐ否定したいが、恩人なので苦笑に留める。


「……って待って、『俺』って言った?」


「え、ああ」


「男の子なの……?」


ユズリハは信じられない物でも見たような表情をしている。


「そうだよ……ですよ。悪かったですね女みたいでこれから成長もしなくて」


「え、えぇぇぇぇぇーーっ!」


そんな感じで、俺は騎士科の"剣姫"ユズリハと出会った。








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