第16話友人

 ミーシアは昔からの友人たちとランチをするつもりだったらしいが、初日の俺のクラスを見て、俺をそこに連れて行くことに決めた。


「まさか初日からあんなことになるなんて……。ノアが可愛すぎるせいだからね」


 とか言っていた。

 俺が昼休みに弁当を持って教室を出て行くと、女の子たちがしょぼんとしていたのは気のせいか。


 ミーシアに連れられた先は木で作られたテラス。

 日光が程良く差し込み暖かく、過ごしやすい場所である。


「待たせたわね。この子が昨日言ってたノアよ」


 そこにはミーシア以外に三人の女子が座っている。


「こんにちは。はじめまして、サーシャ・フィレンツと申します」


 と丁寧な挨拶をするのは金のセミロングをゆるく巻いた髪型の、どこかリオラ姉ちゃんに似ている女性。リオラ姉ちゃんには彼女ほどお淑やかさはなかったけど。


「どーも、あたしはリアだよ!」


「……ルア」


 と言うのは発言とは裏腹にどっちがどっちか分からないくらいに似た双子? 

 浅黒い肌とどちらも綺麗な銀髪のショートヘアで、右目を隠しているのがリア、左目を隠しているのがルア……らしい。

 家名を名乗らないってことは平民か? にしてはぽくないような……。


「……よ、よろしくお願いします」


「この子たちはあの侯爵家の女みたいなことはしないから安心して。私の友人だもの」


 そう言って、ミーシアは俺を席に座らせた。


「その方がミーシアがゾッコンの奴隷ですか」


「まあね、可愛いでしょ。ちょっと人が苦手なところがあるから、無愛想に見えるけどほんとはいい子なのよ」


 円形のテーブルの横に座る俺をミーシアが撫で、その様子を見てサーシャが微笑む。


「ノア! 背比べしようよ!」


「……やろ?」


 双子姉妹は俺の手を取り、背中合わせに並べられる。


「むむむ……ルアの方が高い!」


「……いえーい」


「嘘だろ……」


 女性の中でも低い方であろうルアよりチビらしい。なんなら身長がほぼ変わらないリアよりも低いだろう。

 あまりのショックにがくり、と項垂れる。


「ミーシアが女の子もイける口だなんて初めて知ったよ!」


「……びっくり」


「そんな趣味ないわよ。この子男の子よ?」


「「「え?」」」


 目を丸くしてこちらを見る三人。

 またかよ。


「……俺は男だよ」


 何回訂正しなきゃダメなんだ。

 間違われるたびに男としてのなにかが減っていく気がする。

 不満げにそう告げると、ぺたぺたと双子が体を触りだす。


「ほんとだぁ、胸ぺったんこじゃん」


「……付いてる?」


 信頼してないやつにベタベタ触られるのは嫌いなため、いつも通りキツく言ってやろう。


「ちょ、触んなっ……いでください……」


 と思ったがこの人たちは。

 ミーシアの友達、ミーシアの友達……。

 俺のせいで仲が悪くなったら申し訳ない、という理性が働き、消えいるような声で敬語を付け足した。

 よく耐えた。成長してるぞ俺!


 ぷるぷる震えていると、ミーシアが助け舟をだす。


「その辺にしといてあげて。本当に人が苦手だから」


「りょーかい!」


「……ほーい」


 彼女たちも一通り満足したようで、素直に席に戻った。


「それで、昨日は『ノアを人に慣れさせるんだーっ』って言ってたのに、昨日の今日で連れてくるなんて、何があったんです?」


「あぁ、それがね……」


 ミーシアたちが喋っている間、俺は無心でご飯を食べるのだった。



 一方教室に残っている男、特に貴族の間ではノアに対して不満を持つ者が多かった。

 元は平民でありながら、公爵令嬢ミーシアの寵愛を受け、さらにクラスの女子からチヤホヤされているのが気に入らなかったのである。


「なんであんなナヨナヨしたやつが……」


「平民風情が」


 身分が関係のない学園と言っても生徒は子ども。家での教育で平民を下に見る者が大半である。

 中には平民の命をゴミのように軽く見ている者もいる。

 そして、担任はあの差別推奨教師。平民をいじめても大きな問題にはならない。

 彼らが行動を起こす土壌は整っていた。


「……軽く躾けてやるか」


 貴族の男子生徒たちは、チャンスを伺うのだった。





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