第10話 好きな人
次の日、部屋に訪れた時の事――――
「尋渡さ…」
ズキン…
お姉ちゃんと尋渡さんのキス現場を目撃。
二人が離れる。
「…あら?」
と、何事もなかったようにお姉ちゃんは言った。
「ご、ごめん…お邪魔…」
「大丈夫よ。どうしたの?」
「…あー、携帯」
「携帯?」
「あー、藍李ちゃんの携帯なら、そこにあるよ。呼び止めたけど、聞こえなかったみたいで」
「そうだったんだ。ごめん、ありがとう」
私は携帯を取り、出て行く。
バタン
「……………」
その日の夜。
「藍李ちゃん、起きてる?」
ドア越しから、尋渡さんが声をかけてきた。
カチャ
ドアを開ける私。
ドキン
「…尋渡さん、どうしたの?お姉ちゃんは?」
「寝てる」
「…そっか…」
「ちょっと…良いかな?」
「うん…」
私は尋渡さんを部屋の中に入れる。
「何?」
「藍李ちゃんの好きな人って…」
ドキッ
「…悪い…やっぱり…いいや…」
そう言うと部屋を出て行き始める。
グイッ
私は尋渡さんの腕を掴み背後から抱きつく。
「…藍李…ちゃん…?」
「…ごめん…少しだけ…ほんの少しだけ…このままでいさせて…」
そして、少しして私はゆっくりと離れる。
「…ごめん…」
私は背を向ける。
「…行って…」
「…ああ…」
出て行き始める尋渡さん。
「………………」
パタン
ドアを閉める音がした。
私は、ベッドの方に歩き始める。
グイッと引き止められたかと思うと背後から抱きしめられた。
ドキン…
「…尋…渡…さん…?」
出て行ったと思われる尋渡さんが、まだ、部屋にいたようだ。
「…ごめん…君の想い…気付いていたけど……応えられなくて……」
《…えっ…?嘘…つまり…それって…》
抱きしめられた体を離すと向き合う私達。
「藍李…ちゃんの…好きな人って…俺なんだろ?」
ドキッ
《やっぱり…バレてたんだ…いつから…?》
「………………」
「違うよ。違う…」
私は下にうつ向く。
「…藍李…ちゃん…?」
「…本当…運命のイタズラだよね……」
私は顔をあげ、笑顔を見せる。
「……………………」
「ごめん…でも…忘れて。私と尋渡さんは義兄妹。お姉ちゃんの旦那さんだから。私、略奪愛とか出来るタイプじゃないし」
「……………」
「変な同情とか一切いらない。今のまま、このままでいよう。だから、変に態度変えるのもなしね!そういう事で、おやすみ!」
私は尋渡さんを追い返すように部屋から出す。
「ちょ、ちょっと…藍李…ちゃん…」
「忘れて!」
ドアを間に挟み話す。
「…お願い…尋渡さん…」
「………………」
尋渡さんが去って行くのが分かった。
「…っく…」
ガクッ… スー…
ドアに寄り掛かるように、ゆっくりと体を崩していく。
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