第29話 合同出張
出張まで、あと数日となって、改めて疑問に思う。なぜ、自分達が株式会社トナリの出張に同行するのだろう?しかも、社長のお供だよ。あれだけ社員がいて、忙しいから、役割の固定されてない傘下の社員に声掛けするのか。
数字の羅列が表示された画面を睨みつけてたので、スズモリさんが声かけてきた。
「マルタさ~ん、出張に身構え過ぎじゃないですか?」
「ん~、トナリ社長が相手だからね。リキんじゃう」
「リキんでも、鼻血しかでないですよ」
「・・・マイコーさんに似てきた?」
「んなっ!」
確かに、考えてもしょうがないんだわ。どうも、流れや成り行きに任せるというのが不安しかないから考えてしまうんだよ。
出張当日、今回は朝から移動。トナリの1階ロビーで待ち合わせとなっていた。やはり秘書であるフチガミさんが先に来ており、最後にトナリ社長が登場。大きめのキャリーケースを引きずっている。じっと見ていると
「あ~、これは、土産でいっぱいになるんだ」
「現地で、送ってもらうよう頼めばいいでしょ。邪魔です」
手慣れたフチガミさんが、ばっさり切る。
いよいよ出発。タクシー2台で、空港まで移動し、いざ首都圏へ。飛行機が苦手な私は、ひとり青くなる。
到着後、空港~都市部の駅~イベントホールと移動した。下見を兼ねた観光ですよ。ある程度の荷物はコインロッカーに預けているので、ま~伸び伸びと歩き回る。出張記録として、今のうちに撮影できるところは押さえ移動時間もおおよそで測り、目安の時間をメモしていた。そこまでする必要はないんだけどね。
「そば食いてぇ」
トナリ社長が見かけた立ち食いそばに、入ることになった。歩き回ったのに、立ち食いて。フチガミさんもゴネたが普段と異なるツユが飲みたいんだと強引に決定。
足が疲れたので、ホテルにチェックインしてしまおうとなり、ホテルに向かった。ちょっとワンランク上のビジネスホテルだった。それぞれ部屋に入り、上着を掛けた後、ベッドに倒れ込んだ。やっと座れたんだよ。
寝返りを打ちながら、小さな窓から外を眺めた。流石のビル群。無機質ながら、立体物の並び方、線の構造物これを誰かが設計して、その専門の人達が作り上げたんだよな。芸術家と同じなんじゃないのか、そう思う。
寝落ちしそうな、その瞬間、携帯が鳴った。びっくりして起き上がり、電話にでた。
「夕食行きますよ」
フチガミさんからの集合案内だった。どこに行くのかと思えば、ホテル隣りにある定食屋だった。初日から豪快に飲むわけにはいかないからね。特に、重要な会話があるわけでもなく、普通に食事した。おごりを期待しちゃいけないんだよ。そういうもんだ。そのまま、まっすぐホテルに戻り、その日は解散となった。
部屋に戻ったものの、風呂上がりのアルコールを飲みたいと思い、ホテル1階併設のコンビニへ。エレベーターを待っていると、スズモリさんが走ってきた。
「どこ行くんですか?抜け出して、怪しげな所に・・・」
「コンビニに朝食用のパンでも買っておこうかと。あと、酒」
「同行します」
なんか、監視されてたのかな。買い物だけして、戻る。エレベーター内で、ぽそっと言われる。
「そういう人じゃないですもんね」
「夜遊びする人ってこと?」
「そ、です」
部屋に戻り、ちょっと思った。トナリ社長の動向で夜遊びするほど、肝がデカく無ぇよ・・・。
翌朝、身支度して、ホテル1階に早めに向かった。社長より遅いのは、失礼なので。しかし、5分後には社長が降りてきた。
「お、早いな」
「おはようございます。社長も集合時間20分前ですよ」
「歳取ると、早起きなんだよ。5時半には起きて風呂入ってた」
全員が早く来たので、そのまま移動することになった。トナリ社長が満員電車が苦手ということで、タクシー移動。着いた会場は、すでに多くの人がいて、全国規模とは言っていたものの『これは大変だ』と声に出すくらい混雑。
「挨拶するのは、数件だから、先に済ませようか」
トナリ社長が、人の波をズンズン進んでいく。威圧感から人が自然と割かれて、後ろ3人は、とても歩きやすい。人脈と顔が知られているようで、いろんな人が社長に挨拶される。また、社長もいつもの大声で返事をしている。展示ブースでも、担当者が座るよう促すが、決して座らず、担当者と立ち話で現状や今後の方針を伺い、その人との距離感がとても近い。あと、よく笑っている。そういう所が、相手をうまく誘導しているように見えた。断らせない話の持って行き方というやつかな。社長だから、その下には数百人の社員がいて、その家族まで抱えているわけで多少強引であっても、何かしら儲けを出さなきゃいけない。なんとなく分かっている仕組みであっても、目の前でそれが実感できた瞬間であった。
ちょっとしたトイレ休憩は取ったものの、気付けば、夕方になっていた。それくらい動いて、担当者待ちもありつつ各展示ブースで話を聞いたり、慌ただしい結果だった。
「あ゛~、疲れた。帰るぞ~」
トナリ社長が、若干ガラガラ声で言う。続けて、こうも言われた。
「肉食うぞ、肉」
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