第29話 クリスマスにいなくなるのは偶然でも当然でもなく、必然か(ミクル視点)

「もうすぐクリスマスやな」

「ケセラさん!」


 いつものようにのどかだった教室でのお昼休み、私はケセラさんのその過激な反応に敏感になっていました。

 ケセラさんが私の元からいなくなる……そんな気がしたのです。


「早まらないで下さい。理由は分かります。でも私たちが傍にいますから、どこにも行かないで下さい!」

「はあ? ウチがどこへ?」

「クリスマスの日に私たちから離れてしまうのですよね?」

「いや、ウチはどこにも?」

「いえ、体は正直なんですよ。お金のために身体を売るんですよね?」

「はあ?」

「いくらお高い腎臓が片方無くなったとしても臓器売買はいけませんよ!」

「ミクルちん、いい加減現世に帰ってこーい?」


 ケセラさんが私の肩を掴みながら何かを言っていますが、この人はマジです。

 貧しい妹のためなら平気で身売りを選ぶような人でもあるんです。


「ミクル、何かブツブツ言ってるけど、ウチには妹はおらんで?」

「いえ、私という妹がいるではないですか?」

「あのさあ、漫画の影響か知らんけど、義妹設定止めようや……」


 ケセラさんが大きなため息をつきながら、廊下の窓から様子を見ていたジーラさんを強引に連れてきます。


「……強引に舞いウェイ」

「勝手に舞うなや。ミクルがこうなったのも何でもかんでも色んな漫画を貸すアンタの責任なんやで?」

「……舞うだけにモ○ラのバーガー」

「おい、そんなん言ったらハンバーガー屋さんから客が消えるやろ?」

「……昔はお金が無かったので食用ミミズの肉を使用」

「どこ情報やね、それ?」

「……近所の小学生」

「子供の戯言やないか!」


 ジーラさんの話ではミミズの名前の由来はモ○ラだからと言っていますが、もう少しマトモな言い訳は出来ないのでしょうか?

 モ○ラは蛾の仲間ですし、それに食用ミミズの肉って高価な食材なんですよ。


「いいかミクル。ウチはどこにもいかんし、臓器も売る気はないからな!」

「有名人はみんなそう言いますからね」

「おい、勝手に有名人にするなや」

「でもこの前、校内新聞にデカデカと載りましたよね」

「あー、この前の学校紹介のインタビューの件か。新聞部のー!」

「……魚の目」

「ウチは死んだ魚の目はしてないで?」


 ええ、ケセラさんはいつも明るくて元気で私たちのムードメーカーみたいな人です。


 そんな人が貧しい妹のために腎臓を。

 もう腎臓無くなったら人造人間じゃないですか。


「ミクル、さっきからひとりごと多いけど、腎臓両方無くなったらヤバいからね?」

「……アーユー、レディー! アジの開き!」

「おい、ジーラ無断でさばくなや。時と場合に裁判に訴えるで!!」

「……よっちゃんは美味しい」

「それは駄菓子や‼」


 あの酢漬けのお菓子って癖があって病みつきになりますよね。


 時に日本人はあっさりとした酢の物を愛するあっさりとした人種。

 もうアサリ汁でも病んでしまうくらい。


「駄菓子とはセレブにとってロマンそのですわ」

「早速出てきて噛むセレブやで」

「……モモ肉最高」

「噛んで悪かったですわね‼」

「……どうどう」

「「誰のせいや(かしらね!)!」」

「……おおぅ!?」


 ケセラさんとリンカさんの息の合ったツッコミを受けたジーラさんの目がなぜかキラキラと輝いています。


「……一番星見つけた」


 違います、ジーラさん。

 一番星どころかセンターに出てもおかしくない組み合わせです。


「……まさにJKB48」

「隠れたでしたね」

「……イッツしょーたいむ!」

「あーあー、私たちは女子高校の着ぐるみを着た女子高生であーる♪」

「それ着ぐるみの意味あるん?」


 ケセラさんが不可思議な顔つきをして腕を組んで悩んでいます。

 お腹の調子でも悪いのでしょうか?


「ケセラさん、腸内環境を整えるには食物連鎖が良いと思います」

「……すーぱーぷよぷよ」

「アンタらはふざけとんのかい!」


 ケセラさんが頭を掻きながら、真剣なまなざしになり、私の方を向きます。


 もしかして告白ですか?

 私にも心の準備というものが……。


「いいか、ミクル。ウチはな。今年のクリスマスも四人で仲良く過ごすんや……だから……」

「……だからトミー♪」

「……モゴモゴ!?」

「機関車ドンマスなジーラはちょっと黙っておきましょうか?」


 リンカさんが今日はやたらと饒舌じょうぜつなジーラさんの口を塞いでいます。

 ケセラさん、私、覚悟なら出来ています!!


「だからミクル、ウチらはこれからも一緒やで」

「はい。私はハネムーン先が地獄の谷でもずっとついていきます‼」

「は? ハネムーン?」

「……自分としては三途の川も希望」

「ジーラなら泳いで地獄の谷まで渡りそうですわ」


 ケセラさんが頭を乱暴に掻きながら、困った顔をしています。

 何か悪いものでも食べたのでしょうか?


「ケセラさん、いくらレアが好きでも豚肉は火を通さないといけません」

「……ククッ、通すとかウケる」

「俗に言う回し食べですかしら?」

「……回転寿司みたいな」

「今日のジーラはノリも良いですわね‼」


 はい、今日のジーラさんは絶好調だと私も思っています。

 その飛ぶ鳥の勢いでメジャーデビューです!


「はあ……もういいや」


 ケセラさんが私たちに『今年のクリスマスもウチの家で祝おうや……』とプリントを配って浮かない様子で席に戻って行きます。

 ケセラさん、やっぱり落ちていたパンを拾って食べてお腹を壊して?


「ケセラさん、胃袋を掴むのは私に任せて下さい!」

「「「あははっ‼」」」

「ミクル……」


 ケセラさんが耳まで真っ赤にして俯く中、クラスメイトたちが私の方に向かって大笑いしています。


 そんなに私は面白い人間なのでしょうか? 

 だったらサインの練習をしないと……円周率は……。


「ミクル君、これから授業なので黙って席に着くように」


 エンガワ先生もこの作品には久しぶりのご登場で元気一杯ですね。


 えっ、何の作品ですかって?

 今さら何を言ってるのですか?


 私もエンガワ先生から勇気を貰って、クリスマス当日にはケセラさんを元気一杯にしたいと思います。


 ファイトー、私、元気爆発ー‼

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