カウンターの方が何やら騒がしくなっているようだが、テーブルではエルメアーナの熱弁が振るわれている。

　特に、ビットによって潰して丸めるにしても、その方法だと強い力で押さえつけても不完全な球体だろうというエルメアーナの発言に、ジューネスティーンもシュレイノリアも納得し黙って聞いていた。

　プレスだけで完全な球体になるなら、その後に円盤で表面を綺麗にする必要は無いのだから、円盤に入れるボールというのは歪な形をしていることが当たり前になる。

　そのような歪なボールを円盤にセットするのであれば、渦巻状と放射線状の円盤では、ボールが転がる時に引っかかる可能性が高く、螺旋と放射状ではボールとの接触面の角度が九十度ズレる事から転がっていく際に接触面から逃げる可能性が高いが、両方が同じ同心円上の円盤なら丸いトンネルの中を転がるので、出っ張っている部分は逃げて転がっても溝の一番深い中心部に寄っていき円の形に丸まりやすい。

　より確実に球体にするならトンネルの中を転がる同心円の円盤を二枚用意して転がるようにした方が良いと説明した。

　二人は昨日自分達が提案した内容の欠点を指摘されると黙って聴きながら自分達の石板とエルメアーナの石板を見比べる。

　その状況を可能な限り小さくするのなら、角を無くすため両方の円盤に同じ同心円を用意して、ボールが円形のトンネルの中をボールが転がっていった方が引っかかる可能性も無くなる。

　ボールが歪でも二つの円盤の溝を合わせたトンネルを転がる時、溝の直径より大きいなら逃げてしまうだろうが、転がりながら溝の回転するラインの方にズレていき最後は溝の一番深い部分を転がる事になる。

　しかし、放射状に溝を掘ってあった場合は溝方向にズレるし立ち上がってきたら溝の淵に引っ掛かって引きずるだけになる可能性もある。

　エルメアーナの説明を聞いて、シュレイノリアは気に入ったようだった。

「なる程、丸いトンネルの中を通すのか。良いアイデアだ。螺旋と放射状の溝より効率が良さそうだ。案外、効率良く作る事ができるかもしれない。これを自動で出し入れ出来るようにしたら簡単に作れそうだな」

　シュレイノリアは、エルメアーナの考えた方法には、ジューネスティーンの考えを補って問題を未然に防ぐ算段があると思ったようだ。

　そして、エルメアーナの方法を使い具体的なボールの作り方が見えてきた様子で鼻をヒクヒクさせ満足そうにしていた。

　シュレイノリアには、昨日、大した話もできていなかったエルメアーナが、今日は打って変わって自分の意見を言っている事にも嬉しく思っているのだった。

　人の意見は、それをまとめられる人が居るなら広く意見を求めた方が良い。

　2人の意見で考えるより3人の意見を聞いて総合的に判断すれば良いのだ。

　昨日は、シュレイノリアとジューネスティーンの2人の独壇場で、エルメアーナはほとんど聞いていただけだったが今日は内容を吟味して改良方法を提案してきてくれた。

　転がり方向に引っ掛かりを無くすだけではなく、失敗して何度か実験を繰り返したり円盤の修正を加えるとなったら加工が簡単なことはありがたい。

　ジューネスティーンは、卒業までにパワードスーツをギルドに納品することが、特待生として学費と寮費の免除と材料の提供を約束されているので、できなかった場合は学費と寮費と材料費の返還もだが、シュレイノリアとジューネスティーンの為に行った寮の部屋の改修費用も請求されることになる。

　卒業までにパワードスーツを納品できなかった場合、ジューネスティーンは多額の借金を背負うことになるのだ。

　ベアリングの開発が早く完了するとなれば、ジュエルイアンにベアリングの技術を買ってもらう事になる。

　卒業前にベアリング技術が完成したら、ジューネスティーンが卒業までにパワードスーツをギルドに納品できなくても、ベアリング技術をジュエルイアンが買い取るので、学費等の全費用を請求されてもギルドに返還可能となるのだ。

　パワードスーツの未完成時の保険として、ベアリングの技術の確立は後顧の憂いを絶つ事になる。

　そんな事もあるので、学校で進めているパワードスーツの開発を行う中、ベアリングの生産方法の確立まで含めた開発をエルメアーナが担ってもらえるのは二人にとってありがたい。

　また、ジュエルイアンとしたら開発からエルメアーナが絡む事により量産化に向けた時間短縮も考えていたので、エルメアーナがアイデアを出して開発の主導権を握れることは大変助かる事になる。

　これが、全てジューネスティーンとシュレイノリアが中心となって完成させ、それを引き継ぐ形にしたら技術格差のある中での引き継ぎとなる。

　引き継ぎにかかる時間もあるだろうし、引き継いだ後トラブルの発生に対して対応できなくなる事も困る。

　エルメアーナが、ジューネスティーンとシュレイノリアの2人のアイデアを具現化することになれば、製造が行われるようになった後エルメアーナが問題解決にあたれるのだ。

　ジュエルイアンとしたら、ベアリング技術の利用範囲が広いと判断しておりアイデアに人も金も用意している。

　大きな利益を生む可能性があるベアリングについて、技術的な部分をエルメアーナが理解してくれる事で完成後も大きなメリットとなる。

　ジュエルイアンは、様々な部分にこのベアリングを使おうと考えているのだから、自分の息のかかった人に技術が流れる事は非常にありがたい事なのだ。