霹靂
♮
夢。
私はいつでも夢を見ている。
制服調の衣装とともに、身も心も白く染まった私自身。
ふわふわと海の中を漂うクラゲのように街中の雑踏を
道行く人はみな、私を観測することはできない。
それは白昼夢の
『現実は儚い危うさの上に成り立っている』と、私は認識している。
ふと私は立ち止まる。
多くの人が行き交う大通りの真ん中で。
視線の先には一人の幼い少女がいた。
亜麻色の髪をした、子ども用の簡素な修道服を着た5歳ほどの幼女が……すれ違いざまに私をまっすぐと見つめてきたのだ。
まるで血のように紅い、十字型の瞳孔に射抜かれて総毛立ってしまう。
私はこれまで、
それは恐ろしい天敵に出会ってしまった感覚。
私は無意識に『
――しかし、いつでも自身を
さながら、信仰してやまない神力を真っ向から断絶され、私の存在そのものを否定したも同然だった。
蛇に見込まれた蛙と化した私の耳に、見上げる彼女の無垢な声色が響く。
「透明な花瓶、屈折した残光、
羅列された言葉は私を指し示すものだと直感した。
「不完全な
気がつけば、彼女の
ちょうど大人ほどの大きさだろうか。
私は
輪郭がぼやけて確かではないけれど、明らかに異質な存在。
少女の右側には歴戦を思わせる騎士型で、2mほどある漆黒の
対して左側には花を思わせる鎧装の天使型で、1.5mほどある純白の
そのどちらも、私の神力である透明なクラゲ型の
あの幼い少女は二体も
「悪しき
彼女の真紅の瞳が強く無慈悲な光に輝く。
今すぐにでもこの場を離れたい心持ちでいるところに、さらなる言葉が聞こえた。
「エリス、立ち止まっていると危ないぞ」
「ほら、フィーユ。わたくしと手を繋いでください」
幼女の両隣は二人の男女の姿に立ち変わっていた。
親密な雰囲気からして、おそらく両親なのだろう。
彼女は無邪気な表情で応える。
「はぁい。ぱぱ、まま!」
そして、何事もなかったように去っていく彼ら。
その後ろ姿を見届けながら私は、地に膝を着くのを堪えて瞳を閉じる――
……再び目を開けば、いつもの見慣れた自室の天井。
私は無造作にベッドから起き上がり、茫然と虚空を見つめる。
どこからが夢で、どこまでが現実なのか。
もはやそれすら分からない。
けれど、やらなければならないことは明白だ。
福音派の巫女神官筆頭として、成就すべき悲願のために。
宗教国家都市を
その時に私がするべき事は何か。戦いか、それとも……
いずれにせよ、私よりもずっと幼い彼女はきっと、目的を果たす『鍵』となるに違いなかった――
×
南西部都市。
『服飾の都』とも呼ばれる華やかな街。
その中心部には大きな駅舎があり、隣接した広場に私たちはいた。
雲ひとつない晴天の中、雷鳴が響いて地を揺るがす。
一瞬の閃光に目が
さらには金色の毛並みをした巨大な狼が並ぶように立ち
その
巨狼は周囲を警戒するように構え、いかにも
明らかに異質な存在に対し、周囲の民衆や私に付き従うシスターたちが動揺し始めた。
「七位巫女神官様!あ、あれは一体……!?」
緊迫した空気に一人のシスターが話しかけてくる。
「落ち着いて。ここは私に任せておきなさい」
「そうです!お姉様……もとい七位巫女神官様が華麗に場を治めてくれるでしょう!邪魔をしてはいけません!」
私の言葉に続いて、補佐官のイベリスニールが自信たっぷりに言った。
それに苦笑しつつ、前方の存在に気を向ける。
そして、私は左手を
「――示しなさい、貴女の守るべき尊厳を!」
その中心から4メートルほどの甲冑を纏った人型の騎士が現れ、四本の大剣はその背に並び浮かぶ。
勇壮な白騎士の
正統派の巫女神官において序列は七位だが、神力は他の巫女神官と遜色ない。
「私は七位巫女神官のラクリマリア。巨狼を従える貴女、名を名乗りなさい!」
対峙する幼い少女は不敵な笑みを浮かべたまま答える。
「ふふん、あたしはアニエスルージュ。よく覚えておきなさい!あたしの名前と、あんたを倒す
そう言い切ると同時に私の
天蓋輪廻の幻想曲〜ファンタジア 黒乃羽衣 @kurono-ui1014
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。天蓋輪廻の幻想曲〜ファンタジアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます