第10話 超掌編連作 「一等級と六等級」

お題:「声が出せない夕暮れ」


「今日もここまでだね」

「うん」

 

「またね」と手を上げる君。

「またね」と手を振る私。


 いつも君は、私が歩いてから自分の家の方向へと向かっていく。

 それを知ってるから、私は動かないし、動けない。


「どうしたの?」と君は首を傾げる。

「どうもしないよ。ただ……」と言葉を呑み込む私。


 世界が入れ替わる時の夕日ってこんなに眩しかったっけ。

 私が居なくなる今日は、こんなに眩しいんだなって。


「……」

「本当にどうしたの?」


「……またね」

「うん、またね」


 私は家に向かう。

 これから私は、夜の飾りの星の1つになるの。


 お題:「星が見えない夜に、君が笑った」


「せっかく来たのに残念」

 今日は満天の星空を見るために、車でキャンプに来たけれど生憎の曇り空。


 私は今日のために、とびっきりのおしゃれをしてきたのに。

 それについては、彼は褒めてくれたし、おしゃれしてよかったなって思う。


 だけど、彼はどこかにっこりと笑ってた。

「なんでだろう」って私は思った。


「なんで笑ってるの?せっかく星を見にキャンプにきたのに」

 そう言うと、彼はどこか照れ臭そうに頭を搔く。

「いや、さ。恥ずかしいんだろうなって」

「何が?」


 私がそう言うと、空を見上げる。

「彼女も星が好きだった。君の前で言うことじゃないけれど。ごめん」

「えっ? 話が見えてこないんだけど……」

「俺にもさ、いたんだよ。他の誰かから見たら6等級の星でも、俺からしたら1等級の星がさ」


 いつも不思議な事を言う彼で、この時の彼は今までで一番分からなかったけど、空を見上げる横顔だけは、どこかかっこよかったって思ってる。


 お題:「本音だけがぐるぐる回る午前3時」


 私はむくりと起きる。今は午前3時。学校に行くには早すぎる。

 そしてベッドから立ち上がって向かうのは、自室の押し入れの中だ。


 押し入れの下段に入ると、体育座りで座り込む。

 そこの壁にはマジックで描いた、文字がびっちりと埋め尽くされている。


 これは頭の中で巡り巡っている言葉をぶつけた結果である。

「死ね」「生きる価値無し」「ゴミが」


 これは私が私に対して思うこと。

 私は私が大嫌い。


「死んでしまえばいいのに」


 呟いた言葉は、押し入れの中を反響する。

 その言葉で体育座りで抱える腕の力が強くなる。


「はー、消えられれば消えるのにな」


 でも、ただ、消えるのは嫌だった。

 せめて。


「そうだ。星になろう。彼は星が好きだから、きっと見つけてくれるよね」


 私は決意した。

 明日、夜空を飾る星の1つになろうって。


 お題:「この世界で、笑い方を知らない彼女」


 今日も俺の1等級の星は、あまり笑わない。


「ご飯食べよー」

「うん、いいよ」


「一緒に帰ろー」

「いいよ、帰ろ」


 クラスでは独りぼっちの彼女。

 そんな彼女を見てられなくて。


 俺もクラスで浮いたけど、彼女と過ごす時間が増えた。

 彼女と休みに会ったりはしないけど。学校がある日はいつも一緒。


 これは俺のエゴで。

 ちょっとでも笑ってくれないかなって思って。


「あの星がさ……」


 星が綺麗な夜に、彼女を連れ出す。

 一緒に星を見る。


 その時星を説明してる時だけは、どこか嬉しそうで。

 学校じゃ笑わないのに。


「星見るの楽しい?」

「うん。貴方と見てるのが楽しい」


 そういうこと、言うんだもん。

 俺からしたら1等級の星なんだよ。君は。

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