第2話 ロボット
「今カラアナタニ、ミッションヲ伝エマス。ソノミッションヲ乗リ越エルコトガデキレバ、アナタハ外ニ出ルコトガデキル」
ロボットは言った。
「そのミッションとやらを無視したらどうなる?」
「何モセズニ外ニ出ヨウトスルト、首輪ノ爆弾ガ爆発スル。ソシテ、ソレハ無理ニ外ソウトシテモ爆発シマス」
ぼくはその時初めて自分が首輪をしていることに気づいた。触ると、薄い金属で出来ていることが分かる。重さもほとんど感じないくらい軽いが、ちょっとやそっとでは壊れそうになかった。
「何のために、こんなことをするんだ?」
「アナタハ、アル実験ノ被験者ニ選バレタノデス。自分ノ記憶ガナイコトニ気ヅイテイマスカ?」
「あ、ああ」
「ソノ実験ニ参加スル条件トシテアル薬ヲ飲ンダノデス。ソレデ記憶障害ニナッテイマス」
――そうなのか。
ぼくには、ロボットの言っていることが本当のことなのか、判断が付きかねた。何しろ記憶がないのだ。そのため、何を言われてもそれが本当かどうかは分からない。
「そのミッションていうのは何なんだ?」
「今日カラ三週間後ニ格闘技トーナメントガ始マリマス。アナタニハ、ソレヲ勝チ残ッテモライマス」
「え!?」
想像もしなかった答えにぼくは固まった。
「三十二人ガ、コノトーナメントニハ参加シマス。Aブロックニ十六人、Bブロックニ十六人。一ケ月ニ一回、試合ハ行ワレ、勝チ抜イテ優勝スレバ、外ニハ出ラレマス。アナタハAブロックデス」
「ルールは?」
「総合格闘技ト、ホボ同ジデスガ、違ウコトガアリマス。ソレハ、体重制限ガナイコト。ソシテ、戦ウ時ニ、コレヲ身ニツケテモラウコトデス」
ロボットは、卵のような丸い物体を取り出して見せた。ペンダントのようにチェーンがついている。
「コレハ戦ウ当日ニダケ、選手ノ皆サンニ、オ渡シシマス。コレヲ割ラレテモ負ケニナリマス」
「みんな、どんな人たちなんだ? ぼくは、その……何となくだが、格闘技を見ることは好きだったんじゃないか。今もその知識は頭に残ってる。だけど、この腹を見てくれ。たぶん、運動はしたことないぞ」
ぼくは、前にせり出した腹をさすりながら言った。
「他ノ人モ、アナタト同ジヨウナ体型デス。五階ノジムハ自由ニ使ッテイタダイテ構イマセン。マタ、ココニアルモノハ自由ニ食ベテイタダイテ構イマセン。マズハ三週間後ニ備エテクダサイ。ソノ日ニナッタラ、オ迎エニ上ガリマス」
ロボットはそれだけ言うと、奥の非常階段の方へ車輪を回して移動していった。
ぼくはしばらく呆然としていたが、気を取り直してロボットの後を追いかけた。だが、階段しかないはずのそこにはロボットはいなかった。足は車輪のはずなのに、どこに消えたのか――。
ぼくは現実を受け入れることができず、しばらく呆然としていた。
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