鑑定スキルで色々見えてしまいました。

火猫

セフレと鑑定スキル




「私、セフレがいるんだよね」

「セフレ?なんだソレ」

「あはは!エッチ目的の友達ってことだよ、わかんないかなぁ」


唐突に彼女から発せられた言葉は、間違いなく…暴力だった。


いや、実際の物理的な暴力より辛かった。


だって初めて尽くしの相手だった。

だから…











高校2年生になって初めて出来た彼女が伊東都香砂だった。

部活動を通じて仲良くなった子だ。


「伊地知先輩は面白いですね!」


部室である空き教室でそう言う彼女は…長い黒髪をポニテにした、青みを帯びた冷たい色の瞳が印象的で傍目は清楚。


だが顔立ちは目鼻立ちがしっかりした北欧とのハーフやクォーターと言っても良い見た目だった。

そして身長は168と女子では割と高い。


175の俺だと8センチのヒール履かれたら逆転されてしまう。


「伊東のテンション高い理由がわからん」


そう当たり障りない返事で返す。


スレンダーな姿はかなり目立つ。

まあ、胸は普通だが。


「…なんか不快なこと考えたかな?」

「いや、別に」


この手の危険回避能力は割と高いと自負している…から大丈夫なはず。



そして、俺の名は伊地知光聖。


とある都合で、高校2年生を二回やっている…いわゆるダブり(留年)だ。


まあ…ダブった理由は勉強するよりも、とにかくバイトが忙しかったから…と言う理由だが。


だって欲しいバイクが高かったんだよ。


まあそのおかげで欲しかったバイクは買えたのだが…その事情を知らない周囲からは不良扱いのレッテルはついて回った。


二輪免許持ってるのは学校に内緒だけど、周囲の連中にはバレバレだ。


「先輩、映研は夏休み活動するんですか?」

伊東は部長の組んだスケジュールを書き込んだカレンダーを見ている。


「あー、それな」


俺は映画研究会と言う部活に入っている。


え?会なのになんで部活なの?って?

この学校は会だろうが部だろうが人数5人以上なら運営費という名の自由予算が発生するのだ。

つまりは部の扱いとなるのだ。


…公立高のくせに自由過ぎんだろ。


ウチは5人以上会員が居て部活となるので、当然だが部長が存在する。


「部長はやる気満々だよ。でも、どんな活動で…例えば映像とかを撮るかわからない。まあ一応出る予定」

「そうなんですね?わかりました」


何がわかったか知らないが、俺の夏休みが少々手狭になった事を再確認した瞬間だった。



そして夏休みに入り、しばらくして部長からグループラインで連絡があった。


会なのに部長…いやだから、そう言う仕組みなんだよ。


「明日早速活動するぞ!関係各位にはメールしたからな!了承の返事はいらない」


相変わらずの部長だった。


彼女は18歳で年齢=彼氏無し。

だが見た目の身長は低めなのに出るとこは出ている、いわゆるトランジスタグラマーってやつ(古い)。

対外的には物静かなキャラで通っている。


しかし話をし始めると、ヲタクネタだけはマシンガントークで…彼女に興味を持っていた一般男子学生にドン引きされているほどだ。


ま、それが…ウチの自慢の部長なんだが。


「了解っと」

メールを半分読んで返すと即座に返信音が鳴る。


『了承もしくは了解なら返事要らないでゴザル』

速攻で返事くれる部長…ある意味真面目だ。



で、撮影会当日。結局映画のようなものを撮る事になった。


部長の家の離れに集合した。


ちなみに部長の家はガソリンスタンドを経営していたが…現在は休業している。


法改正の影響だ。


で、休業前の繁忙期に色々倉庫などを建てた…が、ほとんどは無駄に存在している…その一つの倉庫の二階に集まった俺たち。

ちなみに一階は車庫で俺のバイクが今日は停めてある。


「今日集まって貰ったのは、他でも無い…」

一旦途切れた部長の次に繋ぐ言葉は鮮烈だった。


「自伝ラブロマンスを映像化したい!」


「何言ってんの?年齢=彼氏居ない輩が自伝てw」


「おいそこ!心の言葉が声に出てるぞ!…傷付いた」


俺を指差しながら急に胸を押さえて倒れ込む部長…声が出ていたとは不覚、てかツッコむよな、そりゃさ。


だがしかし、もうすでに寸劇は始まっていた。


「伊地知くん、それは酷いよ!部長だって女の子だよ?たぶん…」

会員筆頭の飯田がしゃしゃり出てきた。


「え?最後の方、聴こなかった」

俺がそれに乗る。


「部長だって女の子だって、言ったんだよ!」

「え、え?よく聞」

「黙れ!小僧ども!間違いなくあたしゃ女だっつの」

俺を睨む部長。


「めんどくさ」

「おい!声に出てるぞ!」

だってマジめんどくさいんだもん。


「…すぅー、はぁー…まぁいい。とにかく撮るぞ。皆んな、配置につけ」

大仰な仕草で纏めに入った…真面目か。


こうして寸劇は終わり、撮影は始まった。



んで、その映像は文化祭で披露されたが…集客はほぼゼロと言う結果だった事だけは言っておく。





そう…今思えば、一番青春していた時期だった。


あの撮影がキッカケで俺は伊東の気持ちを知ったからだ。


「先輩、お疲れ様です。お水どうぞ」


夜中まで続いた撮影は全員を疲労させた…特に俺が、だが。


様々な部長の要求を聞き、クラッカーが欲しいとか笛吹きラムネが欲しいとか…一体何に使うんだよ。


ダッシュだ!

と言われて5キロ離れた場所にある聞いたこと無いコンビニへ走ったりした…ミニマラソンと変わらない。


その中で唯一、伊東だけは俺に気遣いをしてくれた。


「なんでだ!なんで伊地知だけ伊東から水を貰えるんだ⁈俺にも水を…」

「ほれ」

「それじゃねーわ」


部長が差し出した湯気の立つ白湯を平手で弾く会員筆頭の飯田。


部長と同じクラスだが、ある事があって俺には非常にフレンドリーだ。


しかし、そこ拭くの俺なんだよな。


「貴様、私の水が飲めないと言うのか!」

「白湯じゃねーか!伊東ちゃんが水持ったまま動揺してるぞ!」


部長は恋愛経験よりも人との触れ合う経験が必要だったな。


とまあ……とにかく色々あった。


で、その結果。


「…なんで俺に?」

「えへへ…キスしちゃった」

徹夜明け、朝起きるキッカケが伊東からのモーニングキスだった。


それを何故かマジマジと見ていた部長に慌てたが…。


「伊東。やるな!次は私だな…いやしかし…」

部長が意味不明なことを言いながら悩んだ末に疑問を口にした。


「おい、一応確認するが…キスすると子供が出来るってマジなのか?」


…部長、社会に出たらヤバいな。


なんてことがあったりしたが、それから都香砂と正式に付き合うようになり…。




「あれ?」

そしてまた景色が変わった。


「私、セフレがいるんだよね」

空港に降り立ち、俺に会った開口一番の言葉が繰り返された。


「向こうで日本人て珍しいらしくて、凄く楽しませて貰ったし…セフレも出来たよ」


俺の耳がおかしいのか?聞きなれない言葉が聞こえた。


「どういうことだ?」

まったく理解の追いつかない俺は困惑の表情をしていたと思う。


「ほら、つまんない反応だよ。これだから日本人は…」


いや、まごう事なくお前も日本人だからな。


「いや…どういうことだと聞いているんだ」


折れそうな気持ちと、意味がわからず困惑する俺は真っ白になっていく。

「貴方もでしょ?」


はぁ?何言ってんだお前。

俺がおかしくなったのか?

まったく理解出来ないんだが?


だがしかし、その瞬間にあれ?と思った。


愛しあった記憶はあったはずなのに、意識外から否定する声が脳内に響いた。


その瞬間、俺はセフレだったな、と急に理解してしまった。


その意識は視界が狭まり一つの黒い点になった。


真っ暗だ。


だがそこから急に真っ白な空間になった。


…あれ?何だここ?意識が飛んだ?


鑑定アプライズを修得しました』

その瞬間、頭の中に響く声、いや、音なのかも知れないが…声として認識はした。


その誰かの声は意識下に刷り込まれた。


次の瞬間、視界が元に戻り周囲の音が集まり出した…すごく煩い。


黙っていた俺が気になったのか、伊東が覗き込んできていた。

「大丈夫?」

何言ってんだ?コイツ。

「伊東、うるさいな」

「はあ?」

それを不服そうに片眉を下げて声を漏らす伊東。


「何?ショックだったの?そんな事より私ねぇ、口でするのが上手いって言われたのよ!向こうで私は…」

「だから煩いってんだよ、伊東」

それどころでは無い俺は背中の冷や汗が止まらず非常に不快だったから、強めの言葉を吐いた。


(なんだ?鑑定ってなんだよ?)

アプライズと無意識に心の中で唱えた。


伊東を見上げた瞬間、半透明なスクリーンに字幕が載るように言葉がならんだ。


名前:伊東都香砂

職業:学生(帰国子女)

種族:人

幸運: 10

スキル 無し

加護 インキュバスの加護

称号 オーラルマスター・堕ちし者・感染者


ん?何だこれ?文字は理解出来るが…。


その単語の羅列を読めはするが理解は出来なかった。

だが、辛うじて察する事は出来た。


インキュバスの加護?

オーラルマスターってなんだ?堕ちし者と…感染者?


「お前、なんか感染してるのか?」

つい口にしてしまった。


「え?い、いや…そんなことは」


途端に俺から目を逸らす、動揺してるな。

なんだコイツ。

留学して何やってんだよ。


急に頭が冷えてきた。


マジ何かどうでも良くなったし、帰ろうと強く意識した。


途中から名前で呼ばずに苗字で呼んでいたなと思い返しつつ。


「まぁ無事に帰ってきて良かったよ。俺に連絡したいならメールでな。電話はするなよ、声聞きたく無いからな」


言いたい事を言い切った。サッと立ち去る。


「え?ちょっと!待ってよ!光聖、まだ話が…」


伊東は何か言っていたかもしれないけど、インバウンドによる雑多な言語の雑踏の中、その声は俺の耳に届く事は無かった。










あとで部長からメールが来た。


伊東からの相談を受けたらしい。


実はあの時に動揺したのは心当たりがあったようで、俺には伝えにくい内容だったと。


それは、いわゆるセフレの一人から帰国前に箱をプレゼントされたそうで。


それを彼女は開けてみた。

また箱が入っていた。

更に開けるとまた箱が。


それを数度繰り返すと、小さな箱の中に折り畳められた紙が入っていたそうだ。


それを開くと。


「Welcome to the world of AIDS」


その筆跡は見覚えがあって、ヒュッと彼女は息を飲んだらしい。


その当事者である人物は後日、犯罪者として当局に捕まったそうだ。


それは…意図せずなのか、狙って撒いたのか。

それは分からない。

ただ伊東都香砂と言う人間を壊すのには十分であり、それは後から知ることになる。


そんな中、伊地知光聖は謎のチカラを得た。


鑑定アプライズとは何をするために得たのか?




「光聖?ボーっとして何かあったのか?」

「…いや、何でも無いよ。それよりも母さん、今日仕事は?」

「今日旦那様が帰ってくるからね」

「あ、そう。相変わらずいきなりだし、相変わらずラブラブだね」

「あはは。その結果がお前だろうが」

「ふふっ、そうだね」


親父が帰ってくるのは何かしら問題があって帰国する…母さんに甘えるために。


「さて…今回はどんな問題を抱えてくるのやら」

「今回は半年ぶりかな。前回は母さんが会いに行ったんだよね」

「北欧までね。寒かったー」

北欧…少しだけ拳を握った。


親父が帰って来たらまずは相談だな。

「そうだな。それが良い。理不尽には理不尽で対応しなきゃな」

ふんすっ、と母さんが拳を握る…俺の心を読むなよな。


「じゃあ迎えに空港に行くから」

「気をつけてね」


さて、親父が帰ってからが楽しみだ。
















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