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たこわさはカクヨムの精と会う

 私はプロの小説家を目指しています。『カクヨム』というサイトに自分の小説を書いて公開しています。コンテストにも応募はしていますが、なかなか結果はでていません。


『向いていないのかも……』


 そんな風に思ってしまうことはよくあります。他の方の作品を見ると尚更です。何千人のフォロワーがついている作家さんがたくさんいて、評価もすごくて、コメントも沢山もらっていて。羨ましいと思うよりも切なくなります。


 今、私がせっせと書いて投稿している小説。タイトルは『ひとめ惚れの達人』と言います。ラブコメです。フォロワーはひとり。その方もコメントまではくれません。


 『自分では面白いと思う』


 これじゃあダメなのは分かっています。読んでくれた方が面白いと思わなきゃ……ですよね。私は『たこわさ』というペンネームで活動しています。ただ単にたこわさが好き、それだけの理由です。


 今日も私たこわさは、なんとか1話を書き上げ、推敲に推敲を重ね、公開ボタンを押したのです。そして、続けて完結済みのボタンも。


 そうなんです。今日公開したのは最終話。ついに私は長編ラブコメを書き上げたんです。短編は4つ完結させていましたが、長編は初めての完結。喜びもひとしおのはず……なんですが。


「がんばったな、私」


 つぶやきながら、スマホの画面に映る自分の作品をみつめ、私はため息をつきました。なんか思ってたのと違う。そう感じてしまったんです。


 心地の良い達成感が全身を巡るでもなく、肩こりと眼精疲労がひたすらに襲ってくるだけ。次回作のアイデアもまったく浮かんでこないし、考えるのも戸惑ってしまうほどに私のモチベーションは失われていたんです。


 午前1時、私はベッドに引っ張り込まれるように寝ました。



 チュン、チュンチュン



 日曜の朝、いい天気です。窓を開けて早朝の澄んだ空気を吸って、執筆の疲労で淀んだ血液に新鮮な酸素を送り込んで体内を浄化。


 洗顔を済ませて、安いスティックタイプのコーヒーと、昨日の仕事帰りに買ったクリームパンで朝食です。


 ブッ、ブブッ、


 机の上のスマホのバイブ。なにかの通知かな? 私はクリームパンを大きくひと口頬張って、スマホをチェックしてみたんです。


「ふあっ!」


 口から声と一緒にクリームも飛び出しました。たったひとりのフォロワーさん『884ne』さんから初めてコメントが届いていたからです。超嬉しい。最終話、気に入ってもらえたかな? ドキドキでメッセージを開きました。












『つまらん、はよ死ね』










 私はペタンと床にしゃがみこんで泣きました。全力で書いた50話だったのに。PVなんて気にしないで844neさんの為に書いたのに。なんで? なんでそんなこと言うの?




 ブブッ、




 またメッセージ? 


 844neさん? 


 私は恐る恐るメッセージを開きました。







『はよ死ね、言うとるやろ!!』






 ゴトッ



 手が震えて、私はスマホを床に落としてしまいました。すると、私しかいないはずの部屋に、謎の男の関西弁が響きました。






「たこわさ、殺しに来たでぇ!」









 振り向くとそこには、頭にストッキングを被った、片手に小説、片手に刃物を持った、フルチンのヤヴァイ男が立っていたんです。


「ぎええっ!!」


 今までの人生で「ぎええ」なんて言ったことはなかった。実際、言うんだな。こういう状況になると。なーんて感心してる場合じゃない。


「あなたが844neさん、ですか?」


「あん? そうだ。俺が『カクヨムの精』こと844neだ!」


「あなたは人間じゃないの?」


「あのなぁ、たこわさ。そのへんの人間が、鍵のかかったひとり暮らしの女の部屋に秒で現れるわけないやろ? そんなの考えたらすぐ分かるやろ?」


「すみません。気が動転して……」


「そう言うとこや。想像力が欠如しまくっとる。まったくもって嘆かわしい」


「最終話、面白くなかった?」


 私はこのヤヴァい状況に、実は胸が高鳴っていた。めちゃくちゃ興奮していた。だって、私の人生が光り輝くから!


「あーあれな、まったくなっとらんっちゅうねん!」


「えー? なんで?」


「ひとめ惚れの達人な。すぐにひとめ惚れしてしまうイケメン主人公、10股交際になってしまうが、それを上手いこと成立させよる。そこはなかなか良かったで!」


「うんうん」


「そんな中で、主人公が女の嫌な部分をたくさん見すぎて、女嫌いになってしもて、11人目のひとめ惚れが『男』やと? それからは怒涛のBL展開! 俺はBLが大嫌いなんやー!」


「それって844neさんの好みの問題ってこと?」


「そうやな」


「物語的には……問題ない?」


「そうやなぁ、もっとこう、エロいシーンが欲しかったかなぁ。たこわさ、お前、処女ちゃうやろな?」


「やめてください! セクハラです! セクハラの精だー!」


「あー、もう! 分かった分かった」


「でも、844neさん」


「なんや?」


「私の大切な作品。ちゃんと最後まで読んでくれて、ありがとう……」


「なっ? ばっきゃろー! 俺はなあ! お前を殺しに来たんや! なめんなよ! こんな格好しててもちゃんと怖いっちゅうねん! おらぁ!」











 あは、あははは……!


 きたこれ、間違いないわ!


 やった……!


 私、超ラッキーガールやん!


 あはははははは!!




 前に都市伝説で聞いたことがあったんだよねー。カクヨムの精ってのにフォローされると他の誰にも読まれなくなるって。


 私の『ひとめ惚れの達人』PV50。


 こいつが1話から50話まで読んだだけで、他の誰にも読まれてはいない。そして、カクヨムの精は最終話を読んだ後、すぐに殺しに来るんだって。


 見てよ、この状況。都市伝説のまんまじゃん。あははは!


「殺したいなら殺していいよ。私、もう人生に思い残すことないし。小説家の夢も、もうどうでもいいし」


「な、なんだとお?」


「カクヨムの精に殺されて死ねるなら本望です。ひとおもいにブスッとやっちゃって下さい」


 カクヨムの精、844はよ死ne。こいつ相手にビビってはいけない。それが鉄則。そうすれば……


「たこわさ、お前。あーもういいわ! さっさとワークスペース開けっちゅうねん!」


「なに? 早く殺してよ!」


「やっかましい!『殺して』って言われて殺すもんとちゃうねん! こっちにもプライドがあるんや!」


「なにそれ?」


「たこわさを売れっ子にしたる! だからはよ! ワークスペース開けや!」


「ストッキング被った変態のおっさんに、そんなことできるのー?」


「なめんなよ。カクヨムの精の力! 見せつけてやるわ!」


「もう、しょうがないなー」
















 よし、完璧。うまいこといった。カクヨムの精には普通に接すること。怖がったら殺される。まずは、怖がることなく真剣に小説の相談をする。さらに、読んでくれたことに感謝する。


 そして、最後に「殺して」って言えば、なぜか逆に手伝ってくれちゃうという神展開。カクヨムの精がバックについた私の小説は書籍化確定。


 見た目がキモいし、関西弁もウザいけど、こいつにどんどん手伝わせてヒット連発。印税で億も夢じゃない。


 高級マンションに住んで、ホストで遊びまくって、おいしいもの食べまくって、海外旅行も行っちゃうもんねー!


 あー、楽しみすぎる……!













「たこわさ。さっきから心の声まる聞こえやで。キモくて悪かったな」


「げっ! マジで!?」


「残念ながら、その都市伝説な、大事な内容が欠けてるわ」


「な、なにがよ!? あんたがいれば私は売れっ子。大金持ちなんでしょ!? 違うわけ!?」


「うーん。まあ、それはそうやねんけど……」


「え? なに? なによぉ!? ちゃんと言ってみなさいよ!」























 ───30年後。




「たこわさ先生。さすがです。またもや100万部の大ヒット! 次回作もお願いしますよー!」


「はい」


「でも先生、たまには息抜きに旅行でも行ってきたらどうです? 僕、先生が外出してるところを見たことがないです」


「いえ、私は小説を書くのが仕事なので、旅行には行きません。外食もしません。ホスト遊びもしません」


「え? ホスト?」


「次回作のプロット、完成したら連絡しますので……」


「は、はあ、先生、大丈夫ですか? 顔色が……」


「私は小説を書くのが仕事なので、大丈夫です……楽しいなあ……あはは」
















 カクヨムの精との共同作業。それは、人生のすべてを小説に捧げることになる。そう、人生のすべてを。














 あなたの新作のフォロワー、ひとりじゃないですか? お気をつけく……


「余計なこと言わんでええねん!」

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