【閲覧注意】パン屑に座す王(イーツ視点)

 暗殺者にむね一突ひとつきされた僕でしたが、残念ざんねんながら、暗殺は成功せいこうしませんでした。

 明朝前みょうちょうまえに、森番のケイトさんがテンピもりから密猟者三名をかかえ、「フォーリア一家暗殺未遂およびスライム密猟未遂」のとがで、かみサルメンタ本部ほんぶ使者ししゃわたしました。

 エンブレイス秘匿ひとく商談官しょうだんかんに引き渡すほうがかったのですが、ブリッラ町政ちょうせい腐敗ふはい処理しょり商業しょうぎょうギルドブリッラ支部長が暗殺・密猟計画を指示しじしていた主犯しゅはん間者かんじゃをしていたそうです。

 そうなれば、ブリッラ支部に大規模だいきぼ監査かんさはいるので、あまり負担ふたんやさぬよう、「暗殺・密猟計画を指示していた主犯のしもサルメンタ本部長」を処分しょぶん出来る、商業ギルドのトップ「上サルメンタ本部」にこの事後じご処理しょりをおまかせすることにしました。


 こえならぬ声がテンピのもりひびきます。

 弱弱よわよわしい、生物せいぶつちいさな歓喜かんきこえでしょう。



「『あとはとどめだけだった。

 あの密猟者は暗殺者が本職ほんしょくだろう。

 ひとしのびよるのは得意とくいだが、スライムに忍びよった経験けいけんい。

 間抜まぬけな三人だった。

 抜歯屋ばっしや邪魔じゃまはいらなければ、三人のすべてをくして跡形あとかたも無く始末しまつしていたのに』」

 僕はその声をうように、口真似くちまねをして見せます。


いまだにたたかいにっています。いけませんね」


 倒木とうぼくカビうえからはなれない、スライムが一体。

 これが密猟者をめた、攻撃性こうげきせいのあるスライムです。


「たかが密猟者をつぶすなんて、私、いえ、僕はしませんよ。

 にんじんはどこをってもにんじんですからね」


 ほかのスライムのようにどこかへかくれようともせず、ただ僕の存在そんざいおどろいて、放心ほうしんしています。


隠遁者いんとんしゃダリオ・グラーノに擬態ぎたい出来るなら、僕等フォーリア一家の遺体いたいにも擬態してしかったですね。

 おうにしては、社会奉仕しゃかいほうしこころりませんよ」


なんで、きてるのだ。魔術まじゅつ偽装ぎそうしていたのか】


「いいえ、仮死かしやくんだふりをすることにしたんです。暗殺には身元みもとがわかるように廃棄はいき処理しょりされませんから」


 攻撃性のあるスライムはブルブルブルとはげしくふるわせはじめました。


貴方あなたがた人語じんご理解りかいしているにもかかわらず発話はつわしないのが不思議ふしぎでした。

 発話にたよらず、念話ねんわですか。

 貴方の存在が確認かくにんされて以降いこう。つまりは僕が隠遁者ダリオ・グラーノから遺産いさん相続そうぞくしてから、スライムたちは念話をしなくなったようですね」


 ドッスン、ドッスン、ドッスン。

 抗議こうぎのつもりなのでしょうか。

 上下じょうげに激しくねています。


「貴方は一夜いちやにしてなぞの子どもがスライムのれを安全あんぜんもり一角いっかくかくまったことを念話でり、僕がこわくなったんですね。

 そして、僕を殺してスライム保護区ほごくでスライムたちの王となる計画けいかくって、殺す機会きかいをうかがっていました」


 あまりに激しく飛び跳ねしぎて、黴のめんからころがりちてしまいました。


「王が何故なぜ、僕のような子どもにおそれをいだくのです?

 それに……」


「王を名乗るなら、菌床きんしょうすのはどうかとおもいますよ」


 黴の面はボロボロとくずれていきます。

 嗚呼ああ、エンブレイスさんがしょくしていた(あくまでもべたと主張しゅちょうしていた)パンのくずのようです。


「パン屑をあつめたようですが。スライムとはちがって、パンはカビがえてくさってしまうのです。

 あの腐葉土ふようどのようになります」


 僕は隠遁者ダリオ・グラーノの魔術まじゅつ文献ぶんけん一冊いっさつにしていました。

 あとは呪文じゅもん詠唱えいしょうするだけです。

 討伐とうばつした魔物まものかわほね内臓ないぞうなどくすり原材料げんざいりょう道具どうぐ加工かこう出来る部位ぶい以外いがい一刻いっこくはや大地だいちかえさねばなりません。

 そうして、森のきよらかさをたもっていたのでしょうね。


「さあ、『永遠えいえん』とおわかれですね」


いやだ!倒木とうぼくなかねむりたくない!】


「……」


【私たちの加護かごうしなってもいのか!】


「『ちん』ごっこ、たのしめましたね」


【あっ】


 しまった、という表情ひょうじょうはそもそもスライムには表現ひょうげん出来ません。ひとのようなかおが無いのだから。


「『たおともしずみ、ねむれ』」


 抵抗ていこうするひまもないスライムは倒木と共に、ズズズズズッとそこぬまにのまれていくかのように、しずんでいきました。



 様子ようすをうかがっていたスライムたちが安心あんしんして、あさ入浴にゅうよく満喫まんきつしています。

 僕が王子おうじ殿下でんかといるあいだひまあましたスライムはポータルドアを簡単かんたん利用りようして、両親りょうしんくちなかにもびこんでいたとか。


「スライムのみなさん。そろそろ、パンのおじさんがいらっしゃいますよ。

 だれかさんのようにパンのためだけに玉座ぎょくざにしがみつくなんて真似まねっこをしても、誰かをきずつけることになります。

 きスライムとして永遠をまっとうしましょう」


 僕の両親はスライムよりもはやくなってしまうでしょう。

 そして、僕も。

 エンブレイス秘匿商談官も。

 そんなときは善き理解者りかいしゃであるナトゥス王子殿下の末裔まつえい保護ほご活動かつどう協力きょうりょくしてくれるでしょうか?


 そんなことを考えながら、僕は今日きょうも、僕の前ではお行儀ぎょうぎ良くするスライムを見守みまもります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スライム保護活動家兼抜歯屋 雨 白紫(あめ しろむらさき) @ame-shiromurasaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ