【書籍発売・重版記念SS】『婚約破棄された公爵令嬢は、幼馴染の王族に溺愛される』後半
デニスが私に告白をして来てから、幾日か経った。
私の体調も落ち着き、ベッドから起きて生活ができるようになった時、父から噂を聞いた。
ジョジュ・ヒッテーヌが、襲撃事件の犯人として仕立て上げられてしまったそうだ。祖国でも濡れ衣を着せられていたらしいが、彼女は人が良過ぎる。だから、付け入れられるのだ。
きっとドルマン王国でも、いろんな人に親切にして歩いていたのだろう。
父から噂を聞いた直後に、エミリオンから襲撃事件の被害者として、証言をしてほしいという要請があった。
断る理由はなかった。
もし、私が王妃になるとしても、エミリオンはあそこまで動いてくれただろうかと思わなかったといえば嘘になる。
けれども、命を助けてくれた人物を見捨てるような愚かな人間だと彼には思われたくなかった。
事件が収束してからも、デニスは毎日私の屋敷にやって来た。今までは皮肉を飛ばしてくるだけだったくせに、花束とプレゼント、そして甘い言葉を持って。
両親は、デニスが訪問してくることを喜んでいるようだった。ジートキフ家とサドルノフ家で開催する婚約お披露目の会の日程も決まり、私とデニス結婚も真実味を帯びてきた。
いつものように、サドルノフ家の屋敷に訪れてきたデニス。
彼がやってくると、私は応接間で彼を出迎える。
『もう我慢しない』と言っていたので、どのような猛攻撃をされるか身構えていた。
しかし、デニスはいつもよりずっと優しくなっただけだった。
「愛しの我がヴィオラ」
「その呼び方やめていただけます?」
「愛しのヴィ―とかの方が、お好みかい?」
「だから、愛しのというのを取りなさいって言っているんですわ!」
皮肉が飛んでくるかと思いきや、デニスは嬉しそうにニコニコしている。今まで、このようなデニスを見たことがないので、正直に言えばどうしたらいいのか分からなかった。
だが、居心地は悪くないと思っている自分もいた。
その日も彼は、サドルノフ家の屋敷に私の好きなジュンヌ地方のチョコレートと花束を持ってきていた。
「ではそろそろ帰るよ」とデニスが部屋を出て行こうとした時、棚の上に置きっぱなしにしてあった一通の手紙に視線を投げた。
「これは?」
「妃殿下からお見舞いのお手紙ですわ。先日の件で、私は彼女を救って差し上げましたからね」
私は嘘をついた。
ジョジュ・ヒッテーヌから贈られたものであることは本当である。手紙には、彼女の女官になってほしいという旨が記載されていた。
まだロニーノ王国について、知らないことがたくさんある彼女。王妃教育を受けてきている私がいると何かと便利なのだろう。
もし、私が彼女の立場だったら、同じことをするに違いない。
しかし、頭で理解ができているのと、気持ちの整理がついているかどうかは別の話だ。断ったところで、新たな王妃は私を咎めるような真似はしないだろう。
サドルノフ家の名誉のことを考えれば、女官の話を受けなくてはいけない。
さすがに諦めなくてはいけないと分かっているが、エミリオンのことを想っていた気持ちを風化させるにはまだ時間が必要だった。
デニスと結婚する。そして、陰から彼と共に、エミリオンを支えていく人生。どうにか抗えないかと思った。抗おうとして、痛い目にあった。
体調がよくなったら、一人で放浪の旅に出てしまいたい。
全て忘れて、ロニーノ王国のことなど考えないで済むような場所へ行きたい。
出来もしないのに、そんなことばかり考えてしまう。
デニスが帰った後、部屋で考え込んでいる時だった。
ノックの音がして、父が様子を伺いながら私の部屋へと入ってくる。
「ヴィオラ、体調はどうかね」
「そこそこですわ。お父様」
「そうか。今週末の、アジャンテ伯爵が開催する慈善の会だが、夫人から体調が悪いなら欠席でも構わないと連絡がきてね」
父に言われて思い出した。
昨年に亡くなった祖母エルヴィオラ・サドルノフが、懇意にしていた伯爵家開催の夜会である。数か月前に招待状が来て、出席と丸とつけて返事を出したのだ。
「いいえ、お父様。参加いたしますわ。落とした評判は、自分であげませんと」
「お前の評判は、別に落ちてはいない。あまり自分を責めるな」
父は、宥めるような口調で、私の手の上に自分の手を重ねた。
「責めてなどいませんわ」
でも、ずっと惨めな気持ちがつきまとっているのですよ。お父様。
心の中で呟いたが、言葉にはしなかった。弱音を吐いてしまったら、もう二度立ち上がることができないかもしれないと思ったからだ。
「ところで、デニス君には声をかけたのかい? 夜会には、伴侶となる相手と共に参加するのが決まりだ」
「いいえ。まだ婚約のお披露目もまだですし、確定するまで言いふらしたくないですから」
エミリオンとの件があるので、私の皮肉は父に効いたらしい。
「両家の話し合いは順調だ。もうあのようなことはないと安心しなさい」
力強い言葉であったが、その力強さをもう少し前に発揮してもらいたかった。
「心強いですわ。お父様。私の方からデニスに声をかけますので、お父様は何もおっしゃらないでくださいね」
父が部屋を出て行った後、私はひじ掛け椅子に座る。
家族との会話なのにも関わらず、ひどく疲れてしまった。
***
曇天。鉛のような分厚い雲が、空に覆いかぶさっていた。
久々の外出だというのに、イマイチすっきりしない天気だ。
結局デニスには声をかけないまま当日を迎えた。
話をする機会は何度もあったが、なぜか何も言う気になれなかったのである。
いずれはデニスと夫婦として夜会に参加することもあるだろう。
だが、今日はまだその必要はないはずだ。
アジャンテ伯爵の屋敷の中には、大勢の貴族たちが詰めかけていた。大広間の中に、たくさんの食事や、お菓子などが用意されている。その他に、恵まれない子供たちへ支援するための資料も展示されていた。
子宝に恵まれなかったアジャンテ伯爵夫妻は、精力的に恵まれない子供たちへの支援を行っている。今回の慈善の会も、貧困地域に児童養護施設を建てるためのものだ。
参加している半分以上の貴族たちは、付き合いで参加しているだけで、目当ては暇つぶしか、新しい恋人探しである。中には、既婚者もちらほらいて、結婚の誓いとは、一体何の意味があるのだろうと思ってしまう。
エミリオンは、きっとそんなことをしないのだろう。デニスのように簡単に愛を口にしない。けれども、私は、彼が自分の身内には優しい視線を投げかけることを知っている。自分の身内を裏切るような真似はしないと知っている。
またエミリオンのことを考えてしまって、私は慌てて頭の中から彼の存在を打ち消した。
もう諦めると決めたのだ。
「サドルノフ公爵令嬢。本日は、お忙しい中、お越しいただきましてありがとうございます。お身体はもうよろしいのですか?」
人柄のよいアジャンテ伯爵夫人は、私の姿を見つけると、温かい言葉をかけてくれる。社交界で、私の身体のことを本気で心配してくれるのは、彼女くらいだろう。
「ええ。ありがとうございます。おかげ様で、すっかりよくなりまして」
「とても心配していましたのよ。そういえば、本日の会に妃殿下もお越しいただけるということで、お二人が無事で本当によかったわ」
ジョジュ・ヒッテーヌがここへやってくると聞いて、今日来なければよかったと後悔した。
そう思った時には、貴族たちの視線は、新しく君臨する未来の王妃に向かっていた。
私はなるべく人目のつかないような場所へと移動したが、知り合いの少ないジョジュ・ヒッテーヌは、私を発見すると嬉しそうな表情を浮かべて、私の方へとやってくる。
「サドルノフ公爵令嬢。もう体調はよろしいのですね」
背後に侍女や警護の人間をつけた彼女は、アジャンテ伯爵夫人と同じようにホッとしたような表情をしている。本当に心配してくれていたのだろう。その優しさが居心地の悪さを感じさせた。
若草色のふんわりとしたオーガンジーのドレスに、乳白色の毛皮のコートは、彼女の黄金に輝く金髪と緑色の目によく似合っていた。小さく華奢な身体は、誰もが守ってあげたいと思うのだろう。見かけによらず、頑固で、意思の強い女ではあるが。
「……ええ、おかげ様で。妃殿下」
もう考えたくないのに。
幸せそうで、彼に愛されている彼女がやっぱり羨ましい。彼女の場所は私のものだったのにと思ってしまう自分に
「ところで、先日お願いした件ですけれども……」
「妃殿下。ここで私が妃殿下を独占してしまったら、ここにいらいしている方々に申し訳ないわ。もしよろしかったら、皆様にご紹介いたします」
女官の件に触れられたくなくて、私は彼女の話を遮った。
遠巻きに見ている貴族たちに彼女を紹介すると、私はこっそり席を外した。みんな新たな王妃に媚を売りたいのだ。私が一人席を外したところで、気に掛ける人は誰もいない。新王妃となる人物と少しでも話したいのだろう。
会場に集まっているほとんどの貴族が、彼女の周りに集まっていた。優しい彼女は、ひとりひとり丁寧に対応している。
***
私だけの気分が晴れないまま、会は厳かに進んでいった。
こっそり帰ってしまってもばれないのではないかというくらい、恵まれない子供のための慈善の会の主役は、ジョジュ・ヒッテーヌであった。
アジャンテ伯爵夫人に挨拶をして、屋敷を後にしようと思った時だった。
「サドルノフ公爵令嬢。少しお時間よろしいですか?」
人気の少ない廊下で、声をかけてきた男性の名前が一瞬思い出せなくて、固まってしまった。
思考をめぐらし、アバロ・フィリシン男爵だと思い出した。
安い宝石を各地から買い付け、知識の少ない中流階級の人間たちへ高く売りつけ、財を得ている男だ。財産目当てではあるが、結婚した妻がいるというのにも関わらず、女癖が悪い。あまりいい評判を聞かない。
「何かありましたでしょうか?」
「いや、ここではあまり大きな声で話せることではないので、少しテラスでお話させていただけませんか?」
嫌らしい笑みを浮かべ、視線が自分の胸元に向けられていることに気が付いた。
嫌な予感がした。
「申し訳ありませんが、ここで話せる内容でないのでしたら、ご遠慮させていただきますわ」
素っ気なく対応したことが、彼の小さな尊厳を傷つけてしまったらしい。先ほどまで気持ちの悪い甘い声を出していた男の眉間に、深い皺が刻まれた。
「今さら、純情ぶるなよ。陛下に愛人になりたいと立候補をしたって噂じゃないか。みんな噂しているぜ。愛されなかった公爵令嬢の嫉妬劇は、今度はどんな展開になるだろうってな。話題の一環として俺が登場したって悪くないだろう。慰めてやるよ」
一体どこからそのような噂が流れるのだろう。
まさか、デニスが面白がって?
いや、彼は皮肉屋だが、そのようなことをする人間ではない。
妃殿下も、悔しいがそのようなことをする女ではない。そもそも、そのようなことができる器用な人間であれば、国を追放されるように他国に嫁がされるような結果にはならないだろう。
「一体どこからそのような噂を聞きつけたのか知りませんが、仮にそうだとしても、あなたと親密にになりたいと微塵も思わないわ」
「チッ。使い捨てられた女の癖に、お高くとまりやがって。捨てられたごみなんだ。少しくらい可愛げを出せばいいものを。そんなんだから、陛下はお前を選ばなかったんだろうな」
こんな取るに足らない男の言葉の毒が、全身に回っていく。
自分でも思わないようにしていた苦しみの中枢の部分を、無遠慮にナイフでえぐられたような感覚。
口から言葉が出てこなかった。
みんなそのように思っているのだろうか。
もしかして、名誉の挽回はできないのだろうか。
王妃になれなかったから。
他国の女に全てを奪われたから。
その彼女に嫌がらせもしたから。
エミリオンに必要ないと言われたら、国全体から見捨てられてしまうの?
視界がじんわりとぼやけていく。こんな男の前で泣きたくないのに。
「ヴィオラ」
私を呼ぶ声がして、振り返るとデニス・ジートキフが立っていた。
「……なんで、いるのよ」
「失礼だな。君の夫となる男だ。夜会に参加するのに、相手役としているのは当然のことだろう。今日の夜空のようなドレスは、君によく似合っているよ。とても綺麗だ」
デニスは、そっと私の腰に手をまわして、フィリシン男爵から距離を取らせた。
「今度はジートキフ家の若造と婚約しているのか! やはり金ばかりの女だな」
私を嘲笑うフィリシン男爵の言葉が聞こえているのか、いなかったのか。デニスは彼の言葉に反応しないまま、私の方へと視線を向けている。
「僕に会えて瞳をうるうるさせるなんて、ずいぶんと可愛らしい歓迎だね。今夜は、疲れているだろうから君の屋敷まで送るよ」
歩き始めるデニスに引っ張られるようにして、出口へと向かっていく。背後から、男爵の吐き捨てるような怒号が聞こえてきた。
振り返ると、いつの間に来たのだろう。伯爵家の使用人たちが、彼を押さえつけていた。
デニスに「あんな汚物の言葉を聞く必要はないから、耳でも塞いでいなさい」と言われて、守りに来てくれたのだとようやく理解した。
***
毛皮のコートを使用人から受け取って屋敷の外に出ると、雪が降り始めていた。
呼んだ馬車が目の前にやってきて、一緒に乗り込む。
馬車に乗っても、デニスは私から離れようとしなかった。
「デニス。もう大丈夫ですわ」
「そうだろうけど、僕が君を心配だから、もう少しこのままでいさせてくれないかい?」
ずるい言い方だと思った。
そのような言い方をされてしまったら、首を横に振る理由がない。
「ありがとう。怖い思いをさせてしまったね」
優しい言葉をかけられて、気が付けば涙がこぼれていた。
デニスは気にする様子もなく、私にハンカチをそっと差し出して、馬車に出発するよう指示を出した。
「どうしてですの? なぜ急にこんなふうに優しくするの? 分からないわ。なぜ、私と婚約したいのかも、どうして私に毎日会いに来るのかも」
あまりにデニスが私のみっともない姿を当然のように受け入れてフォローしてくるので、私は堪らなくなって、言葉が溢れ出して来た。
泣きながら言う私に、デニスは「それは、僕が君を好きだからだ。もう遠慮しないと言っただろう」と答えた。
「でも、私は、エミリオンに婚約破棄されて、妃殿下にも散々嫌がらせをした惨めな女だわ。噂だって知っているもの。愛されなかった公爵令嬢の嫉妬劇は、今度はどんな展開になるだろうって。余興としてはこれ以上面白いものはないって……」
言い始めると止まらなかった。
「正直に言って、どうして私に好きって言うのかも分からないわ。私は、私のことが嫌い。この国のために頑張ってきたのに、あれだけ苦しい思いをして頑張って来たのに、何も残せなかった」
デニスが両手を広げた。私は、飛び込んでいいのか分からなかったが、あまりにデニスが優しい表情で私を見ていたので、甘えてもいいかと、彼の腕の中におさまった。
デニスとこれほどまで近くにいたことがなかったが、甘くて優しい香りがするのだと知った。
「よしよし。自分の気持ちがちゃんと言えて偉かったね」
気持ちを受け入れてもらって、気持ちが解けていくのを感じた。
彼の胸元に顔を埋めながら、あふれ出す涙が止まらなかった。
「君が頑張ってきたのは、みんな知っているよ。厳しいお祖母様の教育を弱音も吐かずに頑張ってきたのも、王国の未来についてもしっかり考えて、向き合ってきたのも。そんな君だから、僕は好きになった」
「でも、あなたはいつも意地悪ばっかりしていたくせに。ずっと嫌われているのかと思っていたわ。今になって好きとか言われても分からないもの」
「その件に関しては、僕が全面的に悪い。どうあがいても手に入らない君を諦めるために、わざと距離を取ろうとしていた。君が傷ついていることまで考えられなかった。今後、君を傷つけるような真似は一切しないと約束する。今すぐに愛してくれとは言わない。だけど、僕に一度だけ頑張るチャンスをくれないかい?」
嘘をついているようには思えなかった。
私に触れる手が少し震えていたからだ。
好きな人に気持ちを伝えるのに、勇気がいることを私はよく知っている。
しばらくの間、私は呼吸を整えるために黙っていた。そして、一息ついたあと「…‥わかったわ」と答えた。
私の返事を聞くと、デニスの抱きしめる力が強くなった。
「よかった」
「デニス。私、涙で顔がぐちゃぐちゃですのよ。服が汚れてしまうわ」
「構わないよ。君が気持ちを吐き出すことで、僕を見るための準備をしてくれたんだ。服の一枚や二枚なんて、安いもんさ」
「でも……」
「ヴィオラ。好きだ、世界で一番」
デニスの愛の言葉を、私は彼の胸元にもう一度顔を埋めて聞いた。
デニスの甘い香りが、悪くないと思っている自分がいた。
***
正式に女官になる旨を伝えるために、ニックス城へと赴いた。
今さらかもしれないが、妃殿下と話をする前にエミリオンともう一度話をしたいと思ったのだ。
応接間へと向かうと、エミリオンがひじ掛け椅子に座って待っていた。背後には、オルテル公爵が立っている。私の様子をじっとうかがっているようだった。私によい印象を持っていないことは一目瞭然だった。
エミリオンは、私の姿を見ると「ここへ」と向かいに座るよう促した。
「失礼いたします」
「女官の件か?」
「ええ。承諾しようと思っているのですが、その前に陛下にお伺いしたいことがありまして。私が彼女にしたことや、陛下に働いた無礼をした人間なのにも関わらず、妃殿下の女官という立場につかせていただいてもよろしいのでしょうか?」
予想外の質問だったのだろう。エミリオンは一瞬驚いたような表情を浮かべていた。
「かまわない。サドルノフ公爵令嬢。あなたが、いなければ私の妻は悲惨な目にあっていたのだ。充分な働きをしてくれた」
「私が裏切る可能性があるかもしれないとは、考えないのですか?」
「ないな。あなたのことは、そういう人間ではないと思っている」
今度は即答だった。その反応の早さが私を幾分か安心させた。
「分かりました。妃殿下の女官になる旨、サドルノフ家の名にかけまして承諾させていただきます」
そのままジョジュ・ヒッテーヌのところへ向かおうと部屋を出ようとした時「ヴィオラ」とエミリオンから声をかけられた。
幼い頃の呼び方に戻っていたので、驚いて振り向く。
「本当に、ありがとう。心から感謝する」
エミリオンが手を差し出してきたので、私は戸惑いながらもゆっくりと手に触れて握手をした。
幼い頃、仲間外れにされていた私を引っ張ってくれた手。
私は、大きなその手をぎゅっと握りしめた。
「陛下と妃殿下の幸せを、ロニーノ王国の発展を、心から願っておりますわ」
真面目で一生懸命で、不器用に優しいところが好きだった。
あれだけのことをしたのに、まだ私を身内として受け入れようとしているお人よしなところは、ジョジュ・ヒッテーヌとよく似ているのかもしれない。
彼らの作る国が崩れないように、私にできることをしっかりやらなくては。素直にそう思えた。
今度こそエミリオンに別れを告げて、応接間から出て妃殿下のいる場所へ向かおうと歩き始めた時、廊下の先にデニスが立っていた。
「デニス。なぜ、ここにいるんですの?」
「君から話をしたいと言われたと、陛下本人から報告があってね。生真面目な王様は、婚約者である僕に心配させないようにわざわざ報告したつもりだろうけど、逆効果だ」
両手をあげて「アプローチするのと、付け回すのは違うってことは分かっているさ」と言い訳をしているデニスに、私は抱きついた。
「あなたの妻になるって、過去の気持ちに決別しに来たの。妃殿下の女官にもなって、あなたと一緒に彼らを支えるわ」
「そう。それは安心した」
はじめは私から抱きついてきたことに驚いていた様子のデニスだったが、ゆっくりと私を抱きしめた。
「私を愛してくださるのでしょう?」
「ああ、もちろんだ。一生かけて君を愛するよ」
「意地悪や皮肉で傷つけてきたら、今度は許さないから」
「君を手放すくらいなら、自分の性格くらいどうにか矯正するさ」
肩をすくめるデニスに「あなたがいてくれてよかったわ」と呟く。
すると「それは僕の台詞だよ」と、まるで繊細なものを扱うかのようにそっと唇にキスを落とされた。
優しくて、甘い香りがした。
この香りに囲まれて、愛されながら生きていくのも、悪くない。
そう思った。
『婚約破棄された公爵令嬢は、幼馴染の王族に溺愛される』
― おわり―
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