第39話 演者の数と配置が尋常じゃない
「仮面のお兄さん。少し、お話しない?」
「断る」
「えっ……効かない……」
一つだけ言い訳をしておくと、普段の俺であれば急に声をかけられても即断即決で断ったりなんかしない。
普通に戸惑って、普通に受け答えをするだろう。
しかしながら、俺は先ほどまでずっと由美さんとナインと話していたせいか、秘密結社のボスモードが抜けていなかったのだ。
まさしく痛恨の極み。
幼気な病弱少女に強い口調で返答してしまったのは、流石の俺も内心で反省……といきたいところだったが、どうにも俺は点滴スタンドを持つ少女の態度に違和感があった。
……効かないってなに?
聞かない、の間違い? 聞き分けが無い的な??
「……ふーん、やっぱりケーサツが異能者を匿ってる、ってウワサはホントーだったんだ」
俺は少女の核心的な言葉を聞いて内心で叫んだ。
────演者の数と配置が尋常じゃねぇ!!!
どうなってんだこの病院。丸ごと買収した? うそやん。
いや……病室にいるわけでもないし、ただ病人っぽい演者を用意した、って線もあるけど、バチバチに点滴の針がぶっ刺さってるように見えるんですが……。
「……ふむ、そういう君は何者かな? 随分と物騒な挨拶だが」
まるでボスラッシュのように立て続けに襲いかかるシナリオに、俺はワクワクと疲れが半々くらいの状態で再び秘密結社のボスモードに切り替えて思考する。
うーん、ほなさっきの効かないって発言は、俺に何かの能力を発動したって設定かな……と、厨二病の脳細胞がそんな結論を導き出す。
もしも間違っていても、シャルミナが用意した演者ならばすぐに意図に気づいてシナリオを修正してくれるに違いない。
厨二病たるもの
「……ホントに効かなかったんだ。やるねぇ、お兄さん。この異能が効かないオトコのヒトはいないはずなんだケド」
感心したようにニコニコと笑う少女。
線の細さといい、真っ白い肌といい、喋らなければ典型的な病弱少女……と言った感じだが、どうやら性格的にはギャルっぽい女の子らしい。
コロコロと変わる表情と仕草には、どこか男を惑わせるような妖艶さすらも感じる。……まあ俺はロリコンじゃないのでマジで何も感じませんけどね。
というかボスモードの時は如何なる誘惑も効かない自負がある。いや、内心ではめちゃくちゃに効いてるけど表に出すことは無いからセーフなのよ。
「申し訳ないね。しかしその代わりと言ってはなんだが、君のお話を聞くこともやぶさかではないよ」
「ふふ、聞き分けの良いお兄さんはスキだよ。私の病室においで。お兄さんには聞きたいことがあるんだぁ」
手招きして先導する少女に俺は大人しく付いていく。
結局病室あるんかい。……うーん、マジでどれだけ設備費が掛かってるのか領収書が欲しいところではあるんだがな……。
──シャルミナ、確定申告をしないか?
という冗談はさておき。
少女は少し歩くと、病棟の端っこにある病室に入った。
後に続けて入ると、そこは少し手狭ではあるが一人部屋の病室のようだった。
「ほら、お兄さんおいでよ」
「君のベッドを汚すわけにもいかないからね。私は立ったままで構わない」
「うーん、私
「……仕方ない。分かった」
俺は大人しく少女の言う通り、ベッドの縁に腰掛ける。
中学生っぽい女子のベッドに二人で並んで座る……なんとも犯罪臭がするが、こればっかりは許してほしいところである。
多分ゲームのNPC宜しく特定の行動を取らないと進行しないイベント的な気もするし……いやリアルにゲームの例えを出すのはどうかと思うが。
「ウワサでね。異能犯罪者を対処するケーサツが異能者とその関係者を匿った、っていうのを聞いたんだぁ。で、タブンお兄さんが話してたコが異能者でしょ?」
「違う、と言ったら?」
すると少女は口元に手を当ててイタズラな笑みを見せる。
「ふふ、ゴメンネお兄さん。もう裏取りはしてるんだ。意地悪な質問しちゃったね」
「……それを知っていて、なぜ私に近づいてきた?」
ふむふむ、もう知ってるけど本人、もしくは関係者に質問を投げかけるヤツね。セオリーだけど実行が難しいからあんまりやらんやつや。
にしても……この女の子、表情管理が死ぬほど上手いな!!
なんていうんだろ……すごい演技っぽさがあるんだよ。なのに、すこぶる自然体。
つまりどういうことかっていうと、演技してる演技をしてるってこと。
これはクソ難しいぞ、マジで。
だってそもそもが演技なんだから、どうしても言動と所作には演技らしさがある。どう足掻いても演技の中で自然体に振る舞うことは難しい。
なのに、この女の子はあくまで人間として自然体のまま、私は今演技してますよ〜……という仕草を表現しているのだ。
うーむ、逸材だ。どこから拾ってきたシャルミナ。
……そう考えるとシャルミナもナインもヤニおっさんも由美さんも、全員が全員自然体の演技を会得してるように見えるし、マジで俺の周り逸材しかいないな。
まったく……俺が浮いてないか心配だぜ……。
「もぉ、コワい顔しないでよ。あ、仮面で顔は見えないか。ふふふっ……」
「…………」
「むぅ、冗談の通じないお兄さんだなぁ」
俺が内心でひたすら女の子のことを褒めていると、いつの間にか話が進んでいるようで進んでいなかった。
なんかまだ沈黙できそうだから思考するか。
……ふむ、女の子が演技しているのは所謂男を惑わせる悪女のようなタイプだろう。仕草も声のトーンも大人っぽくて、簡単に近づけそうで……近づいたらトゲに刺さるような……そんなイメージ。
それを意識して演技しているように見える。
ま、これも演技に詳しい人間にしか分かんねぇと思うけど……日々の秘密結社ごっこで培った演技力と観察力が無ければ俺とて気づくことはできなかったに違いない。
「……はぁ、目的ね? いいよ話すよぅ。──単刀直入に言うと、人を探してるんだ」
「……人を?」
「うん、お姉ちゃんを。……お姉ちゃんもね、異能者なんだけどさ。私の病気の治療費を稼ぐために結構アブナイことしてるっぽいんだぁ。だから辞めさせたいの」
「……ということは、今は会っていないのか」
状況から推測して言うと、少女は目を伏せながら頷いた。
「三か月前くらいからかな。お姉ちゃんがお見舞いにも来なくなって、連絡も取れなくなったの。でも治療費だけは振り込まれてるみたいだから、無事なのは間違いないと思う。……だけど、今度はどんなにアブナイ橋を渡ってるんだろう、って思うと……私は……」
そこで少女はしまった、と言わんばかりにハッと目を見開くと、途端に取り繕った笑みを浮かべて俺の肩にしなだれかかってきた。
ふんわりと甘い香りと鼻腔をくすぐり、二の腕に柔らかな感触が広がる中、少女は俺の耳元で囁くように言った。
「ね、だからさ。お兄さんにはお姉ちゃんを探してほしいの。そのためなら、私なんだってするからさ。ほら、な・ん・で・も……良いんだよ♡」
……ふぅーー、なるほどね。今度はそういう感じか。
面白いじゃねーの。
俺はおおよそのシナリオを把握して内心でニヤリと笑う。
そして、しなだれかかる少女の手が僅かに震えている様子を見て────俺は少女を優しく引き剥がした。
「ぇ……」
絶望の表情を浮かべる少女。
俺はポンッ、と優しく彼女の肩を叩くと言った。
「夢があるんだ。──悲劇全てを壊し尽くすという夢が」
「……ど、ういう」
「大言壮語だと笑ってくれても構わない。だが私は、異能に限らず全ての悲劇が嫌いだ。悲劇に笑うクズが嫌いだ。だからこそ──目の前で泣いている少女を放って置くほど私は落ちぶれていない」
要はバッドエンドが嫌いです、ってこと。
シャルミナくんさ、なぜか異様に重い設定をぶち込んでくるからさ……ハピエンのし甲斐があるってもんよ(震え)。
多分激重設定がシャルミナの性癖だろうという予測を立てているから、それを壊しまくるのは若干申し訳ないところではあるんだけども、まあボスの一存ということで許してほしい。
そんな説明をしていると、少女は自分の目の周辺をペタリと触って、水滴が付かないことに疑問符を浮かべる。
「で、も……わたし、泣いてなんか」
せやな。
なんで俺泣いてるって思ったんだろ。
ええと……誤魔化すか。
「……きっと私の存在は、ようやく手に入れた姉への手掛かりだったんだろう。異能者と仲睦まじい様子で語り合う仮面の男──確かに、何らかの情報を持っていたとしても不思議ではない。だから、自身の心に嘘をついてまで必死に協力を頼むのは必然だ」
「自分の、心に……」
演技は自己防衛だと言われることもある。
本当の姿を取り繕うことで自己を確立する人もいる。
だがしかし、少女にとって演技とは手段なのだろう。そして、それが日常化してしまっている。
きっと少女は何の手掛かりもないまま姉を探し続けたのだろう。演技をして……嫌なことも嫌とは言えず、しなくないことをし続けて。
「──泣いているのは君の心だよ」
「──っ」
少女は何とも言えないぐちゃぐちゃな剥き出しの表情で、俺を睨みつけて言った。
「じゃあどうすれば良いの!? いつ治るか分からない病気を抱えて! 頼れる人はお姉ちゃんしかいない! そのお姉ちゃんすらも行方不明で……!! 『魅了』なんて望まない異能まで使って!! 全てに耐えてきた……ッ!! 私は……私はどうすれば良いの……?」
そりゃ君の心が泣いてるんだよ、とか意味分からんことを仮面の男に言われたらキレるよな。ごめんな。
あと設定が重いのは某シャルのせいですか。性癖ですね。
……にしても『魅了』か。
この力を病院内で使うことによって情報を集めてきたに違いない。……確かに由美さんが入院してるってことは、ここは例の女刑事が言っていた特異の伝手がある病院ということになる。
異能関係の情報を集めるならばベストと言ったところか。
んでもって『魅了』ってことは、恐らく異能を発動したとしても無条件で相手の言うことを聞くようになる……ってわけでもないんだろう。
男を惑わせる仕草とか行動だったりで、今まで情報を引き出してきたに違いない。それは演技し続けるに決まってるわ。
……うーむ、ここが病院なお陰で途轍もない危険な目に合うことなさそうではあるが、少女は見目麗しい女の子だ。何か変な奴を魅了しちゃってトラブルが起きる可能性も考えられる。
……さて、これが次の目的ですか、シャルミナさん。
少女の姉を探し、ついでに敵対組織をぶち壊すと。
まあ、きっとそれだけじゃないんだろうが……一先ず俺のやることは決まっている。
不意に俺は立ち上がると、少女の前で片膝を付いて視線を合わせる。……仮面のせいで合うのは一方通行だけど。
「君は『魅了』のせいで人を操ることを覚えてしまった……そうだな、じゃあ次は──『魅了』の効かない私に頼ることを覚えようか」
「…………え……」
「簡単なことだ。助けて、と。ただその一言で良い。演技じゃない君の心からの声を聞きたい」
少女は戸惑っているようにも見えた。
うん、初対面の怪しいヤツに助けてとか言えないよな。俺が逆の立場だったら十中八九詐欺だと思うもん。突然救いの手を差し伸べられるとか怪しいことこの上ないからな。
ただ、これまでの俺の発言が効いたのか、少女は演技の演技を解いて……おずおずと控え目に言った。
「……た、たすけて。お姉ちゃんを、たすけて……」
その言葉を聞いた俺はふっと立ち上がると背中を向ける。
そして、いつものように背中で語りながら答えた。
「任せたまえ。先ほど言ったように、私は悲劇が嫌いなんだ」
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書籍化に際して、続報などを近況ノートにも書いていこうかなとも思いますので、もしよろしければ画面下部より作者フォローのほうをしていただけると助かります。
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